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【作曲家診断チャート】第5弾!リヒャルト・シュトラウス編

先日、「作曲家診断チャート」を作成しTwitterに投稿したところ、思いがけずたくさんの反響をいただきました。みなさま、ありがとうございます!
あらためて解説も交えつつ、こちらにまとめたいと思います。
今回はリヒャルト・シュトラウスです。

リヒャルト・シュトラウスってどんな作曲家?

リヒャルト・シュトラウス(1864-1949)はドイツの作曲家、指揮者。ウィンナ・ワルツを作ったヨハン・シュトラウス一族とは関係ない
主に力を入れたジャンルは交響詩とオペラで、抽象的な概念より具体的な事物を音楽で表現することを得意としていた。例えば『家庭交響曲』という曲では、自身の家庭生活(夫婦の営みまで)を赤裸々に表現している。そこまでしなくても…
ちょうど世紀の変わり目あたりより前は交響詩、後はオペラというようにキャリアが分かれている。

リヒャルト・シュトラウス交響詩・オペラ 診断チャート

「リヒャルト・シュトラウスってとっつきにくい!」「たくさんあって何から聴けばいいかわかんない」「え、ウィンナ・ワルツの人じゃなかったの?」
そんな声に勝手に応えるべく、診断チャートを作ってみました。
あなたにぴったりのリヒャルト・シュトラウスはどれでしょうか?
では早速診断してみましょう。Let’s Go!

あくまでも作者の独断と偏見に基づくものです。曲探しの参考程度にしてください。

解説

放蕩遍歴の音楽化!『ドン・ファン』

好色な伝説上の人物「ドン・ファン」を描いた交響詩。
理想の女性を追い求めて数々の遍歴を重ねるが、その思いは満たされず失意のうちに終わる。冒頭の駆け上がるような音型は主人公の情熱を表しており、変化しながら何度も登場する。
彼の出世作で17分ほどで短めだが非常に充実している。


壮大なプロセスを堪能!『死と変容』

自身の病の体験をもとにした交響詩。病人が「死」との戦いに敗れるが、浄化され来世に「変容」を遂げるという内容。
標題はあまり重要な意味を持たず、クラシック音楽ならではの構築性や時間性を堪能すれば良いんじゃないかな。

チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィルの演奏が圧倒的である。通常より長い30分をかけて演奏されるが、遅いと感じることは全くないはず。


コミカルで楽しい!『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら』

中世ドイツの伝説上の人物「ティル・オイレンシュピーゲル」を描いた交響詩。
冒頭と末尾に語り手のテーマが現れる。いわば「むかしむかしあるところに…」で聴き手を物語の世界へ誘う効果があり、『真夏の夜の夢』や『シェエラザード』でも同様の手法が使われている。
15分ほどの短い中に次々とエピソードが展開され、場面を想像しながら楽しめる。

マゼール指揮バイエルン放送交響楽団による演奏は、デフォルメたっぷりで楽しい。


本当にニーチェ読んだ?『ツァラトゥストラはかく語りき』

ニーチェの有名な著作をもとにした交響詩。しかし、その思想を表現したわけではなく、描写的な部分をいくつか選んで曲にしたに過ぎない。
これもあまり標題にとらわれず、音楽の構築性を楽しむのが良い。変則的なソナタ形式である。
キューブリックの映画『2001年宇宙の旅』で冒頭の音楽が使われ有名になった。


小説の音楽化!『ドン・キホーテ』

有名なセルバンテスの小説をもとにした交響詩。激安の殿堂ではない。
独奏チェロがドン・キホーテを、独奏ヴィオラがサンチョ・パンサを表現した協奏曲風の作品である。
様々なシーンが次々と展開されるが、いかんせん小一時間もかかるので飽きる。本人はまったく意図していないはずだが、滑稽なドン・キホーテの姿は作曲者自身かもしれないとすら思う。

ロト指揮ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団による演奏は、飽きずに楽しめる稀有な例。


履歴書の音楽化!『英雄の生涯』

本作が最後の交響詩。自身を英雄に見立ててそれまでのキャリアを総括した内容である。
しかし、彼は死ぬわけでも引退するわけでもなく、これからオペラ作曲家として新たなキャリアをスタートする。
たしかにテーマはB級だが、あまり標題にこだわらずオーケストラの響きを楽しめばA級の作品。


ヨカナーンの首が欲しい!『サロメ』

オスカー・ワイルドの戯曲をもとにしたオペラ。
少女サロメ(ザロメ)が洗礼者ヨハネ(ヨカナーン)の首を求める、という阿部定事件のような内容を持つ。
100分とオペラとしては短いが、緊張感のある濃厚な表現がぶっ通しで続く。
主人公がヴェールを一枚一枚脱いでいく「7つのヴェールの踊り」が特に有名。
しかし、最近は「脱がない」演出がほとんどであり、例えばペーター・コンヴィチュニー演出は東京でも上演され話題となった。こうした変更は積極的に行われるべきだろう。

テンシュテット指揮ロンドン・フィル、ノーマン(ソプラノ)による抜粋版。全曲は長いという人はまずこちらからどうぞ。


復讐こそ我が命!『エレクトラ』

ソフォクレスのギリシャ悲劇をもとにしたオペラ。
本作から劇作家ホフマンスタールと組んで、数々の名作オペラを生み出すことになる。
こちらも100分ぶっ通し。ヒステリックな絶叫やオーケストラの大音量が続き、内容も陰惨なため、けっこう辛いかもしれない。


諦念に満ちた美しさ!『ばらの騎士』

モーツァルトの『フィガロの結婚』を意識した、ホフマンスタールのオリジナル台本によるオペラ。
本作ではこれまでとは変わり、喜劇的な内容で3幕構成となっている(とは言え、全体で3時間半かかるが)。
露骨なセックス描写から始まるが、最後の三重唱は大変美しい。

カルロス・クライバー指揮バイエルン州立管弦楽団による演奏はもはや伝説。録音・映像は複数あるが、これが最も完成度が高い。

プレヴィン指揮ウィーン・フィルによる組曲版。全曲は長いという人はまずこちらからどうぞ。ウィーン・フィルの陶酔的な美しさが堪能できる。


コント仕立ての知的遊戯!『ナクソス島のアリアドネ』

前半は無理難題を押し付けられる作曲家の楽屋騒動、後半は無理難題を反映してできたオペラ上演(タイトルはこの劇中劇のこと)という構成のオペラ。
アンジャッシュの「漫才にスポンサー」というコントに似ている。
小編成のオーケストラで軽妙な雰囲気を持ち、全体的に知的な遊びといった印象。なので意外と難しく、満足できる上演はなかなかない。


産めよ増やせよ!『影のない女』

モーツァルトの『魔笛』を意識したメルヘン的なオペラ。
あれこれ小難しい寓意が込められているが、要するに倦怠期の二組の夫婦が試練を経て仲直りするというもの。
音楽的には素晴らしいという意見もあるが、「夫婦にとって子供を授かることが至上」というメッセージ性があまりにもひどい。現代において、ト書きに忠実な本作の上演がなされたら暴動が起きてもおかしくないはずだが…


崩壊を予感させる甘美さ!『アラベラ』

ホフマンスタールとのオペラはこれが最後
ウィーンを舞台に没落貴族の娘とハンガリーの大地主の恋模様が描かれる。
リヒャルト・シュトラウス版ウィンナ・オペレッタのような趣で、切なさと賑やかさが同居する。『ばらの騎士』などに比べると地味だが、きらりと光る儚い美しさが魅力。モノクロの恋愛洋画のよう。
ちなみに第3幕冒頭ではセックスが音楽で描写される。またかよ!


まとめ

以上、リヒャルト・シュトラウスの解説でした。
とにかく器用で筆の立つ彼。音楽に深い精神性を求めると不満を覚えるかもしれませんが、彼の音楽を抜きにクラシックとオペラは語れないでしょう。

いかがでしたでしょうか?みなさまが少しでもリヒャルト・シュトラウスに興味を持ち、その作品に触れるお手伝いができたのなら幸いです。


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