自殺を思いとどまらせた言葉とは・・・
以前、noterルカさんの書いた記事を読んでとても感動したことがありました。
お友達の息子さんが、就職して3ヵ月後に会社を休み連絡が取れなくなり、心配した母親が必死で探すと、昔旅行した九州で見つかった話でした。
息子さんは自殺を考えて九州まで辿り着き、ある飲食店に入ったところ、ご主人から声をかけられて自殺を思いとどまることが出来たそうです。
九州の端にある飲食店には人生の終わりを決めて来られる方が時々あって、店主はそんな時、声をかけ話を聞き泊めてあげることが今迄にもあったそうです。
この話を読んでからと言うもの、飲食店のご主人がなんて声をかけたのだろうと気になって仕方ありませんでした。
お母さんに感謝の気持ちを伝える最後の電話もし、もう終わりにしようと心に決めて辿り着いた九州で、人と話をしただけで自殺を思いとどまり再び生きて行こうという気持ちになった言葉とは何だったのだろうと。
そこで、自殺をしようと思った人が思いとどまった実話を集めた本はないかと、図書館へ探しに行きました。
司書の皆さんが色々と探してくれた中で見つかったのが、「自殺する私をどうか止めて」という本です。
死にたい人からの相談を受けるボランティア団体、自殺防止センターを設立した方による相談者たちとの交流を綴った本でした。
「自殺する私をどうか止めて」
著者 西原 由記子
2003年 発行
ある青年の自殺を機に自殺防止活動を始めて以来、25年にわたり電話相談を受けている著者が、相談者や遺族たちとの胸を打つエピソードを通じて、自殺防止と遺族のケアの必要性を訴えた本です。
この本を読んで、私の考えが最初から間違っていたことが分かりました。
自殺を考えている人を思いとどまらせたものは言葉ではなかったのです。
本気で話を聞いてくれることでした。
自殺防止センターでは、人の話を聞く練習を重ね、しっかり話を聞くことが出来るようになった人しか活動できない事になっています。
自殺という大変な状況が迫っている人から話を聞く時、私達はどうしてもその人を救う言葉を探してしまいがちです。
話を聞きながら、知らず知らずにこちらが返す言葉を考えているのです。
すると、話を聞くことに集中していないことが瞬時に相手に伝わり、電話を切られてしまうことがあるそうです。
なんとか自殺を思いとどまらせようと、「自殺はしないで下さい」なんて言うはもってのほか。
相談者がほしい言葉は、「自殺したいほどつらいのですね。」とういう共感でした。
生きることがとても困難になり、「どうしたらよいのでしょうか?」と相談される時、
「こうしたら? ああしたら?」と、こちらの意見や考えを話しても、「それはもうやった。」などと言われ話が進まないことがあります。
どうアドバイスして良いのか分からなくなった著者が友人に相談したところ、
「相談に乗る人が、どうしたらいいのか考え始めると負けだね。」と言われました。
相手に変わってなんとか解決策を考えようとしている自分が、なんと傲慢だったのかと思い知らされたそうです。
実は答えは全て相手が持っているのです。
相談者はただ相手の話を一生懸命聞いてあげること。
話を聞く中で相手は自分で答えを見つけていく。
聞くだけ。それだけでいいとの事でした。
同じことを最近他の本でも目にしたばかりでした。その本とは、「モモ」
児童文学の傑作と言われているミヒャエル・エンデさんの作品です。
主人公のモモは、人の話を聞く天才です。
モモの場合、本当に一切口をはさまずに話を聞きます。
聞いているだけなのに、なぜか悩み事を解決してくれる人として皆に頼りにされ、何かあるとモモに相談に行くというのがみんなの合言葉になっていました。
話を聞くだけで、自然とその人が解決方法を見つけるのです。
自殺防止センターでの事例と、「モモ」から分かるように、アドバイスなんて全く考えずに、その人の気持ちに寄り添って一心に話を聞くということが、いかに大事かということが分かりました。
聞いてもらうことが人生を変えるくらい大きな力になるということは、私達がいかに話を聞けない生き物なのかということです。
聞くということは本当に難しく、たくさんの訓練を必要とする技術なのだと分かりました。
とは言っても、親しい人にはなかなか本心を口にすることが出来ません。
本当に辛いことはなかなか言えないものです。
九州の飲食店のように、偶然の出会いを大切にし、初めて会った人に心から寄り添う思いやりが大切なのだとも感じました。
偶然の出会いは、もしかしたらその人の人生を変えるかもしれない。
そのことを忘れずにいようと思います。
この人には何でも話せるという信頼関係を築くには、日頃からきちんと話を聞くことが大事です。
恥ずかしながら、私はよく家族から話を聞かないと注意されています。
体力がないので、どうしても人の話を聞くとき省エネモードになってしまい、脳の疲労をおさえようとしてしまいます。
記憶力も年々落ちて、「それは前に言った」と言われることが多くなりました。
つい口を挟んでしまうこともよくあります。
いつも笑ってごまかしていたけれど、これは致命的な欠点です。
もっと聞くことを真剣に考えて、聞く力を育てていきたいと思います。
来年はもう少し話を聞ける人間になっていますように…。