谷崎潤一郎の『彷徨』を読む モラトリアム作家・谷崎潤一郎
『彷徨』は未完の作品である。主人公・猪瀬弘は羽前國新庄出身の学生で元神童にして餓鬼大将、兄弟はいない。上京して一高に進み、向岡の寄宿舎に住み勉学に励むも、翌年春、体を壊してしまう。そして考える。
一読して『彷徨』の主題はこの一言に尽きているかのように思える。友人らとの交際、帰省先での家族とのやり取り、避暑地での幼馴染とのやり取り、それらの出来事はさしたる事件も生まず、大きな喜怒哀楽もない。無論文体はずいぶん違うが現代に材を取った分表現は軽やかで、肺病みの堀辰雄がヤオイを試