音羽居士

有名な小説や物語に定番の解釈があります。違った見方もありますが、大勢にかき消されていま…

音羽居士

有名な小説や物語に定番の解釈があります。違った見方もありますが、大勢にかき消されています。私もYouTubeで、「音羽居士」の名で考えを発表してきましたが、残念ながら塵芥動画となっている状態です。定番の解釈に一矢を報いたく、この場をお借りして私の解釈を発表させていただきます。

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謎解き『杜子春』(1) 大人のための芥川『杜子春』と李復言『杜子春伝』

〈目次〉 1 はじめに 2 芥川『杜子春』のあらすじ 3 芥川『杜子春』の疑問点 4 李復言『杜子春伝』のあらすじ 5 二作品の設定の比較 6 老人が杜子春を援助した理由 7 鉄冠子の謎とその解明(その1) 8 鉄冠子の謎とその解明(その2) 9 大人のための小説『杜子春』 10 現代人のための小説『杜子春伝』 11 終わりに 1 はじめに  今日は、芥川龍之介の童話『杜子春』とその原作である唐代伝奇『杜子春伝』について、お話ししたいと思います。  私が初めて芥川の『杜子春

    • 古典擅釈(2) 思ふこと いはでぞただに やみぬべき われとひとしき 人しなければ 『伊勢物語』②

       『伊勢物語』は愛の短編集です。  有名な部分ですが、中から二話、紹介します。     「芥川」(第六段)  昔、男がいた。  自分とは釣り合わない高貴な女性に、幾年にも及んで求婚し続けてきたが、ある夜、大胆なことに女を盗み出して、暗闇の中を逃げてきた。  芥川という川のほとりを、女を連れて行くと、草の上に置いた露が光るのを見て、女は「あの光るものは何」と男に問うのであった。  逃げ行く先はまだ遠く、夜もすっかり更けてしまった。  男は、そこが鬼の住む所だとも知らなかった。

      • 古典擅釈(1) 思ふこと いはでぞただに やみぬべき われとひとしき 人しなければ 『伊勢物語』①

        ――若い頃、古典を読むことで気を散じていました。その際、書き散らした駄文がいくつかあります。誰かに読んでもらうというつもりもなく、ただ自分のために書いていました。それらを古典擅釈と題して、順次披露させていただきます。青臭い表現や浅い解釈がありますが、御寛恕いただければ幸いです。――  『伊勢物語』は愛の古典です。  在原業平と目される「昔男」の、元服から臨終までの、愛の軌跡を描いた名作です。  百二十五の小段から構成され、それぞれに必ず歌を添えており、文学史では最古の歌物語

        • 奇妙な体験(5) ――「引き裂かれた心」に連れられて――

           大学は2月26日に二学期が始まりました。  3月1日の朝、朝御飯を食べに宿舎を出たところで、偶然D先生に出会いました。  お子さんを連れてのご出勤で、この後大学内の幼稚園に預け、そのまま仕事につくのでしょう。  D先生に「今日、仕事はあるか」と聞かれたので、「ない」と言うと、「これからA先生の見舞いに行くが一緒に来ないか」と誘われたので、「喜んで行く」と答えました。  あれから彼がどうなったのか、風の噂では病院からの脱出を試みてベッドに縛り付けられた、みたいな話も聞いていた

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        • 古典擅釈(2) 思ふこと いはでぞただに やみぬべき われとひとしき 人しなければ 『伊勢物語』②

        • 古典擅釈(1) 思ふこと いはでぞただに やみぬべき われとひとしき 人しなければ 『伊勢物語』①

        • 奇妙な体験(5) ――「引き裂かれた心」に連れられて――

          奇妙な体験(4) ――「引き裂かれた心」に連れられて――

           留置場と精神病院。  人生で今までに経験したことのない世界を、異国で一晩に2つも経験することになりました。  2つともあまり関わりたくない世界ではありますが、それほど嫌悪感はありませんでした。  自分自身が悪いことをしたり、狂ったりしたわけではないからだと思いますが、一つは友人のために何とかしたいという気持ちが強かったのだと思います。  偽善めいた言い方ですが……。  恐怖や不安は全くと言っていいほど感じませんでした。  翌朝は5時半ごろに目が覚めました。  睡眠時間は

          奇妙な体験(4) ――「引き裂かれた心」に連れられて――

          奇妙な体験(3) ――「引き裂かれた心」に連れられて――

           翌、旧暦1月1日の朝にA先生からメールで、「昨日は申し訳なかった。夜10時20分に友達宅に着いた」という連絡が来ました。  私は「心配したよ。でもまあよかった。今度また一緒に飯を食べよう」というメールを送りました。  その返事は来ませんでした。  その翌日は、私は楚河漢街まで散歩に行くなど、気楽に正月気分を味わっていました。  楚河漢街というのは、武漢にある人工河川「楚河」沿い約2㎞にわたって建設された、複合商業施設が立ち並ぶ「漢街」という名の町のことで、建物は中華民国時

          奇妙な体験(3) ――「引き裂かれた心」に連れられて――

          奇妙な体験(2) ――「引き裂かれた心」に連れられて――

           7階について私たちはエレベーターを降りました。  薄暗くて狭い廊下があり、目の前に4つの扉がありました。  中国らしく、どの家の扉の前にも赤い対聯が貼ってありました。  さて、どの部屋かなと思っていると、彼は電気の消えた薄暗い廊下の片隅でじっと固まっています。  どうやら、どの部屋であったかを忘れてしまったようです。  私は仕方がないので、彼が思い出すのを待っていました。  4軒しかないのだから、順番にノックしてみたらよさそうなものですが、まあ彼に任そうという気持ちでした。

          奇妙な体験(2) ――「引き裂かれた心」に連れられて――

          奇妙な体験(1) ――「引き裂かれた心」に連れられて――

           2018年2月15日のことです。  私は前の年の9月から、中国の湖北省武漢にある大学で日本語教師として勤務していました。  内陸の都市武漢も、この頃は新型コロナが大流行する前で、その名を知る人は多くはなかったようです。  コロナ流行後の武漢はその発祥の地としての不名誉な名を世界に知られましたが、人口1000万を数え、高層ビルが林立し、夜には煌びやかなネオンが彩る巨大都市であることに驚いた方もおられたことでしょう。  町の中心を長江が流れ、唐詩で有名な黄鶴楼が聳え立つのも、こ

          奇妙な体験(1) ――「引き裂かれた心」に連れられて――

          漢詩自作自解③「代少壮詠羈旅」

           2020年1月中旬、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な感染拡大が明らかになりました。  当初は何が起こったのか判然とせず(今も判然としていませんが)、目に見えない恐怖に襲われるような感じがありました。  その前年の12月、私はまだ武漢にいたのですが、周囲にはすでにどことなく異様な雰囲気が漂っていました。  私たち外国人教師には何の連絡もなかったのですが、学生たちには「繁華なところへやたらと出るな」というお達しがあったようです。  政治的なことや歴史的なこ

          漢詩自作自解③「代少壮詠羈旅」

          漢詩自作自解②「登老君山」

           2020年6月26日、張冬晢君から三枚の写真とともにメールが送られて来ました。 「老君山の山頂にたどり着いたよ。金閣寺みたいだろう?」  老君山というのは、河南省洛陽市の南西にある山で、標高2217m、伝説によれば道家の始祖老子(李耳)が晩年この山に隠棲、修練したとのことです。  北魏の時代に山頂に老君廟が建てられ、唐の時代(637年)に太宗(李世民)が「老君山」と名付けました。  私もネットで老君山について調べてみたのですが、「天下無双の聖境」「世界第一の仙山」の名にふ

          漢詩自作自解②「登老君山」

          漢詩自作自解①「湖北大送張冬晢之北京」

           私は2017年9月から湖北省武漢にある湖北大学で日本語を教えていました。  2020年1月に一時帰国したのですが、例のパンデミックが起こり、中国への再入国がかなわなくなりました。  その二年半ほどの間、私は大学キャンパス内にある外国人教師の宿舎に居住していたのですが、その間、心やりに漢詩を作っていました。  今回ご紹介する詩はその最初の作品で、2018年4月に作ったものです。  自作の漢詩といっても、実は李白の有名な詩、「黄鶴楼送孟浩然之広陵」のパロディです。  私の友

          漢詩自作自解①「湖北大送張冬晢之北京」

          謎解き『舞姫』⑭(森鷗外)《補説》相沢謙吉という男

           森鷗外は「舞姫論争」を「相沢謙吉」の名で行いました。  つまり、相沢は豊太郎の手記を読んだという設定です。  これはかなり大胆な設定ではないでしょうか。  相沢は当然、手記の結末「されど我脳裡に一点の彼を憎むこゝろ今日までも残れりけり」も読んだことになるからです。  しかし、相沢はこれに怒るわけでもなく、豊太郎のために気取半之丞に反論していることになります。  これはどういうことでしょう。  ひょっとして、相沢は豊太郎のエリス救済計画を知っていたのではないでしょうか。  

          謎解き『舞姫』⑭(森鷗外)《補説》相沢謙吉という男

          謎解き『舞姫』⑬(森鷗外)――「まことの我」に目覚めた豊太郎――

          8 「まことの我」に目覚めた豊太郎  『舞姫』は決してクズな男の話ではありません。  ただ、天方伯や相沢への裏切りに不快を感じる方もおられることでしょう。  しかし、人はいつも100%正しいことだけを選択しながら生きているわけではないですし、まして豊太郎の場合は追いつめられた状況にあったのです。  100%善の行為と100%悪の行為との選択、というような勧善懲悪的な文学観は、豊太郎の当時でさえすでに乗り越えられようとしていました。  『舞姫』はエリートの自己正当化の話でもあ

          謎解き『舞姫』⑬(森鷗外)――「まことの我」に目覚めた豊太郎――

          謎解き『舞姫』⑫(森鷗外)――豊太郎は断じて「クズ」ではない――

          7 豊太郎は断じて「クズ」ではない  さて、今までの考察に同意していただけたなら、豊太郎が「クズ」ではないことにも同意していただけるのではないでしょうか。  しかし、それでもまだ豊太郎の言い訳がましさを快く思わない方もおられることでしょう。  確かに、豊太郎の告白の中には責任転嫁や自己弁護と思われるところが多々あります。  例えば、エリスの手紙を読んで、初めて自分の置かれている立場を自覚したところ。  愛か仕事かという二者択一の問題にすり替え、読者の同情を誘うような書き方をし

          謎解き『舞姫』⑫(森鷗外)――豊太郎は断じて「クズ」ではない――

          謎解き『舞姫』⑪(森鷗外)――舞姫論争における鷗外の忍月批判――

          6 舞姫論争における鷗外の忍月批判  豊太郎の「エリスとその子を日本に呼び寄せる」という決意は、作品の中に全く書かれていません。  しかし私は、豊太郎は手記の中でその決意の痕跡をとどめたと考え、その根拠を四点挙げました。  もう一点、舞姫論争における鷗外の発言の中にも、ほんのわずかではありますが、その根拠を求めたいと思います。  彼は石橋忍月との「舞姫論争」の中で、次のように言います。  ――太田生は真の愛を知らず。然れども猶真に愛すべき人に逢はむ日には真に之を愛すべき人物

          謎解き『舞姫』⑪(森鷗外)――舞姫論争における鷗外の忍月批判――

          謎解き『舞姫』⑩(森鷗外)――豊太郎が真意を語らなかった理由――

          5 豊太郎が真意を語らなかった理由  この手記の目的、それは「人知らぬ恨みを消すこと」です。  「人知らぬ恨み」とは何でしょうか。  それは身ごもった上に発狂したエリスをドイツに残してきたことへの悔恨です。  エリスが身ごもったことも発狂したことも、元をたどれば豊太郎の思慮のない言動により引き起こされたことです。  何としてもエリスを救い出さねばなりません。  しかし、豊太郎は、エリスを捨てることを条件に帰国と復職が認められました。  彼の決意は公表できることではありません。

          謎解き『舞姫』⑩(森鷗外)――豊太郎が真意を語らなかった理由――