計画のパラダイム転換: 未来を描くための経営計画とチームの成長
若いころ、それはそれはブラックな会社で、ソフトウェアの開発をしてました。体力は今よりあったからよかった(?)のですが、いくら寝泊まりしても仕事が終わりませんでした。とはいえ、それは仕事の技術が低かったからです。ある時、この余裕のなさは段取りの問題だと気づき、エクセルでスケジュール表を書くようになりました。そこからうまく仕事がまわせるようになった記憶があります。やることが可視化されるので心理的な余裕が生まれるし、先回りした準備も可能になるからです。
とはいえ、それも思い返すとこなすためだけのスケジュール表だったように思います。納期や成果物は明確だったので、タスクを分解して組み立てて、粛々とこなすだけです。多くの場合、計画というとこのような段取りごとのために立てるものという認識だと思います。
経営計画の場合はどうでしょうか。もちろん、その年度ごとの成果目標は決まる、ないしは、決めざるを得ませんが、そもそも永続的に成果が出る状況をつくることが経営の目的です。そのため、大きく北極星としてのミッションをおいて、当面目指す山の頂をビジョンとして描き、その山をどのように上るのか、ルートはどうするのか、マイルストーンをどこに置くのか、何を持っていくのか、何人でいつまでに行くのか…といった計画を立てることになります。
ミッション→ビジョン→計画…この発想は間違いなく大切です。一方で、いつも十分ではないなと思うのは、登る過程でチームを育てていくという観点です。特にコンサルタントとして、実行段階をお手伝いしているとそう感じることが多いです。計画に対する進捗報告とそのリカバリー目標が掲げられるだけになりがちだと思います。経験から何を学んだのかが足りないケースが多いです。
そこで、経営計画の四半期レビューなどのご支援をするケースでよくお願いするのは、「やったこと」「わかったこと」「つぎやること」を明確にしましょうということです。一部では、頭文字をとって「YWT」などと呼ばれています。
日々、私たちは「つぎやること」に追われます。結果として四半期レビューをやると「やったこと」から「つぎやること」が導き出されるだけになります。俗にいうPDCAならぬ、PDPDです。やった結果、何が「わかったのか」を深掘りすることでチームを育てることができます。
このとき、「わかった」もいくつかの種類があります。
よくあるのは、ルートが良かったのか、悪かったのか、持ちものが足りていたのか、体制が十分だったかなどHowに関するものです。これだけだとゴールとタスクが書き換えられるだけになります。
大切にしたいのは、次の二つです。
一つは、互いの強みや考え方を「わかる」ことです。チームとして、計画を描いて進むわけですが、単にできた、できないを一喜一憂するのではなく、お互いに対する期待値を更新します。この手の評価、ないしは評判は、水面下で起きがちですが、レビューの場で「Aさんの意外な強みが分かった、次はこれを期待したい」といった発言を促していきます。最初はリーダーから伝えても良いですが、徐々にメンバー間で行えるようにしていくとチーム力が高まります。
もうひとつは、自分たちが目指していることが、どれだけ価値があるものなのかを「わかる」ことです。北極星としてのミッションがあり、当面目指す山としてビジョンがあるとしても、それは言葉で定義したものです。チームメンバーのそれぞれが描いていることの解像度が異なります。「やったこと」を振返った生々しい感覚を踏まえて、目指そうとしていることの意義を改めて語り合うのです。
世の中がどんどん変化していくなかで、経営計画を立てる意味はあるのか、まして、10年先、20年先なんて分かりようもないのに、無駄じゃないのか…そんな声も聞きます。これは、タスクをこなすためだけに計画があると考えているからです。計画を立てることの大切な意義は、変化していくことを前提として、事業に参加するメンバーの異なる強みや価値観をすり合わせて、一人ではなしえないであろう未来を見出すことにあります。
コロナ禍に代表されるここ20年のうちに起こった想定外を踏まえれば、こなすためではなく、未来を描くための計画というパラダイムへの転換がますます求められているのではないかと思います。
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