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世の中が「カルチャーフィット」から「カルチャーアド」へ移行している理由とその切り替え方

LAPRASでHRをしている@320kzcdです。

LAPRASでは2020年、COVID-19の影響でフルリモート組織に切り替えた際に「カルチャーフィット」から「カルチャーアド」に方向転換しています。

「カルチャーフィット」での採用をやめ、「LARPASらしさ」にこだわり過ぎないようにしています。

当時は明言していませんでしたが、カルチャーアドの機運が高まりつつあることもあり、どのように切り替えるのか知見を共有するため記事にします。

1. カルチャーアドとはなんですか?

「カルチャーアド」とはカルチャーを固定化せず、組織のPurposeのためにカルチャーを「意図的」に進化させていく取り組みを言います。

例えば、カルチャーが違うという理由で採用を見送ったり、自分たち「らしくない」という理由で本質的な取り組みを避けるのは、カルチャーアドではありません。

カルチャーアドに関する参考記事

世界的な潮流として、カルチャーフィットでは革新的なアイディアや根本的な課題解決が生まれず、多様な人材のパフォーマンスを活用しきることができないと考えられています。

Culture Fit と Culture Addの違い

2. なぜカルチャーアドに移行しなくてはならないのか?

端的にいうと、カルチャーフィットのメリットよりデメリットの方が大きくなってきているためです。

単純なビジネス、狭い市場、画一的な価値観のなかでは、カルチャーフィットはコスパの良い選択肢でした。固定化されたカルチャーに基づいて余計なことを考えず、同質性を高めていくことでビジネスは成長できていました。

価値観が多様化、グローバル化、情報の透明度・流通量が増し、様々な文化・属性・状況に応じる必要が出てきたなかでカルチャーフィットを重視するメリットは薄くなり、デメリットは増えました。

具体的な例をいくつか挙げてみます。

部屋の中の象に気が付かない

「らしさ」にこだわる社風のなかでは、本当に手を付けるべき課題が見過ごされることがあります。例えば、ハードワークを美徳をするカルチャーにおいて自動化や効率化を軽視して努力で何とかしようとする。あるいは、テクノロジーを重視するあまり、人がやったほうが効率的なものもテクノロジーで解決しようとする。既存事業のビジネスモデルにこだわりすぎるなどです。

「我々らしいから」という視点は、それ以外の可能性を覆い隠します。そして強固なカルチャーは、客観的な意見・異論をたとえ妥当であっても「わかっていない」と扱いがちです。

外部環境が目まぐるしく変化し、プロダクトやサービスの状況も変わる中、カルチャーアドは新しい視点を取り入れ、Purposeを達成するためにより良いカルチャーに最適化していくために重要なのです。

変革を生む人材が活躍できず退職する

カルチャーフィットを重要視する環境では、そのカルチャーに馴染まない異文化の人材は孤独感を感じることになります。居場所がないと感じた人材は意欲的な人材ほど退職しやすいでしょう。

引く手あまたな人材は、客観的な視点や合理的な判断を好みます(外部からの選択肢が多く提示されるため)。自社が固定化された非効率な意思決定を続けていると感じるとモチベーションの低下は避けられません。

海外ではタレントマネジメントの観点から、マネージャーはチームメンバーをXX%以上チームに留め続けなくてはならないという数値目標を課せられる企業もあります。

合理的かつ健全なカルチャーが育まれ続けることによってタレントを引き留めるためにもカルチャーアドを続ける必要があります。

採用ターゲットが減少する

カルチャーフィット採用では、本当はPurpose達成に貢献できた人材を採用ターゲットから外してしまうことがあります。採用が事業成長にとって重要と言われている中でこれは致命的な問題です。

昨今のグローバル企業では、多様な人々(様々な文化、状況、個性など)をどうやってチームとして活かしきるかというテーマが議論されています。

カルチャーアドを進めて行くと、国籍・性別・年齢・居住地・特徴などのあらゆる違いを活かしきり、組織に貢献してくれるタレントの採用とカルチャーの進化を遂げていくことができます。

3. そもそもカルチャーとはなんですか?

東京大学FoundXのディレクター馬田隆明さんのスライドで大変わかりやすい説明がなされています。

このスライドのなかで、カルチャーは「庭」と表現されています。構造物のような固定化された観点ではなく、「我々はこうありたいね」という共有化された仮説です。よいカルチャーは自律的で質の高い意思決定を促し、チームに調和をもたらします。

注意すべき点として、カルチャーアドは既存のカルチャーを破壊しろと言っているわけではありません。より良いカルチャーへの進化を「意図的」に行うのがカルチャーアドです。

4. カルチャーアドにはどのように切り替えればよいですか?

カルチャーは成長させるものだと共通見解を示す

カルチャーは固定的なものではなく、より良くするために健全に育んでいくものだと共通認識として持ちます。組織の責任者が公的に明言し、文書として残します。そして、実際に新入社員や既存メンバーが持ち込んだ新しい視点を前向きに検討していくことで根付いていきます。

カルチャーではなく、バリューフィットで採用する

カルチャーが「こう在りたいという仮説」だとしたら、バリューは「進め方の方針」です。進め方の方針をバリューで示し、サブセットとして具体的な事例を示していきます。

採用では、バリューへの適性やサブセットが遂行できそうかという観点で見極めるべきです。

バリューとサブセットの関係を「庭」で例えるならば、バリューは「日当たりを良く保つ」、サブセットは「影になる枝を毎週剪定する」「機材・障害物を必ず倉庫に片づけ影を作らない」などでしょうか。これを組織に置き換えるならバリューは「透明性を保つ」、サブセットは「特定の情報以外は公開情報で扱う」「指示は作業内容ではなく意図や状況を伝える」といったイメージです。

GitLabのValueとサブセットが非常に参考になります。

多様性を尊重するルールをつくる

異なるカルチャーを尊重するために、全社員に対してダイバーシティ&インクルージョンの基本的な知識をインプットします。アンコンシャスバイアスを省き、いかなる差別やハラスメントを許さないというルールを用意し、徹底していきます。
あらゆる属性・状況に関わらず、孤独感を感じずにすむように環境を用意します。組織が多様性に寄り添っていることを公的に明言することが重要です。

チームを壊す要因を排除する

ダイバーシティを実現するためには、ダイバーシティを阻害する要因を厳しく罰する必要があります。透明性、公正性、尊重、謙虚、信頼などを損なう要因を排除します。
どのような振る舞い・行動が望ましくないのかを言語化し、その事実が確認された際には公正に対応します。望ましくない振る舞いがあった際にはSBI(状況・行動・影響)モデルなどを活用し、人格ではなく行動を修正していきます。
採用においても、いくら組織に新たな観点を持ち込んでくれるからと言って、チームを攻撃したり信頼を損なうような人材を採用してはなりません。

違いを生む人材を意図的に採用し、支援する

今までの組織に刺激をあたえ、新たな視点や高い基準を示す人材を意図的に採用すべきです。

ただし、そうした人材が活躍するためには周囲が好意的に受け止め、積極的に取り入れていく協力が必要不可欠です。オンボーディングやエンパワーメント、マネジメント層の支援などを通じて、チームにとって進化する機会を活かしていきます。

繰り返しになりますが、「違いを生む」ということと「有害である」ことは別物です。信頼できる人材が持ち込む新たな機会を取り入れていきましょう。

あらゆるルールをドキュメント化する

明示されているルールは守らなければならない、書かれていないルールは守る必要がないということを徹底しなくてはなりません。
これは、誰かの主観で物事が決まることを許さないために必要です。カルチャーが多様であるということは、同じ言葉であっても多様に解釈されるということです。(ある文化では当たり前のことが、他の文化では眉を顰めることであったりします)

可能な限り解釈の余地が少ない、言語化されたルールがあるということは多様性における基盤のひとつです。

十分なオンボーディングを提供する

カルチャーアド(バリューフィット)では仕事の進め方・やり方にフォーカスをします。具体的なやり方をオンボーディングプロセスでトレーニングする必要があります。人間は行動と経験を通じて、認知を変化させていくことができます。
オンボーディングを通じて、意図や根拠を説明し、実際に行動することによってバリューを身につけていくことが可能になります。


5. カルチャーアドに移行する際に意識すること

既存カルチャーによるエンゲージメント

初期のスタートアップは、カルト的な尖ったカルチャーを持ちやすく、それが魅力でもあったりします。

プロダクトが成長し、ユーザーが増えていくと一見すると退屈に見える行動の重要度が増してくることがあります。例えば、地道にユーザーやデータに向き合うなかで平凡な機能を実装する必要が出てきたり、ルールの整備や遵守などが必要になります。
そうした変化に対して、既存メンバーが今までのカルチャーに誇りを持っているほど、カルチャーが変わってしまったと失望を覚えてしまうことがあります。

LAPRASでもフルリモートに移行したタイミングで「テクノロジー的に尖ったことをする会社」から「ユーザーの為にできることは何でも活用する会社」に、「対面で空気感を共有する会社」から「可視化・言語化を進めて、住む場所や時間に関わらずパフォーマンスを出せる会社」にカルチャーをシフトしていきました。
尖っている部分に魅力を感じていたり、対面の空気感を好んでいたメンバーには抵抗があったはずです。COVID-19がビジネス的・組織的に影響が大きかったため急な変化となってしまったので、もう少し緩やかに移行できたらという反省があります。

言語化するのが大変

言語化は慣れていないと困難に感じる人も居るかもしれません。そういった人たちが参加できるように、言語化のルールや基準を揃える必要もあります。言語化の責任者を明確に決めたおいたほうが良いでしょう。
また、言語化したルールは可能なかぎり1か所に集約します。

言語化を進めていくと、思った以上に多くの暗黙知があると気づきます。言語化の責任者一人で全て終わらせるのはかなり大変な作業です。言語化の責任者はイニシャライズに注力し、その後はルールに則ってメンバー全員で育てていくことをお勧めします。

既存社員・新入社員含め、言語化のトレーニングを提供していくとカルチャーだけでなくビジネス全般でも活用できます。


6. カルチャーアドの本質

以上が今回私が説明するカルチャーアドに対する解説となります。
カルチャーアドの本質は、組織自体を環境・状況に合わせて適応させることです。ビジネス環境にとって最も適したカルチャーを追求し続け、あらゆるメンバーのパフォーマンスを最大に引き出し、それをチームとして効率的に成果につなげていくための試みです。
カルチャーは暗黙知であるため、自然に変わっていくことはありますが、基本的には所属するメンバーのナラティブの中で固定化されがちです。それを「意図的」に育てていく。それがカルチャーアドです。

良い組織を目指していくために、学びに取り組んでいる方のお役に立てば幸いです。ご質問や興味があるテーマがあればお気軽にご連絡ください!
それではよい一日をみなさまお過ごしください。

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