見出し画像

ハーバートを継ぐ者。#6


 「分かったって何がですか?」ストロニークは聞いた。


ガレンジーは芝生を踏みつけて唇に人差し指を当てながら「この…え…と何だっけ…そうだ断面を見る限り、円状の焼け跡でないからダイナマイトじゃないよね。今主流のダイナマイトを使わない粋な犯罪者達の仕業であることは一目瞭然で……」と言葉を切った。


スコフィールドが手帳を取り出して言葉を繋ぐ。「レシピが複雑な硫化鉄素材の爆弾だ。ディリンジャーがその手のバイヤーに接触した形跡を調べれば一気に奴らの活動範囲を絞れるぞ。」


ストロニークは露骨に態度を変えてサーチェンスに指示した。「バイヤーを調べろ。」


サーチェンスはすぐに立ち去った。


ガレンジーが屈んで悪辣に笑い出した。「ふふふふふ…見てよこれダイナマイトを運んだ時に落ちる赤と緑の粉末をカモフラの為に落としてるんだ。なんて小賢しい…捕まえ甲斐があるねぇふふふふふふ。」


そんな所に一人の警官が走ってきた。「ガレンジー刑事。これが犠牲者のリストです。」


「あぁありがと。」ガレンジーが立ち上がって小指と中指でコピー用紙を受け取る。興味深げにそれを見るスコフィールドとストロニークにいう。「頼んでおいたの。もし狙って殺してるのなら彼らには狙われた要因があるわけだから」


二人は大きく頷いた。


「ふんふん…」素早く視線を下へ動かしていくガレンジーを横目にスコフィールドとストロニークは「ディリンジャーか…なんて狡猾な奴らだ…」


「えぇ、パブリックエネミーのお手本みたいな奴らだ。そのくせ、ちょっとした美徳のようなものを持っていて世間からは義賊やら英雄やらと謳われている。」


「全く憤慨しますな。我々はこんなに苦労しているというのに。国民は何もわかっちゃいない。」


黙って聞いていたガレンジーがストロニークの言葉を反芻した。「ふふふ…国民は何もわかっちゃいない、ね…それはそうだよ?だけどね所長さんとやら。僕達にも分からないことは山ほどあるんだよ。それに見落としていることだってあるんだ。それが積もり積もってパブリックエネミーという言葉ができる。それは我々がずーっと黙認してきたことが積み上がったものでもあるんだよ。そこんとこ忘れたらいけないと思うなぁ。」


ストロニークはこればっかりは心外のようで珍しく反論した。「失礼ですがガレンジー刑事。」


「はい?」


「えぇとですね…それは確かに見落としている所はあるかもしれない。ですがね、それが今回の事件とどう関係してくるのかいまいち的を得ない」


「それをね見落としてるって言うの」語尾を強調して犠牲者のリストをヒラヒラさせた。


スコフィールドはもう気づいたようで顎を上に上げた。


ストロニークは目を細めて注視しているようだがまだ見つけられないらしい。


そんな無能な所長に助け舟を出すように紙の中程を人差し指でパンパンと弾く。「こ、こ。七番目ダンテ・サーチェンス。先の襲撃で死んだはずなのにさっきあんたが偉そうにしてた相手の名前は何だったっけ?」


ストロニークはようやくことの深刻さに気づいたように愕然とした。「あ…あ…サーチェンス…さっき中に入っていった…」


「見落としてるんだ。スコフィールド行くぞ!」ガレンジーは呆れたような顔をしてスコフィールドに呼びかける。


二人は刑務所内を走ってサーチェンスを探した。スコフィールドが通りかかった事務員に聞いた。「サーチェンスは今どこにいる?」


事務員はいそいそしく目を泳がせながら「ダンテさんならさっき地方の留置場へ確認に行きましたよ。」といった。


「まんまとはめられたようだな。」


舌打ちをすると車に乗り込んだ。スコフィールドは運転しながらガレンジーに聞いた。「しかしどうして自分をサーチェンスと名乗ったんだろうな…確認をとればすぐにわかることなのに…現に今も逃げるような事態になっている」ハンドルを右へ切るとがレンジーの横顔を見た。


ガレンジーは狭い空間で長い足を組み替えながら「さぁね…犯罪者の思考回路を考えることほど無駄なことはないんだけど今回の場合…」両手を広げて大袈裟にポーズをとった後「…我々に教えたかったのかもしれないね…」


いまいちピンときていないような顔をする相棒を見て補足した。「ディリンジャーの差金であることに間違いはない。だけど死んだ同僚の仮面を被って自分をその人だと名乗るのようなことをするのは犯罪の片棒を担ぐ行為とも言える。正体は分からない。それがその行為の悪質さを増しているんだ。どうしてそんなリスクをわざわざ犯したのだろうね……」


スコフィールドはアクセルを踏んで「あぁ。」と頷いた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?