kbtms_da

ミステリー小説が好きで自分でも書いてます。

kbtms_da

ミステリー小説が好きで自分でも書いてます。

最近の記事

ハーバートを継ぐ者。#11

   「あなたは頑なに元々ファックスが車内に無かったと言っている。車内になかった本当の理由は本来の運転手が不在だったからだ。つまりあなたはあのトラックの本当の持ち主ではない。」 「……」 「反論する気はもうないのですか? まあ良い。ダンテ・サーチェンスの顔の仮面を被った誰かさんよ。今頃あのトラックはうちの者によってがさいれされていることだろう。その内にゴムでできたマスクが見つかるだろう。誰に頼まれたんですか? あなた一人が画策したとは思えない。今の内に全て吐いておいた方

    • ハーバートを継ぐ者。#10

       事務所の駐車場には既に覆面のパトカーが二台ほど停まっていた。がレンジーからの指示でいつでも犯人を逮捕できるようにとのことだ。 アスファルトの舗装が行き届いていない土のままの駐車場は大体十台ほどが停められるが今は覆面を合わせても四台しか停まっていない。 覆面の一台の中で待機している警官は腕組みをしながら次の指示を待っていた。ダッシュボードに寝かしているトランシーバーからはがレンジーと事務員と時々トラックの運転手の声が聞こえる。 ガレンジー腕前には本当に脱帽する。スコフィ

      • ハーバートを継ぐ者。#9

          ガレンジーは靴底をカツカツと鳴らして階段を降りて歩道橋の最後の段数に踵を返し、事務所の方へ駆け出した。 事務所では相変わらずトラックの窓から半身を乗り出して窓口の人間と争っている。窓口の人間は小太りの男性で威風堂々とした雰囲気があったが突き出た下っ腹と禿げ上がった頭のせいで頼りになる管理職からだらしのない中年野郎に成り下がっていた。 運転手は依然落ち着いた様子で話している。平静を装っているだけかもしれないが、少なくとも捜査一課の検挙率ナンバーワン刑事の第一印象にそう映

        • ハーバートを継ぐ者。#8

           「ガレンジー刑事。各州境に覆面を何台か配置していますが今の所怪しいのはいません。」 ガレンジーは北の州境の側の歩道橋から北風に襟足を靡かせてら遠くを見るような目をした。 今はまだ何も起きなくて良い。しかし近い内に奴は必ず姿を表すはずだ。全ての準備は整っているから後は網にかかるのを待つだけだ。 「そう、まぁもうちょっと様子見てみてぇ…何かあったらもっかい報告して」 「分かりました。」 片手でトランシーバーの電源を切って一度手の上に舞わせてからポケットに押し込んだ。

          ハーバートを継ぐ者。#7

          「応援を呼ぶか?」スコフィールドはパトランプを屋根につけているガレンジーに聞いた。 けたたましいサイレンと共にガレンジーが開口する。「そうだねぇ…行き先が絞れていない以上あまり得策とは言えないかもしれないけど総出で探すのは何か意味があるかもしれない。よし呼ぼうか。」 一人で議論して結論を出すと、早口でトランシーバーに話しかけた。 「州刑務所職員ダンテ・サーチェンスの顔の仮面を被った人物が北の留置場方面へ逃走中。見つけ次第こちらへ連絡せよ。白の食料配達用ミニバン。ナンバー

          ハーバートを継ぐ者。#7

          ハーバートを継ぐ者。#6

           「分かったって何がですか?」ストロニークは聞いた。 ガレンジーは芝生を踏みつけて唇に人差し指を当てながら「この…え…と何だっけ…そうだ断面を見る限り、円状の焼け跡でないからダイナマイトじゃないよね。今主流のダイナマイトを使わない粋な犯罪者達の仕業であることは一目瞭然で……」と言葉を切った。 スコフィールドが手帳を取り出して言葉を繋ぐ。「レシピが複雑な硫化鉄素材の爆弾だ。ディリンジャーがその手のバイヤーに接触した形跡を調べれば一気に奴らの活動範囲を絞れるぞ。」 ストロニ

          ハーバートを継ぐ者。#6

          ハーバートを継ぐ者。#5

           「こんなに容易く侵入されて十三人も失った上に、マイケル・デリンジャーとその他の犯罪者を逃しただと!?」ニオス刑務所の所長ベリンダ・ストロニークは報告してきた職員に向かって怒号を上げた。 怒鳴り声を上げられた職員は怯えたように首をすくめる。「はい‥全てデリンジャーの思惑だった。我々はずっと手の上で踊らされていた。そう認めざるを得ません‥‥」 「なぁにが認めざるを得ないだ!!!私が出張で三日開けたと思ったらこれか!!畜生‥これからやってくる警察のお偉方になんて言えばいいんだ

          ハーバートを継ぐ者。#5

          ハーバートを継ぐ者。#4

           刑事のクリストファー・スコフィールドは捜査一家の扉を開いて中に入った。白のYシャツの上から茶色の革のガンホルスターをつけている。 左側のホルスターにはポリスピストルのワルサーPPKシルバーが収められていた。 さっさとさっさと通路を歩くと机の引き出しを開けた。書類のファイルの番号を指でめくりながら目的のものを探す。 見つけた。人差し指と親指で摘んでルーズリーフとファイルをつまみ出すと「ふぅ」と一つ吐息をつくともう一度すたすたと歩いた。 黒の革靴の表面に照明の反射した光

          ハーバートを継ぐ者。#4

          ハーバートを継ぐ者。#3

           ローゼンバーグが動揺の声を漏らすより早く、男の握ったブローニングM1910の引き金が引かれた。ローゼンバーグは轟音と共にその弾丸を頭に受けて絶命した。 「今だ!!!!」男がボールペンをノックする。 左方で巨大な破裂音が響いたと思ったら息吐く間すらなく、コンクリートの瓦礫が崩れ落ちる音と囚人達の悲鳴が混濁した。野原や土に軽く火がついた。男達は屈んだ体勢を元に戻すと二手に分かれた。一手は刑務所の中へ、一手は車の側へ———  刑務所が崩壊しようかという状況においても壁にもた

          ハーバートを継ぐ者。#3

          ハーバートを継ぐ者。#2

           刑務所の裏側に一台の車が停まった。真っ黒なSUVだ。車輪が徐々にスピードを緩めると正式な駐車スペースがすぐ横にあるのにも関わらず、それを突っ切って刑務所の西棟の壁の裏に停まった。 扉が開くと操縦席と助手席、その後ろの席から合わせて六人の男が出てきた。皆黒か茶色の革靴を履いていて、その長身と奇麗な目鼻立ち。洗練されたスーツの着こなし具合と体格のバランスが男達の男性的魅力を一層引き出していた。 車と同系色のスーツに身を包んだその男達はポケットからガーゴイルズのサングラスを取

          ハーバートを継ぐ者。#2

          [新連載]ハーバートを継ぐ者。#1

           ここは本当にアメリカなのか?あの生き生きとした雰囲気はどこへいったのだ。スーツやドレスを着込んで笑顔で出かけていく人々、太陽が看板に反射して輝きを纏っている店や駅。 それが今ではどうだろうか。寒空の下で粗末な衣を羽織って、震えている者も入れば、ゴミを奪い合っている者だっている。 奥の交差点では破れたジーンズを穿いた男がスーツを着た男性に一ドルを乞いている。 この異常な光景を見慣れている自分が恐ろしくもあった。だが、もう始まって三ヶ月だ。 そうか。もう三ヶ月なのだ。世

          [新連載]ハーバートを継ぐ者。#1

          ジャックは私です。最終回

           数年後。 夏山は背広姿で人々が行き交う交差点を歩いていた。営業がやっと終わって会社に帰るところだ。 歩きながらネットニュースを見る。数年前のニュースが取り上げられている。「雨宮国立病院、院長息子誤認逮捕の刑事。新たな事実か。」 見出しに釣られてリンクをタップしてみる。 三年前に起きた殺人事件。千恋が殺された事件だ。思い出すだけで胸が痛んでくる。 犯人として逮捕し、一時的に収監していた雨宮国立病院院長の息子の雨宮啓介当時二十四歳に対して担当の刑事が恐喝、暴行などをは

          ジャックは私です。最終回

          ジャックは私です。#11

           間部は受付の近くの柱にもたれて人差し指をしきりに動かしていた。 まだか。あれから十五分も経っているのに、今だに亀岡に繋がる様子はない。ただ何度も聞いたことのある呼び出し音が辺りに響くばかりだ。 そんな時、尾身がエレベーターから降りてくる。手ぶらで間部に近づいてくる。 「収穫あったかい?」間部はイラつきながら問う。。 「あぁるもくそも俺と警官二人で入ろうとしたんだが頑なに入れてくれないんだよ。それで公務執行妨害だぞって脅したんだがこっちだって営業妨害だとかいいだして収

          ジャックは私です。#11

          ジャックは私です。#10

           男性が自殺したのは新宿のとあるアパートの一室。側には遺書と酒の瓶が置いておいた。輪っかの形にしたロープを天井のフックに吊るしてそれに首をかけた。 男にはどうしてもしたいことがあった。それは男の中では義務のようなものだった。真っ暗な部屋の中に閉じ込められているその記憶に一筋の光を与えたかった。 その為にはこうするしかなかったのだ。 見つかったらどうなるのだろう。関係ない人間を巻き込んでしまうことになるかもしれない。 だがそれでも良い、と男は思った。 男性は頬を赤らめ

          ジャックは私です。#10

          ジャックは私です。#9

           「つまり犯人は同一である可能性が高いと・・・・そういうことか?」間部が問う。 尾身は答える。「あぁ。同一犯というのは想像に難くないと思うがその後の方が重要だ。峰田の殺害に使われたのはカミソリの刃の欠けらなんだ。そのカミソリは夏山の殺害に使われた凶器と同じ材質で、しかも同じ製造元だったんだ。」 「というと?」 「このカミソリもまた例の国立病院への支給品だったんだ。まだあの病院に隠されている秘密があるってことだ。」 尾身は大きく頷いて「つまりそのカミソリを見つけて指紋や

          ジャックは私です。#9

          ジャックは私です。#8

           刑事の折坂は捜査一課の部屋で天野の帰りを待っていた。テレビで報道したことによって新たな事実が分かったのだ。 時計を見た。時刻は丁度十二時半。警官に天野の居場所を尋ねると近所の中華料理屋へ行ったといっていた。 がらりとした部屋の中で一人椅子に座って暇を潰している。 折坂も腹が減ったから持ってきた弁当に箸を入れた。折坂には最近子供が生まれた。親から「二十五までには孫の顔を見せてくれ」とうるさくいわれていた所為か二十二には結婚して二十三歳で子持ちになった。 十二時間ほどか

          ジャックは私です。#8