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ハーバートを継ぐ者。#9

  ガレンジーは靴底をカツカツと鳴らして階段を降りて歩道橋の最後の段数に踵を返し、事務所の方へ駆け出した。


事務所では相変わらずトラックの窓から半身を乗り出して窓口の人間と争っている。窓口の人間は小太りの男性で威風堂々とした雰囲気があったが突き出た下っ腹と禿げ上がった頭のせいで頼りになる管理職からだらしのない中年野郎に成り下がっていた。


運転手は依然落ち着いた様子で話している。平静を装っているだけかもしれないが、少なくとも捜査一課の検挙率ナンバーワン刑事の第一印象にそう映ったのだから被疑者はその手のプロに違いない。


 後ろにつかえているトラックと、不機嫌な様子でタバコをふかす運転手達を横目に窓口とトラックの隙間に近づいていった。


「だから、そんな通達は届いていないというんです。」


「馬鹿なことを言うじゃないよ。午前の休憩中、このエリアの運転手が全員集められただろうが。それも忘れちまったのか?」


「ですからそもそも連絡を受けていないんですよ。」


事務員が、筆記具や書類が乱雑に散らばる金属の机をバンと叩いた時、白く大きな掌がさっそうと現れた。


「あ、どうもどうも。こちらオハイオ州警察捜査一課の者なんですがっ…少々お話伺ってもよろしいでしょうか…?」眼窩に鋭い光を覗かせながら警察手帳を見せて、言葉を切るとゆっくりと運転手の方を振り返った。


首から軋み音が聞こえるかのように機械的で、不気味なのに余裕のある動作が運転手の表情に動揺を引き出した。


事務員はたるんだ顎を揺らせながら大きく頷いた。「えぇ。どうぞ。このポンコツが通達がいってないだの、午前の打ち合わせに呼ばれていないなどとでたらめなことをいいだすもんでねぇ」


運転手は小さな嘘一つつけない状況の中で言葉を選んでいるのか目を泳がせている。


ガレンジーは声を低くしながら「あなたも……よろしいでしょうか……」と能面のように表情の乏しい運転手に話しかけた。


狐につままれたように唖然としながら「あ、はい」と慌てた返事をした。


ガレンジーは白い歯を見せるとトラックのドアを開けた。

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