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承継って実は起業? 五島で感じた「事業承継」のポテンシャル

秋晴の候、ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。メタバースクリエイターズ若宮です。

実は昨日まで長崎県は五島に行っていました。

今日はちょっとその振り返りを兼ねて「事業承継」について感じたことを書きます。


五島ワーケーションチャレンジにゲストとして参加

五島列島に二泊三日で行ってまいりました(一年ぶり二度目)。

トールとユージとも再会


一般社団法人「みつめる旅」さんの企画「五島ワーケーションチャレンジ」に昨年に引き続きゲストとしてお招きいただいて参加したのですが、今年のテーマは「2040年の日本を体感する」というもの。


なぜ「2040年の日本」かというと、五島では高齢化やインフラの問題など未来の日本の社会課題が一足先に起こっているようなところがあるからです。そうした課題を「大人の社会科見学」のように、現地でのフィールドワークをしながら巡る旅なのです。

↓こんな感じで日ごとにテーマがあり、

<各日テーマ>
・【急速に増える廃校】数字ではわからない「少子化」のスピードを体感する
・【森林保全・林業】「100年先の未来を考える」とはどういうことか?
・【再生可能エネルギー】未来に繋がる「意味のある投資」とは何か?
・【二次離島】教育・医療・交通、生活インフラをどう設計するか?
・【水インフラ】人口減少社会でサスティナブルなインフラとは?
・【事業承継】地域の雇用を支える事業を継続させ成長させるには?

僕は最終日の「事業承継」の回のゲストでした。

地方の小さな企業では、雇用の問題を含めて事業承継の問題が深刻です。高齢化した創業者が働けなくなった時、次の担い手がいないと会社が終わってしまうわけですね。


「事業承継」の現状

当日はまず座学からスタートしました。市役所の中村さんから日本と五島の企業のデータの説明の後、バスで4つの企業を訪問。まさに「大人の社会科見学」です。

最初の座学で「事業承継」について学んでまず僕が思ったことは、「事業承継って本当に「課題」なのかな?」ということです。たしかにデータでみると「休廃業・解散企業」の数はじわじわ増えており、事業を閉じている企業の多くは20人以下の小規模な企業、かつ代表者の年齢は年々高くなっています。高齢化によって事業が続けられない企業が増えている、という意味ではなるほど「課題」と言えるかもしれません。

一方、意外なデータもありました。廃業予定の企業に廃業理由を聞くと「子どもがいない」(12.5%)や「子どもに継ぐ意思がない」(12.2%)「適当な後継者が見つからない」(4.3%)などの後継者問題(すべて足して3割弱)よりも、「そもそも誰かに継いでもらいたいと思っていない」(43.2%)とか「事業に将来性がない」(24.4%)など、経営者自身が事業承継を臨んでいなかったり継続しない意思決定をしているパターンの方が多いらしいんですね。

僕自身も起業家をしていて思うのですが、個人のパーソナリティや価値観が大きく影響している事業もありますし、自分の代で終わりにする判断も全然アリだと思います。メタバースクリエイターズはこれから必要になってくる事業なので会社を成長した後でいつかは誰かに引き継ぐこともあるかもしれませんが、少なくとも自分の子への承継は考えていません。


「事業承継」って課題なの?

僕が新規事業をたくさん立ち上げてきましたが、その中には畳んだものもあります。いえ、そっちのほうが多いくらいです。一度ニーズを掴んだ事業でも、時代の変化によってニーズがなくなることもあります。その意味で「廃業」は必ずしも避けるべきことではなく「発展的解消」とか「卒業」という面もあると思います。

スタートアップでもよく「エコシステム」という言葉が使われますが、エコシステム(生態系)の中には実は多くの死が含まれています。人間の生でも延命やアンチエイジングばかりでなく死生学というか「ちゃんと死ぬこと」も大事だとおもっている派です。事業でも「適切なタイミングで終わらせられる幸せ」もあるでしょう。


ただもちろん、本人が続けたかったり社会的にも必要なのに、事業が後継者がいないために続けられない、というケースはやっぱり残念です。

例えば、地場の食を守る個人の飲食店や工芸品など、文化を担う企業が経済的な理由で続けられなくなるのは残念です。経済効率や資本主義的競争の結果、文化的価値のあるものがなくなり、大きなマンションや商業施設に取って代わられれてしまうことも結構あるあるですが、一度失われてしまうと取り戻すのがとても難しいものもあります。

事業承継の問題は、マクロな総計で課題を測れるものではあまりないかもしれません。続けた方がいいとは一概に言えませんし、時代の流れや事業ドメインを考慮し、最終的には個々のケースでそれが課題なのかそうではないのかを丁寧にみていく必要があるでしょう。


「事業承継」にはいろんなパターンがある

座学の後はバスで市内の事業承継した企業の訪問に。

最初に訪れたのは「はたなか」というお菓子屋さん。

四代目から五代目への承継がとても円満に進行中で、現社長と次期社長さんがいっしょにお話をしてくださいました。

次に「尾崎神佛具店」さんという仏具や仏壇のお店に。こちらも親子承継で、Uターンしたパターンです。


三箇所目は「大石養鶏場」さん。養鶏を行い、とても高品質な卵を販売しています。

こちらの承継のケースは前の二企業とは異なり親子承継ではなくとてもエモいストーリーが!!

2 年前、とあるスーパーの張り紙で、五島の大手養鶏場である大石養鶏場が後継者をさがしていることを知った野瀬さん。故郷の福江島に U ターンし、飲食店を始めて 3 年が過ぎた頃でした。経営者として次のステージに行くには時期尚早と感じながらも、なぜか見過ごせず、とにかく話だけでも聞いてみようと直接大石さんを訪ねた際、次のことを聞かされます。五島市内にある養鶏場は2つのみであり、その2つで五島市内の卵の需要をまかなっていること、その大半を大石養鶏場が担っていて、今大石さんが辞めてしまったら五島の需要を賄えなくなり、スーパーから五島産の新鮮な卵が消えること、そして学校給食で扱う卵が、冷凍卵になってしまうこと。野瀬さんはその事実に衝撃を受けます。このままでは、五島の子供達に新鮮で安心安全な卵を届けられなくなる。これまでの 67 年間、大石さんたちが守りこだわり続けた熱意も労力も無駄になってしまう。野瀬さんはその現実に心動かされ、使命感にも似た思いから、大石養鶏場を引き継ごうと決意します。

大石養鶏場のサイトより

卵売り場の一枚の張り紙をきっかけに、全く養鶏の経験もないながら養鶏場を引き継いだのです。

最後は「五島列島酒造さん」。

こちらのケースもレアケース。地元の漁師や農家の人たちが地場の産物を使った商品をつくろう、と出資して事業を始めた事業を、商社の双日さんがM&Aし、事業を承継したというケースでした。

余談ですが、製造責任者の谷川さんがめちゃくちゃ面白いので大注目です。行かれたらぜひお話きいてみてください


「事業承継」というと親子承継のイメージが強いかもしれませんが、本当に色々なパターンがあることを学びました。


事業のただ承け継ぐというより「起業」の方がしっくりくるかも

それぞれの企業を訪問させていただき、一番つよく思ったのは、「事業承継」という言葉がちょっとしっくりこないなあ、ということでした。なぜなら訪れた企業の多くが、単に事業を引き継ぐだけでなく、承継を「きっかけ」として新事業を始めたり事業をアップデートしバリューアップしていたからです。


例えば、「はたなか」さんでは、息子さんが帰ってきたことをきっかけに、お菓子のパッケージをリニューアル。見た目も今っぽくなっただけでなく賞味期限が伸びてあたらしい販路に乗せることもできるようになり事業が拡大したそうです。
尾崎神仏店員さんでは、もともと東京のIT系企業に勤めていたという尾崎さんが仏花のECをはじめたり、お祝い花やイベント用の造花の販売も開始。
大石たまごさんでは、究極のアンチエージング卵を開発し、10,800円(!)という高付加価値商品として販売しています。
五島酒造さんは双日さんが入ったことで製造プロセスと労働環境が見直され、さらに品質が安定し、組織としてもサステナブルになりました。


こうしてみてみると、「承継」とはいえ事業をそのままに引き継いでいるというよりも、新しい事業を始めるという感覚に近いなあと。第二創業というか、継承者は土台となるアセットをつかって新たに「起業」している、という感じ。

その意味では、「事業承継」という言葉よりは「承継起業」とか「リレー起業」という呼び方の方がしっくりくるかもしれません。


「求む!承継起業家」

「事業承継」という言葉は「そのまま継ぐ」という感じや、ちょっと受け身な印象もあります。するとちょっと重荷に感じたり、特に僕みたいなタイプだとつまんなそうに感じてしまう。でも「承継起業家」みたいな感じで捉え直すと、アセットがスタート時点であるかないかの違いなだけで、起業家として新しいことを始められそうな気がしてきます。


例えば都心の大企業で働いている人や経営学を学ぶ学生などで、将来自分の事業を持ちたいと考えている人は多いと思います。そういう方にとっては、五島のような気持ちのいい土地で、既存のアセットを元手にしつつ起業できるというのは十分に魅力的な起業プランではないでしょうか?

行政が地元の優良企業や老舗企業を対象として、次世代の承継起業家を全国から募集する。そして承継でのあたらしいチャレンジに補助金を出すなど投資する。そうすれば移住も増えるだけではなく、地元の企業が「承継」を起点に生まれ変わり、元気になって地方の経済圏も再び発展していくかもしれません。もちろん、終わる企業があり、それとは別に新しく生まれる企業があってもいいわけですが、生まれ変わりながら続く、という選択肢も増えることになります。

イメージの問題ですが、「事業承継」を「承継起業」や「リレー起業」として捉え直すだけでも、新しいチャレンジが増えるのではないかと感じました。


「開く」ことと「継続的な線の関係にする」こと

また、「リレー起業」がいまよりも活性化するためには二つのポイントがあると思います。

一つ目は「開くこと」。

子育てや宗教などでもそうですが、他に選択肢がないと閉塞的で苦しくなり、本人の意思に反した「押し付け」になることもあります。僕自身、親が地方で住宅メーカーを経営しているのですが、直接はあまり言われたことがなくても男ひとりの長男ということで事業承継のプレッシャーを感じていました(まあ結局継がずに好き勝手やっているわけですが…)。

しかし、承継する相手は家族でなくともいいと初めから思えたらどうでしょう。家族だけでなく、近隣地域の人や県外からの人材まで承継について情報を出し候補として幅広く募集すれば新しい可能性が広がりますし、結果として子どももプレッシャーなく自由に承継を選べるかもしれません。


二つ目は「継続的な線の関係にする」ということです。事業承継の際、もうにっちもさっちもいかなくなってからどうしよう、と考えるのではなく、まだ続けられるうちから「承継起業家」候補を探したりサポートを受けたりしていけるとよいですよね。

1年とか2年とかある程度のスパンのプログラムのような感じで、将来の承継候補、経営者候補として募集を行い、一緒に事業をしながら引き継ぎと見極めをすればより良い移行ができると思いますし、アルバイトや社員としての募集では集まらないような優秀な働き手や若いチャレンジ意欲旺盛な方がきたり、労働力不足も解消される可能性もあるのではないでしょうか。



「開く」と「継続的な線の関係にする」。これに関しては、最近またいろんなところで紹介していますが、「コミュニティーナース」の事例が参考になる気がします。

コミュニティナースの仕組みは、地域創生や雇用の問題を解決するイノベーションとして注目していますが、まさに開き・継続的な関係を結ぶことで地域をしなやかにし、そのポテンシャルを解放するための色々なヒントがあると思っています。(ぜひこちらのVoicyもどうぞ)


「五島ワーケーションチャレンジ」もまた、五島に惚れ込んだ「みつめる旅」の鈴木円香さん・遠藤まめこさんが五島と都会のビジネスパーソンをつないで開き、継続的な関係にしようとしているのだと思います。


実際、今回の旅で僕は五島の地元の魅力的な企業とたくさん繋がれましたし「事業承継」についても「起業」として捉え直すことで五島のさらなるポテンシャルを感じました。日本には老舗企業が多いですし、古い企業が生まれ変わりながら続く仕組みができれば、世界のモデルケースになるかもしれません。

そして何より、現地を訪れてはじめて感じられるワクワクがいっぱいあるのですよね。

追伸:今回も映えました(下記のForbes記事参照)


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