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コンテンツが公開されるまでの流れ

~ クオリティメディアではどんな工程で品質が守られているのか ~

No.004|D.案件事例|D-001

記事の掲載。書籍の出版。メルマガの配信。ウェブサイトの公開。SNSの投稿。新聞。雑誌。テレビ。ラジオ。メール。インターネット。ソーシャル。日々膨大な情報やコンテンツが、さまざまな媒体やメディアから発信され続ける現代の超情報社会。一昔以前は、出版社やテレビ局など、ごく限られたメディアだけが許された情報やコンテンツの発信は、ブログ、ソーシャル、オウンドといった多様なメディアの発達で、今や誰もが情報やコンテンツを発信できる時代です。

一億総メディア時代の光と影

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アルファブロガーやユーチューバーといったインフルエンサーと呼ばれる発信力のある人々のなかには、メディア業界とは無縁のごく一般の人々が多く活躍し、一億総メディア時代の只中といえます。

あらゆる情報やコンテンツがリアルタイムで届き、文字を入力するだけでどこでも検索でき、求める情報が容易にヒットする利便の一方で、誤った情報、不確かなコンテンツ、明らかなデマ、意図して捻じ曲げられたフェイクニュースが簡単に流布されてしまう、闇の側面があるのも事実です。

落書きだ、玉石混合だという声も上がる、巨大掲示板やソーシャルメディアで発信される情報が、良くも悪くも大きな影響力を持ちはじめたのは間違いありません。だからこそ、情報の真贋を見極める目が、情報を受け取る側にも求められる時代です。

クオリティメディアはコンテンツの良心

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あ、ここで掲示板やソーシャルメディアをディスるつもりはもちろんないですし、むしろ掲示板なんて、当方大好物なクチです。

ただ、そんな掲示板やSNSなどの情報に触れたとき、新聞、書籍、テレビなどがネタ元や出典として明記されていたら、信頼性が高まるのは正直なところ。

いうまでもなく、新聞社、出版社、テレビ局などは情報やコンテンツを扱うプロであり、多くの資金、人員、技術を用いて、厳重なチェック体制がなされているからで、信頼に値するのは当然です。

正確な情報や良質なコンテンツの発信は、やはり信頼できるメディアの存在があってこそ。そんなメディアは、情報やコンテンツにとっての「良心」といえます。

クオリティメディアにおけるコンテンツ発信の流れを知る

由々しき不祥事から誤植といったポカにいたるまで、残念な事態が散見されるとはいえ、新聞社、出版社、テレビ局といった主要メディアが発信するコンテンツの多くは、基本的には信頼に値するものとして、世間から広く認知されています(主義だ、思想だ、右だ、左だとかの好き嫌いは別にして)。

なんだかムツカシイ話になりそうなので、本題です。

このたびの小欄では、新聞社、出版社、テレビ局といった主要メディアを「クオリティメディア」と位置づけ、情報発信のプロである「クオリティメディア」では、どのように情報やコンテンツが仕込まれ、編集され、発信(出版)されていて、なぜそれが信頼に値するのかという論拠を示すため、一連の工程や流れの細部に光を当ててみます。

もしかしてだけど。

「クオリティメディアで情報やコンテンツが発信されるまでの工程」を知れば、メディアのプロではない一般の人たちに、クオリティの高い情報発信のヒントを届けられるんじゃないの。

もしかしてだけど。

「クオリティメディアで情報やコンテンツが発信されるまでの工程」が知られることで、クオリティメディアと呼ばれるに値する理由が、あらためて理解されるんじゃないの。

もしかしてだけど。

「クオリティメディアで情報やコンテンツが発信されるまでの工程」を知る当方は、紙とウェブの両媒体に関わった世代であり、そこから学んだ工程の裏側を、伝えるべき立場なんじゃないの。

などなど云々。

どぶろっくさんのフレーズよろしく、かように痛感するにいたり、勝手ながら解説を試みてみます。

小欄では、比較的慎重な(というか面倒な)編集が求められる、以下のケースを例とします。

・メディア:紙媒体(ペーパーメディア)

・コンテンツ:専門家や著名人による「記名コンテンツ」(※)

・工程:「仕込み、編集、出版」までの一連の流れ

(※)書き手や話し手の名前を明記した(明らかにした)記事やコンテンツのこと。「記名記事」「記名原稿」「署名記事」「署名原稿」などとも呼ばれる。

90年代に当方が基礎を叩き込まれた「紙媒体における編集工程」をとおして、クオリティメディアが信頼に値する理由を知り、さらに「情報やコンテンツを発信するとはどういうことか」について、あらためて思慮いただければ幸いです。

コンテンツが世に発信・出版されるまで

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小欄では、著名人による執筆原稿から(またはインタビューから記事化する)「記名コンテンツ」を例にした「紙媒体における編集工程」を、ざっくり以下の8つに分類します。

※以降、あくまで当方が過去に属した編集部や版元でのスタイルをベースとした一例です。

・ステップ①:リサーチ

・ステップ②:企画

・ステップ③:アポイント

・ステップ④:手配

・ステップ⑤:原稿(取材)

・ステップ⑥:編集

・ステップ⑦:確認

・ステップ⑧:出版

また、より具体的にイメージできるように、ここで例とする「記名コンテンツ」の条件を、

・コンテンツの題材:「とある音楽作品の魅力の訴求」とする

・執筆者候補:題材に対して「意外なゆかりを持つ音楽人以外の著名人」とする

・情報ソース:インターネット(以下、ネット)は頼らないこととする

解説の都合上、勝手ながら以上を前提とします。それでは、順に工程を追ってみましょう。

┗ ステップ①:リサーチ

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1. 書店:書店に出向き、当該音楽作品の「関連書籍」をリサーチ

2. 図書館:1.)に求める情報がなければ図書館に出向き、当該音楽作品の「関連図書」をリサーチ

3. 大宅壮一文庫:2.)に求める情報がなければ大宅壮一文庫に出向き、当該音楽作品の「関連記事」をリサーチ

1.)書店 / 2.)図書館

題材が「音楽作品」なので、本来ならば音楽評論家や音楽ライターなどの専門家が候補となるところ、条件が「意外なゆかりを持つ音楽人以外の著名人」のため、音楽関係者は対象から外れます。加えて、ネット不可が条件なので、まずは「書店」「図書館」に出向くのが正攻法となります。

「書籍」「図書」ということでいずれも本ですが、1.)書店では「最近の一般書」、2.)図書館では「旧刊の専門書」と、それぞれの用途でリサーチするイメージです。

3.)大宅壮一文庫

「意外なゆかりを持つ音楽人以外の著名人」ということで、1.)2.)で見つけられる確率は低く、そんなときに出向くのが、京王線の八幡山駅が最寄りの雑誌の図書館「大宅壮一文庫」です。

1.)2.)では、書籍や図書と「本」をあたりましたが、「大宅壮一文庫」では雑誌、それも「記事」をあたります。なぜなら、雑誌自体ではなく、その中に掲載されている個々の「記事」に情報を求めるからです。雑誌の情報すべてが、必ずしも必要になるわけではありません。

要するに、「とある著名人が(当該題材となる)音楽作品について執筆できる」という根拠さえつかめれば、1ページどころか数行の記事であっても、立派な根拠として企画に挙げられるからです。

ちなみに、最初に3.)に出向かない理由は、まずは基本をおさえるため。正攻法の情報ソースである1.)2.)から辿ることによって、題材への理解が自然と深まるからです。

実は、リサーチの過程で、題材に関する訴訟やスキャンダル情報に遭遇することがあります。その場合、そうした候補者をブラックリストとして排除しながら、ホワイトな執筆者候補を絞っていきます。

テレビやラジオの制作スタッフ、雑誌社や出版社の編集者といったマスコミやコンテンツ編集者から、企画やネタの宝庫として、ネット全盛以前の「雑誌」は重宝されていたので、多くのメディア関係者が「大宅壮一文庫」を利用していました。

今では、そのほとんどがネットに代わり、量もスピードも格段に効率が向上しましたが、当時のこうしたリサーチ手法は、手間はかかりますが、その分だけ豊かで立体的な情報が得られたように感じます。

いずれにしても、著名人に依頼する場合は、その依頼時の説明はもちろん、編集部、あるいは発行元や版元に対する企画の根拠にもなります。確かな情報ソースの確保は不可欠です。

正確性、内容の濃さ、意外性など、確度の高い情報ソースをいかに見つけられるかが、リサーチ工程の重要ポイント。リサーチ力や情報アンテナ感度は編集者にとって、昔も今も欠かせないスキルです。

┗ ステップ②:企画

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1. 執筆者候補の絞り込み:リサーチでピックアップした情報をもとに執筆者候補を絞り込み

2. 連絡先のリサーチ:絞り込んだ執筆候補者の連絡先や窓口をリサーチ

3. リスト化:候補者名、候補理由、理由の根拠、情報ソース、候補者近況、連絡先などをリスト化

1.)執筆者候補の絞り込み / 2.)連絡先のリサーチ

前段ステップの「リサーチ」にも分類できますが、工程的には当ステップとなります。

著名人の連絡先や窓口は、今でこそネットで容易に調べられますが、ネットがそこまで主流ではなかった90年代は、編集部やマスコミ各社には下記のような専門書籍が常備され、そこから著名人の連絡先をあたっていました。

・「タレント名鑑」(株式会社VIPタイムズ社)

・「マスコミ電話帳」(宣伝会議)

・「人物文献目録2008-2010 Ⅰ 日本人編」(日外アソシエーツ)

・「人物文献目録2014-2016 II外国人編」(日外アソシエーツ)

・「新訂増補 人物レファレンス事典 昭和(戦後)・平成編」(日外アソシエーツ)

・「日本人物文献索引 政治・経済・社会1991‐2005」(日外アソシエーツ)

とくに「日外アソシエーツ」社の一連のシリーズは秀逸です。

・連絡先

・出自や経歴

・名前の読み(これはありがたい)

・代表作

・賞歴

といった、人物の貴重な情報が網羅され、旬な企画や話題の人物への接触を常に求められる編集者にとっては、欠かせない情報ソースのひとつです。

その情報量は膨大で、一冊が漬物石のように重く分厚く、それが五十音やアルファベットごとに編纂され、ページの開閉はもちろん、コピーを取るのも一苦労、コピー機クラッシャーの異名があるほど。

目の玉が飛び出るほど高価なので、当方旧職の弱小編集部には「人物文献目録 日本人編」だけがかろうじて常備され、それ以外は国立国会図書館や都内の図書館などへわざわざ閲覧に出向いていました。

その正確性はともかく、今では「ウィキペディア」なども登場し、世の中便利になったものです。

3.)リスト化

あくまで執筆候補者のリストの例ですが、本来は当該記事のコンセプト、デザイン、イラスト、使用写真など一連の方向性、コラムや告知といった関連情報の有無など、さまざまな要素を落とし込んだ企画書としてまとめ、編集部内や発行元との協議にあたります。

┗ ステップ③:アポイント

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1. アポイント:リサーチでピックアップした連絡先から著名人にアポイント(アポ)

2. 再リサーチ:1.)の連絡先ではつながらない、または違っている場合は再度リサーチ

3. 交渉:連絡先がつかめたら、本人、担当者、所属先などと交渉

4. 依頼:先方が「了承」の場合は「依頼書」を送付

5. 伺い:先方が「検討」の場合は「伺い書」を送付

1.)アポイント / 2.)再リサーチ

編集部内や発行元で企画の合意が得られたら、執筆者にアポをとっていきます。ところが、1.)でピックアップした連絡先がつながらないケースは案外多く、再度探し直すことはよくあること。その場合、

・所属先系:事務所、プロダクション、マネージメント会社

・版元系:著作物の出版社、楽曲作品のレコード会社、出演映画の製作会社や配給会社

といった、別のルートから辿ります。

3.)交渉

考えてみれば当然ですが、交渉は直接著名人本人とではなく、本人以外の担当者と行うことが大半です。依頼理由、スケジュール、ギャランティなど、担当者との交渉をとおして、決め手となる条件を探りながら交渉します。

4.)依頼

正式な「了承」が得られた場合は、「依頼書」という体裁で「依頼」します。

5.)伺い

正式な「了承」が得られる前の段階は、「伺い書」という体裁で「伺い」ます。

意外ですが両者は性質が異なるため、うるさ型の著名人には、とくに気をつけたい配慮です。なお、4.)5.)ともに基本的な内容は同様で、おもな項目は下記のイメージです。

・a.当該媒体:発行元名、部数、刊行頻度、読者層、掲載内容、特色など

・b.当該記事:題材、企画内容、掲載日、発行日など

・c.依頼理由:リサーチ情報に基づいた依頼理由、希望する執筆内容や方向性など

・d.依頼詳細:文字数、締切日、頁体裁、プロフィール写真や情報の有無、報酬など

・e.署名欄:発行元や編集部の名称、住所、電話、FAX、メールアドレス、担当者名など

「執筆はできないがインタビューならOK」というケースにも備えます。その場合、d.)依頼詳細が、インタビュー日時や場所、報酬(ギャランティ)の変動、取材時のプロフィール写真の持参可否などとなり、加えてインタビュー時に撮影する場合は、別途撮影の詳細も書き添えることになります。

依頼書」ならば「先方了承済」ということなので、このタイミングで報酬の振込先を確認することもあります。「伺い書」ならば「先方了承未」となるので、振込先を聞くのは早計、失礼にあたるので、もちろんこのタイミングでは控えます。

伺い書」ならば「先方了承未」ということで、返答を待つ必要があるため、「時間も指定した返答期日」「電話、FAX、郵便、メールなどの返答方法」などを書き添えます。

さらに、先方との連絡手段が郵便のみにかぎられる場合は、

・返信先を明記した返信用封筒

・速達価格での返信用切手

・手書きの一筆箋

・名刺

これらを「伺い書」とともに同封して郵送します。当方が携わっていた90年代でも、古いタイプ(失敬)の売れっ子作家や有名俳優などは、連絡手段が郵便のみというケースもあり、細かい配慮が必要だったのです。

┗ ステップ④:手配

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1. デザイナー手配:担当デザイナーをアサイン(指名)し、レイアウト、文字数、イラスト、写真、図版などの一連の指定、素材や資料などの受け渡しや制作依頼(基本的には必須)

2. イラストレーター手配:イラストレーターをアサインし、当該コンテンツの内容や希望イラストの指定、素材や資料の受け渡しや制作依頼(イラストが必要な場合のみ)

3. 写真の手配:関連画像やイメージなど、各所に写真借用を手配。さらに、写真撮影が必要な場合は、カメラマンや撮影隊、撮影場所、被写体となるモデルや現物、ヘアメイク、スタイリスト、フードコーディネーターなど、撮影に必要な一連を手配(写真が必要な場合のみ)

1.)デザイナー手配 / 2.)イラストレーター手配

コンテンツ記事の内容や執筆者の個性に応じて、編集者がそれぞれの担当をディレクションします。編集者はデザイナーではありませんが、どんなページ構成にするか指示する必要があり、手書きなどでレイアウトのイメージを起こす、いわゆる「ラフ切り」作業もタスクのひとつです。

また、外部に発注するケースも多いため、さまざまな個性のデザイナーやイラストレーターとのコネクションも、編集者はつながっておく必要があります。

3.)写真の手配

コンテンツ記事に関連写真が必要な場合、これも編集者が手配しなければなりません。ここでは、やや特殊な「撮影」ではなく、一般的な「写真借用」の工程について解説します。

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まず、写真を借りるためには、レンポジやストックフォトと呼ばれる写真貸出サービスからあたりますが、アーティスト、文化人、一昔前の文豪や俳優など、特定の人物関連の写真は、こうした写真貸出サービスではなかなか扱っていません。

その場合は、雑誌社、出版社、文学館、協会や財団、新聞社など、求めるジャンルに応じて写真提供先をあたります。中には写真貸出に慣れていない機関もあるので、写真を使用する媒体の説明や掲載コンテンツの内容などを明記した、「写真提供をお願いするための伺い書」も必要になります。

無事に写真が借りられたら、貸出料、出典明記の有無や表記、いわゆる(C)表記の記載方法、紙焼きなら原本の返却期限など、それぞれ確認が必要です。

90年代に当方が編集担当していたのは、音楽、映画、文壇といったジャンルだったため、さまざまな関連写真や資料を求め、下記のような機関を利用していました。

音楽之友社:クラシック系の音楽家の写真、演奏風景など

新潮社:作家や詩人の写真など

日本近代文学館:文豪や文化人の写真など

川喜多記念映画文化財団:映画監督や俳優の写真、映画のワンシーンなど

産経ビジュアル:歌手、タレントの写真など

┗ ステップ⑤:原稿(取材)

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「著名人による執筆」の場合、当ステップは著名人のタスクになるので、流れとしてはスキップされます。

同じように、編集者がアサインした「ライターが取材インタビューし、さらに原稿も起こす」場合も著名人と同様、ライター自身のタスクになるので、流れも同じくスキップされます。

そこで、このステップでは、編集者にタスクが生じる「編集者が自ら取材インタビューし、原稿も自ら起こす」場合の流れを解説します。

<取材インタビュー前>

・い)予習:インタビュー対象者の予習、質問事項(ヒアリングシート)、プロフィールの予定稿などの準備

・ろ)道具:筆記用具、ノート、テープレコーダー(以下、テレコ)、針の時計、ノートPC、カメラ、予習資料、ヒアリングシート、見本誌(当該誌バックナンバー)、名刺など取材道具の準備

い)予習

インタビュー対象者(以下、対象者)のプロフィール、著書や作品、近況などを予習し、質問事項を整理します。場合によっては先方から質問事項の事前提出を求めらることもあるので、いずれにしても用意が必要です。

対象者の公式プロフィールが提供されないこともあるので、その場合は、あらかじめ編集者側で予定稿を用意し、当日(または原稿確認時など事後)に確認してもらう流れになります。

ろ)道具

とくにテレコは、電池切れや故障などに備え、2つ用意する編集者もいます。「やたらとテレコに頼らず、できるかぎりノートに書け」と先人から教わりますが、はじめからデータとして入力できるので、テレコを回しながらも、同時にノートPCでテキスト入力するケースが最近は多いでしょう。

また、取材時間が分刻みで制限されることもあるので、当方は視覚的・感覚的にわかりやすい針の時計を持参します。

ちなみに、気持ちよく答えていただけるよう、対象者の著書やCDなどの作品を持参しておくと喜ばれるだけでなく、好意でサインをいただけることもあります(ただし、サインを求めないのが原則)。

いずれにしても、取材インタビュー前にいかに質のいい準備をするかが重要です。取材時はもちろん、その後の記事の質にまでいい影響となるよう、丁寧な準備を心がけます。

<取材インタビュー時>

・は)挨拶:名刺交換は担当マネージャーなど関係スタッフだけと交換

・に)取材場所:理想は静かな場所、取材中はメモ書きやテキスト入力に没頭せず、できるかぎり対象者と目線をあわす

は)挨拶

当然ですが、マネージャーなど担当者とは名刺交換しながらも、対象者となる著名人本人とは名刺交換を交わさないのがマナーです。ただし、本人が望めば、もちろん名刺交換は自由です。

に)取材場所

事務所やレコード会社など、対象者の所属先やオフィスといった場所が確保できないときに、喫茶店などの公共エリアでインタビューしなければならないケースがあります。その場合は、録音することが前提となるので、ホテルの一室やラウンジなど、BGMの音量が低く、人目の少ない静かな場所が理想的です。

どうしても屋外でインタビューしなければならない場合は、意外に風の音を拾ってしまい、あとでテープを聞き返しても風の音で話が聞き取れないこともあるので、対象者のポケットにテレコを入れてもらうなど、ちょっとした配慮が必要です。

<取材インタビュー後>

・ほ)テープ起こし

・へ)原稿作成(原稿整理)

ほ)テープ起こし

音声テープからテキスト入力でデータ化することを指します。音声どおりに起こすのが基本ですが、自身が取材したテープを自ら起こす場合、カテゴリ分け、見出し、構成など、同時に原稿として組み立てながらテープを起こせるので効率的です。

一方、アシスタントや外部に依頼する場合、テープ起こしの手間は減りますが、基本的には音声どおりにすべての会話が起こされるので、整理や割愛が必要な分だけ、原稿にするまでの手間はかかります。

へ)原稿作成(原稿整理)

生起こし(なまおこし)とも呼ばれる、音声どおりに起こされた未編集のテキストデータから、本番用の文章として整える作業、すなわち「原稿にする作業」を指します。

後段でも触れますが、編集業界で原稿というと「タイトル」「見出し」「本文」などを含めた一式を指すことも多いですが、著名人に原稿を依頼した場合、基本的には「本文」だけしか執筆されません。

一方、インタビュー記事の原稿の場合は、基本的に編集者が自ら起こし「タイトル」「見出し」なども含めて「本文」をつくるので、後段で触れる「原稿整理」はこのタイミングで終えることになります。

少々ややこしくて恐縮です。いずれにしても原稿として完成させたら、次の「編集」の工程へと進みます。取材インタビューの流れは(忘れてほしくはないですが)ここで忘れて、「著名人に原稿執筆を依頼」するケースに例を戻しましょう。

⑥⑦⑧と、残り3ステップです。もうしばらくお付き合いください。

┗ ステップ⑥:編集

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1. 原稿催促:締切日前に、電話、FAX、メール、手紙、直接訪問など、執筆者の状況に応じて催促

2. 原稿入力:原稿が手書きの場合は、テキスト入力でデータ化

3. 読み合わせ:手書き原稿をテキスト入力した場合、編集者同士など二者間で確認作業

4. 原稿整理:タイトル、リード、本文見出し、プロフィールなどを起こす

5. 原稿校正:誤字脱字などのチェック、表記ルールとの照らし合わせ

6. 原稿校閲:年代、名称、事象などの事実関係、いわゆるファクトチェック

7. 流し込み:原稿、イラスト、写真など各種データを制作担当へ渡しレイアウトを制作

1.)原稿催促

締切日の前日~数日前に、執筆者の失念防止のためにも催促します。執筆者との連絡手段や緊急性など、状況に応じて催促の方法も変わります。緊急性が高まるほどに、メール→電話→直接訪問と催促の密度を濃くしていきます。

「遅稿」といって、原稿が遅いことで知られる執筆者に依頼した場合、締切日を過ぎても原稿が届かない事態に、案の定見舞われます(わかっていても素晴らしい原稿=玉稿を求め執筆依頼するのが編集者魂というものです)。

その場合、事務所やときには自宅にまで、原稿を求めて直接出向かなければなりません。担当編集者はページに穴を空けるワケにはいかないので必死です。当方も例にもれず、執筆者の自宅にまで原稿を求めて出向き、逆ギレされて胸ぐらまでつかまれましたが、原稿はおさえて帰ってきたものです。

2.)原稿入力

手書き原稿の場合は、原稿をデータ化しなければなりません。自身で入力する時間が取れなければ、アシスタントや外部などのアウトソースに依頼します。

クセの強い手書き原稿などが読めず、苦労することは編集あるあるです。昔の編集部にはクセ字の解読に長けているベテラン編集者が必ず一人はいて、よく頼りにされていたものです。

3.)読み合わせ

2.)が発生したときに、必ず必要となる工程です。一人が手書きの元原稿を読み上げると同時に、もう一人が入力データを印字した原稿を目とペンで追い、入力ミスや文字化けがないかチェックします。

記名原稿の場合、当然ですが、執筆者の原稿をそのまま尊重しなければなりません。句読点も含め、一字一句もらすことは許されないので、編集部内の二者間で読み合わせの確認を行うのです。

4.)原稿整理

前段でも触れましたが、記名原稿の場合、多くの執筆者は「本文」のみを執筆します。その「本文」に対して、タイトル、サブタイトル、リードといわれる本文導入文、本文内の要所に入れる見出し、場合によっては執筆者プロフィール、告知や関連情報など、「本文」以外を書き添えるのは、実は編集者の重要な役目なのです。

著名な執筆者の本文に、稚拙なタイトルやリードを書き添えて叱られることは、編集者が必ず通らなければならない成長への道程で、なかなかプレッシャーなのですが、まれに執筆者や編集部内から褒められることもあって、それはそれはやりがいのある作業です。

5.)原稿校正

誤字脱字や「てにをは」などの文章上のチェックで、おもに「辞書」や編集部内の「表記ルール」などに照らしてチェックする、いわゆる「校正」作業です。

6.)原稿校閲

年代、名称、事象などの事実関係のチェックで、おもに「公的機関」「専門書籍」などに照らしてチェックする、いわゆる「校閲」作業です。ファクトチェックとも呼ばれます。

5.)6.)は、「校」「校」と一字違い、いずれもが「赤入れ」とも呼ばれるので混同されがちですが、厳密にはチェックの視点や手法は、このように異なります。ちなみに、

・校正:自身が書いた文章を「他者」がチェックすること

・推敲:自身が書いた文章を「自身」がチェックすること

これも、編集的には異なる作業です。「校正」がなされずに、「推敲」しかなされていない原稿や記事が出版されることは、紙媒体ではありえません。

一方、ウェブ媒体では、量やスピードの課題に加え、修正やアップデートがいつでもできるとの緩い認識から、実は「推敲」しかなされていない原稿や記事が公開されてしまい、問題が生じることが散見されます。これらは、原稿を書いた本人以外の他者による「校正」が行われることで、防げる問題といえるでしょう。

2.)~6.)までの工程は、一連をまとめて「原稿整理」とくくられることもあります。紙媒体における最も編集らしい業務が、当段の工程ではないでしょうか。

7.)流し込み

一連の「原稿整理」が済んだ原稿に加え、イラスト、写真など各種関連データを編集者がとりまとめて、担当者にレイアウト制作を依頼します。データ類をレイアウトに流し込むことから、単に「流し込み」と呼ばれますが、「ページ制作」や「レイアウト制作」、あるいは単に「制作」と呼ばれることもあります。

┗ ステップ⑦:確認

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1. 初校出力:本番の記事体裁となる「初校」を出力

2. 編集部回覧:編集部内に「初校」を回覧

3. 執筆者確認:執筆者に「初校」を確認出し

4. 発行元確認:発行元や版元に「初校」を確認出し

5. 初校戻し:各所に出した「初校戻し」の催促や取りまとめ

6. 初校戻しの反映:各所から戻ってきた「初校戻し」の修正反映を制作担当へ依頼

7. 赤タイ:「初校戻し」と「修正を反映した出力」を付き合わせる確認作業

8. 再校出力:「再校」として出力

9. 再校確認:3.)~4.)と同じ工程を行い、再度修正の戻しがあれば5.)~9.)を行う

10. 校了:すべての確認出しや修正反映などを終えた最終データを印刷所に入稿

1.)初校出力

このタイミングではじめて、本番の記事体裁の仮ページが仕上がります。紙媒体なので、データではなく、基本的には出力した印字で確認作業を行います。記事体裁で出力された、最初の校正用の印字ということで、「初校」とされます(ちなみに、最初の原稿や最初の作品を意味する「初稿」とは別物)。

発行元、編集部、担当者によっては、「ゲラ」「デザインカンプ」「カンプ」、または校正などをチェックするための印字なので「校正紙」「校正刷り」と呼ばれることもあります。

※以降、解説上「初校」「再校」と記します。

2.)編集部回覧

記事体裁となった「初校」としての編集部内における回覧は大切です。

「初校」は、担当編集者「以外」の社内編集者に回覧されることがよくあります。なぜなら、「素読み」と呼ばれるフラットな視点での確認になるので、「校正」「校閲」などそれまでの工程では気づかれなかった問題点を見つける狙いがあるからです。

3.)執筆者確認

データをメールで出すこともありますが、紙媒体なので当然ですが、基本的に確認作業はすべて印字で行うため、執筆者への確認は(90年代当時の旧職編集部では主に)郵送やFAXで行います。執筆者に対しては、デザインや色味の確認は必要なく、原稿(テキスト)の確認だけで十分なので、モノクロのFAXで送ることも通常です。

概して著名人は多忙なので、先方との手間を避けるためにも、できるかぎり一度きりのやりとりで済むように、さまざまに配慮します。

・い)返答:時間も含め期日明記。期日までに返答がなければ入稿(印刷所に回すため修正受付不可)とすることを請う

・ろ)文言や内容の確認:不快や侮辱の懸念、発行元の規定など、何らかの理由で表現、表記、文言、内容などを編集部側で変更した場合は、その理由と変更点を明記し了承を請う

・は)不明や誤りの確認:手書きのクセ字で文字が不明瞭だった場合は当該文字の確認を、あるいは名称、年代、史実など事実関係に明らかな誤りがあった場合は根拠となる出典と確認点を、それぞれ明記し確認

・に)加筆依頼:明らかな文字数不足、依頼内容との相違、認識の違いなど、何らかの理由による加筆や修正の依頼が発生する場合は、明確な理由、加筆内容、追加文字数を明記し依頼

などを端的にまとめて確認を出します。ろ)~に)は必ず生じるワケではないですが、起こりうるケースなので、想定しておくべき配慮です。とはいえ、依頼当初の時点で明確に伝達できていれば、こうした事態は防げるはずです。

4.)発行元確認

この段で触れることになってしまい恐縮ですが、そもそもコンテンツ記事の編集は、発行元や版元の中に編集部があれば、そこが担うこともありますが、当方が属していたような、外部編集プロダクションが請け負うケースはとても一般的です(放送するのがテレビ局、制作するのが制作プロダクションみたいな)。

そうした場合は、発行元や版元への確認出しが必要です。2.)3.)のポイントとある程度は同様ですが、対発行元なので、売上寄与、出稿広告内容や出稿クライアントとの親和性、問い合わせやクレームなど読者反応への想定といった視点での配慮や対応にも意識が必要です。

なお、2.)~4.)の初校は、確認先で異なることはなく、基本的にはすべて同一の内容です。

いずれにしても、「編集部」「執筆者」「発行元」に加え、その先にいる「読者」という、四者の視点を意識したコンテンツ記事づくりが求められます。

もちろん、四者から100点をもらうことが理想ですが、あまり現実的ではありません。そうではなく、100点を目指しながらも、四者全者から及第点がもらえるバランスのとれた編集が、いいコンテンツ記事をつくる秘訣といえます。はい、大事なコトなので太文字にしておきました。

5.)初校戻し

確認を出した各所(各署、各者、各社)から、初校における修正を戻してもらう工程です。前段「原稿催促」の工程のように、締切数日~前日に催促を入れ、各所からの戻しを取りまとめます。

ちなみに、戻しに修正が入らなければ「校了」(校正終了)、修正はあるけれど確認出しの必要がなければ「責了」(責任校了)として、確認の工程としては終了となります。

6.)初校戻しの反映

編集部、執筆者、発行元と各所に出しているため、当然さまざまな修正が戻されてきます。それらを「初校」の印字にすべて書き込み、制作担当者に修正を指示します。

当方が90年代に属していた編集部では、現在の 「InDesign」以前に主流として利用されていた「QuarkXPress」というエディトリアルソフト、「Edian」(エディアン、現エディアンウィング)という組版ソフトなどでレイアウト制作を行っていました。多少の文字変更やレイアウト修正であれば、その方が早いので、これらのソフトを使って自ら修正反映も行っていました。

7.)赤タイ

初校で戻された修正は、修正を反映した記事データを出力し、修正内容どおりに反映されているか確認しなければなりません。編集者が行う確認方法が「赤タイ」という作業です。詳述しましょう。

仮に、

・修正が入れられた「修正前の印字=ゲラA

・修正が反映された「修正後の印字=ゲラB

として、両者を付き合わせます。具体的には、編集者が右利きの場合、

右側に「修正前の印字=ゲラA」を置く

左側に「修正後の印字=ゲラB」を置く

左側の「修正後の印字=ゲラB」で修正が反映されているかを確認しながら

右側の「修正前の印字=ゲラA」に修正が反映されているか赤ペンでチェック

このような確認作業は、「字の修正が入った印字=ゲラA」と「修正された印字=ゲラB」を対(つい、別の音読みでタイ、あるいは対照のタイ)にして確認するためからか「赤タイ」と呼ばれる、修正の反映モレを防止する基本的な編集手法です。

2つの印字(ゲラ)を合わせることから「付き合わせ」、あるいは「赤字照合」「赤字消し」と、呼ばれ方はさまざまあるようです。

8.)再校出力 / 9.)再校確認

赤タイを終えた記事データは、(初校の次の出力となるため)あらためて「再校」として出力され、2.)編集部回覧をのぞく、3.)執筆者確認、4.)発行元確認のときと同様に、各所へと再度確認を出します。

「再校」に再度の修正が戻された場合は、あらためて5.)~9.)のときと同様に、再度対応していきます。ただし、修正対応は「再校まで」とするのが原則、というより「再校で修正を終えられるように対応する」のが編集者の責務です。

10.)校了

写真の仕上がりや出力の色味など、デザイン視点でのチェックは「色校正」として平行または別軸で確認の工程を踏んでいきますが、テキストを主とする記事内容における確認工程は、ここで終了します。

ここまでの工程を終えた最終記事データは印刷所に提出、すなわち「入稿」と呼ばれるステップを踏むことで、一連の編集工程が完了します。

ちなみに、「校了」「入稿」に混同する工程、というか字面が似ているコトバとして、

・脱稿:原稿が書き上がること

・念校:再校以降の校了段階で、修正を受け付けない前提で出す「念のため」の校正紙のこと

・装丁:本の表・背・裏の各表紙、カバーなどの体裁や意匠を整えること

・下版:校了となった記事データ(組み版)を、最終工程となる製版や印刷にまわすこと

・製版:印刷するための原版や印刷版面をつくること

・刷版:印刷用の版、版面のこと

・製本:印刷した各ページを綴じあわせて一冊の本にすること

などがありますが、「下版」以降は印刷工程となり、厳密には編集者が介入する工程ではないので、ここでは一般的な内容を単に記すだけとします。というか、これ以上敷衍(ふえん)すると紙幅がさらに増すので、恐縮です。

┗ ステップ⑧:出版

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・刷り上がり:当該号や当該記事の完成本や完成ページの刷り上がり

・見本誌送付:刷り上がった完成本(なぜか見本誌ということが多い)や完成ページを、執筆者、写真提供元など関係各所へ、礼状とともに送付。献本ともいう

・出版:取次をとおし書店など店頭に並べられ晴れて出版

・資料返却:関連書籍や写真など、コンテンツ記事用に借用していた資料類の返却

・報酬振込:執筆者には執筆料、インタビュー協力者にはインタビュー協力料として、それぞれ報酬(ギャランティ)振込

・告知・販促:当該号や当該記事の告知、宣伝、出稿など、出版後の販促対応

・詫び:原稿段取不足、インタビュー時の失礼、出版後の誤植など、一連の編集過程で万一迷惑をかけた場合は、詫び状の送付から菓子折り持参で直接謝罪まで、過失の落ち度に応じて詫び対応

前段の「校了」(入稿)以降も、大切な工程は残っていますが、解説としては上記のとおりで、詳述は割愛します。「出版」に前後する上記を以って、すべての工程が終了します。お疲れさまでした。

地味で実直な編集工程こそがクオリティメディアたる所以

前後の順、抜けや不要、さらには触れられなかった昨今進化したネットやサービスの活用など、必ずしもこの工程どおりではない部分もあり、長らく解説しながらエクスキューズするようで恐縮ですが、あくまで90年代の旧職となる、紙媒体編集部での当方経験をベースとした編集工程の一例であること、了承ください。

ただ、ひとつ断言できるのは、ここに記した一連の編集工程は、いたって通常の流れであり、抜粋こそあれ、特別、大袈裟、脚色した工程などでは、決してありません。

詳述した本人があらためて驚くほどに、コンテンツが発信(出版)されるまでには、途方もない工程と厳しい精査が丁寧に施されています。だからこそ「誤り」「不明瞭」「不確か」「不快」といったネガティブな要素は徹底的に排除され、「クオリティメディア」の「正確で良質な情報やコンテンツ」として、世に発信されていくのです。

クオリティメディア「プライド」

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一連の編集工程のなかで、どこかひとつでも引っかかった「文言」「文章」「情報」「コンテンツ」は、クオリティメディアから世に発信されることは、決してありません。どこまでも正確で良質なものだけがその発信を許され、信頼に値する情報やコンテンツとして、市井に受け取られるのです。

情報やコンテンツを発信する覚悟がつまった一連の編集工程を、編集者は当然のように実直に全うしています。しかも、記事やコンテンツの一頁、一文、一文言ごとに。こうした構図こそが「クオリティメディア」とされる所以であり、情報やコンテンツが信頼に値する「メディアプライド」として誇るべき論拠なのです。

新聞から。書籍から。雑誌から。テレビから。ラジオから。そして、ネットから。

厳しい編集工程をクリアした、正確な情報や良質なコンテンツは、今この瞬間も、クオリティメディアのプライドとともに、発信され続けています。

(了)

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