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お腹いっぱいの話。



 「最近ちゃんとお腹空くなあ。」

そんなことを、冬至の昨日カボチャを煮ながら考えていました。
今は「証明」の話をします。


 性的マイノリティは、「らしさ」を強く求められがちです。
 テレビや漫画で描かれているような、テンプレートな「らしさ」「それっぽく見える事」「イメージ」。
 話し方、服装、仕草、趣味、本当に様々な「らしさ」。
それはストレートの人たちにも降りかかる「男らしさ」「女らしさ」と同等。もしかしたらそれ以上かもしれません。

 何故ならその「らしさ」を提示しなかった場合、
「なんだ〜、結局お前は女なんだな。」
と、セクシャリティ自体を否定されることが往々にしてあるからです。
 マイノリティは「証明」や「説明」を常に求められるなあ。大変だ。

 本当は話し方・服装や仕草は「性表現」と呼ばれるもので、性的指向や性自認とは全く関係のない話なのですが、それでも自分のセクシャリティを問答無用で否定されるのは悲しい事です。
 特に私はホルモン治療などを行なっていない身なので、仕草や行動で「男らしさ」が伴わないものを提示してしまった時はすぐ
「あ、そこは女の子なんだ」「ほら、やっぱ女の子じゃん」
という言葉が飛んできます。
 その言葉と極力出会いたくなかったので、自分の全生活全時間をかけて「自分が女の子ではない」証明をし続けていた時期がありました。

例えばこのような事。

・明るい色の服や物を身に付けない(赤・オレンジ・ピンクなど)
・リップクリームを使わない。
・酒をガンガン飲む。(でもカクテルは頼んではいけない。カシスオレンジとカルアミルクは絶対に頼んではいけない!!)
・下ネタを使えるようにする。(女の人を貶す冗談なども含む)
・力仕事を率先してやる。(たとえ身体がぶっ壊れようとも)
・身だしなみを整えすぎてはいけない。
・犬猫子供をみて「可愛い」と言ってはいけない。
・裁縫道具を持たない。
・女の子が知っている様な情報を極力遮断する(化粧の仕方、生理についてなど)
・生理が来ても体調が悪い事は絶対に表に出さない。
・女の子を喚起させる様な食べ物を人前で口にしない(野菜スティック・パフェ・タピオカ・甘いカクテル・アボガド・チーズフォンデュなどなどなどなど)


 並べてみると、何だこれwww不毛な努力www
 しかし実際お酒を遠慮すると「あ、結局は女の子なんだ〜」
赤い服を着れば「今日は女の子〜」
衣装を縫えば「そこは女の子〜」
マグロアボガド丼を頼めば「やっぱり女〜」
宮部みゆきを読んでたら「ほら、女の子〜」
ぷよぷよのアプリやってたら「女の〜」
下ネタを遠慮すると「女の〜」エンドレス。
 でも、僕だってお洒落はしたいし、パフェ食べたい。チョコパフェ大好きです。
 下ネタはそもそもあまり好きではないし、自分のセクシャリティの「証明」のために女性を揶揄する冗談を言うのも本当に嫌でした。

 きっと人々が口にする「そう見える」「そう見えない」は、テレビや映画、演劇、漫画によって作られたイメージなんだろうと思います。

 「そう見えない」

 そう見えなくて、当たり前なのになあ。

 知らない人たちは「そう見える」格好でいてくれる方が、わかりやすくて、安心するし、納得しやすいんだろうなあ。と想像します。
 けれど性的マイノリティも当たり前に、みんなと同じ格好をしているし、みんなと同じ様に自分が好きなものを身につけています。好きなものを食べます。
 そもそも自分がトランスや男に見えるように、誰かに提示する義務はありません。

 お願いしたい事が一つだけあって、「そう見えない」からといって、その人のセクシャリティを否定する事だけはやめてほしいということです。
『そう見えないんだから違うんじゃない?』と。
「証明」を求める事は、不毛です。
セクシャリティは、見た目ではわかりません。



 なんでカボチャを煮ながらこの事を思い出したかといえば、人とご飯を食べていた際に少しおかずを残した事がありまして、その時に
「あ、そこは女の子なんだあ。」
と言われてしまった事があったのです。
 それからずっと、成人男性の食事量、またはそれ以上を無理に摂取する努力をしていました。
 え、そんな事でも言われるの?って感じですが、マジでそんな事でも言われます。
 お腹いっぱいを通り越していて美味しく感じないし、でもそれよりも「女の子」と言われてしまう事を避けたくて食べ物を咀嚼していました。
 しかしそもそも身体や胃袋は女体なのだから、その努力は無駄無駄ぁ、不毛不毛。

 今ではその習慣をおしまいにしたので、ちゃんとお腹が空きます。
 自分の身体が求めるぶんだけ、食べます。
 自分の身体に合ったお腹いっぱいは、心が満たされます。
 小鉢に入ったカボチャは美味しかったし、あと、M−1は最高でした。



華子

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