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【ベルリン留学記】日本の労働量が今の4分の3になっても社会は回るんじゃないか、という話

留学中に出会ったペルー出身の学生が日本語を学んでいるというので、教材を見せてもらった。すると、その中にこんな例文があった。

「最近働きすぎで、とても疲れています」

私はこの例文を見て思わず吹き出してしまった。
例文になっているからには、これが「よく使う言葉」として認識されているのだろう。他の留学生にも、日本人は労働時間が長いと考えられていたので、日本はやはり長時間労働のイメージがついているのかと苦笑した。

労働環境について語るときに、ドイツは比較対象としてあげられることが多い。労働時間の短さや、長時間労働をさせないための規律など、ドイツには過労を防ぐための様々な仕組みが整っている。

しかし、私がドイツに滞在している時に感じたのは、みんないい意味で「労働に対する熱量が高すぎない」ということだ。今回は2つの事例を紹介しようと思う。

その1 日曜日は基本的に店が閉まる

日曜日、家族を連れてデパートで買い物に行く。スーパーで買い出しをして、1週間のご飯を作り置きする。デートで服屋をめぐる。

そんな光景をドイツで見ることはない。

なぜなら、日曜日には飲食店を除くほとんどの店が閉まっているからだ。
デパートも、服屋も、本屋も、なんならスーパーも閉まっている。

(今日は日曜日だったのだが、土曜日に食べ物の買い出しをするのを忘れた私は、かろうじてスーツケースの中に残っていたパン1つで飢えを凌ぐことになった。)

日曜日は、日本で言えばいわゆる「かき入れどき」である。
休日に店を開けないなんて商売意欲が薄すぎる、と私も到着した当初は感じたものだ。

しかし、日曜や祝日に店を原則営業してはいけないということは法律で定められたものらしい。

そのため、ベルリンの住民は、公園に行ったり、飲食店で食事をしたりお酒を飲んだり、散歩をしたりして日曜日を過ごす。
ベルリンには多くの公園が、郊外には緑地や湖があるのでこのような暮らし方も可能になっているのだ。

最初は不便だと感じたが、しばらく過ごしていると
「日曜は店がやっていないから、今のうちに水を余分に買っておこう」
「スーパーが空いているうちに食材の買い出しをしておこう」
というふうに、休みになることを見越して事前に買い物をしておくようになった(今週は忘れてしまったけれど…)。

デパートや店が空いていなくても、公園の中の木陰にあるベンチで本を読んだり、芝生にシートを広げてピクニックをしたりと、ゆったりした休日を過ごすことができる。

週に1日くらい店が閉まっていても意外となんとかなる。

これがベルリンにきて感じたカルチャーショックであり、新たな気づきだった。

ベルリン市内のデパート。綺麗な飾り付けがされているけれど、今日は日曜なので休み。

その2 客が来た時しか店頭に立たない店員

日本のコンビニを思い浮かべてみて欲しい。
たとえ店内に客がいなくても、客が来たときに備えてレジで待っていたり、商品棚の整理をしたり、在庫を確認したりと、基本的にずっと「仕事をしている」のではないだろうか。

ドイツのコンビニ(と言っても飲料とお菓子を売っているキオスクのようなところ)に寄ろうとしたところ、店の前の椅子でタバコをふかしているおっちゃんがいた。

ああ、きっと他のお客さんがくつろいでいるんだな、

そう思って店に入ると、レジには誰もいない。
一応目当てのものを手に取り、レジに向かうと、
さっきのおっちゃんがようやく立ち上がり、私に向かい合うようにレジに立った。

そう、さっきタバコを吸っていたおっちゃんは、コンビニの店主だったのである。

またある昼下がり、観光地近くのファストフード店に寄ろうとしたときのこと。
私の友人が、その店のテラスに腰掛けてぼーっとしていたお兄さんに声をかける。
「すみません、ここで食事をしたいのですが。」
すると、お兄さんは立ち上がり、店内の厨房に向かった。
そう、このお兄さんがファストフード店の店員なのである。

ベルリンでは、客がいない時に店員や店主が「何もしていない」ことがよくある。

在庫の整理をするでもなく、商品の点検をするでもなく、掃除をするでもなく、ただただ外に出てのんびりしたり、タバコを吸ったりしている(もしかしたら経営について思いを巡らせているのかもしれないけど)。

それでも、人々は特にクレームを言うことなく、淡々と買い物をしているのだ。

日本の労働者は「働きすぎ」?

ベルリンに来て思ったことは、日本(の都会)はとても便利な社会だと言うことである。

コンビニやスーパーは綺麗に掃除されているし、
何か欲しいものがあったら24時間手に入れることができるし、
遊びに行きたければ、いつでも場所には事欠かない。

今日本に帰ったら、あまりの便利さに「日本サイコー!!」と思うかもしれない。
一方で、その便利さを支えているのは、長時間労働・夜勤・低賃金などの犠牲を払っている労働者なのである。

では、本当にそこまでする必要があるのだろうか?

日曜祝日に店が空いていなくても、
店員が客のいない時にぼーっとしていても、
ベルリンで人々は普通に生きている。

昼間からビールを飲んだり、
テラス席でゆったりと食事をしたり、
公園でのんびり昼寝をしたり、
緑の中で子供を遊ばせたり、
ゆるっと毎日を楽しんでいるように見える。

今よりは少し不便な社会になるのかもしれないけど、
たとえば日本人の労働時間が4分の3くらいになっても、
日本社会はちゃんと回るのではないか。

今日はそんなことを考えた1日だった。

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