さようならを押し退けて

白いお皿
飛び散る赤いソース
パスタは投げても愛は放り出さないでね

僕のためのパスタ
ピーマンを切る時指も一緒に切った

誰もみていないから
そのままピーマンを切り続けた

唸る換気扇に
さようならと呟いたら
そのさようならは僕の街に広がって
やがて消える

ゴミ置き場 お弁当箱 胃がん

そのすべて、に、僕のさようならが降りかかる

換気扇のあみあみに粉々にされたさようならが
さらさらと降り積もる

その様をベランダの柵にもたれて見つめていたら向かいの道路から君が歩いてくるのをみた
緑の自転車を押して
僕のさようならを掻き分けて

知らない君
次の瞬間には僕の隣にいて裸で抱き合っている

その少しのあいだ
僕は僕の放ったさようならを忘れる
君は僕のさようならの上で寝ている
心地よさそうな寝息は
そういえば今もなお漂うさようならと似ているな
そこでやっと、思い出す

朝が来ればさようならは消える
君もいなくなる
そうしたら僕はまた
パスタを茹でる

雑なパスタ
僕だけが食べるパスタ

だから放り投げたっていいんだ
可哀想なのは僕だけなのだから

誰にも振る舞うことのないだろうパスタを
茹でてまた放り投げて血を流して

ふと寂しくなればまた
換気扇に向かってさようならと呟く

それは呪文でも祈りでもなく
僕の切実な願いなのであって

なので、そうすればちゃんと
またまた行儀良く
君が自転車を押しながら
歩いてくるのだった

僕のさようならを押し退けて

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