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【テーマ探究】教科時間内に探究を実施する理由とその方法(時間の作り方)

高等学校の学習指導要領に探究学習が組み込まれるようになってもうすぐ2年経ちます。
今では、総合探究の時間以外にも、主要5教科の中に探究的な学習を取り入れようとする動きも多く見られます。

しかし同時に、現場の先生からは
「ただでさえ時間が足りないのにどうやって授業内に探究的な学習の時間を作れというの?」という声も聞きます。

そこで今日は、総合探究時間以外の教科の中に探究学習を組み込むにはどのような時間を作れば良いかについて書いてみたいと思います。

今回の記事は、下記のような状況にいる先生に向けて書いてみました。
・授業内で探究的な学びを取り入れたい
・自分の裁量で授業を組み立てることができる
・教科会議に参加し、意見を上げられる
・カリキュラムをいじることができる(教務部)


今回は、主体性を育むために必要な3要素(オープン探究、テーマ探究、環境)のうち、テーマ探究について書いて行こうと思います。
※主体性を育む3つの要素についてはこちらをご覧ください。

🔸授業内で探究をする理由

そもそも総合的な探究の時間以外の教科内で探究をする意味はどこにあるのでしょうか?
3つの観点からこの理由を説明してみようと思います。

1)自己効力感を身につける

自己効力感という考え方(Self-efficacy theory)を提唱したアルバート・バンデューラは自己効力感を高めるためには4つの要素が必要だと言っています。
①直接的達成経験
②代理経験
③言語的説得
④生理的・情動的喚起

その中で①直接的達成経験とは自身で行動した時に感じる成功体験のことを指します。
つまり、何か行動を起こした時に得られた「できた」という感覚です。
当たり前かもしれませんが、この経験は自己効力感を高めることがわかっています。

ポイントは子どもが自分の意思で経験し、その結果「できた」と感じることです。
この体験を普段の授業の中で取り入れていくことで、子どもたちの自己効力感を高めていくことができます。

※バンデューラについてわかりやすくまとめた記事がありましたので、興味がある方はこちらもご覧ください。

2)教科の学びを構造的に理解する

知識はどのようにして構築されていくのか、という話になりますが、
ピアジェから「構成主義」という考え方が始まり、ヴィゴツキーは「社会構成主義」という考え方を提唱しました。

※構成主義についてはぜひこちらをご覧ください。

簡単に言うと、知識は一方的な伝達によって譲渡されるものではなく
個人の経験や、社会環境に影響を受けながら個々人の中で形成されていく、という考え方です。

この理論に基づくと、普段の教科学習の中でも知識の伝達に終始せずにPBLや探究学習を取り入れることで生徒個々人の中で知識が構成されることになります。

また、経験による知識の定着率については、ラーニングピラミットからも分かる通りですが、講義と自ら体験することの学習定着率の差は歴然です。

時間がかかると言われている探究学習ですが、
知識の定着を念頭に考えるのであればむしろ効率的なのではないかと考えています。
(もちろん一部の非常に記憶力のいい方を除いた話ですが)
経験を伴わない知識はほとんど覚えていないか、単語だけ記憶してその内容を理解できていない場合が多いのではないでしょうか?

これは、カリキュラム・オーバーロード(カリキュラムにおいて、学校や教師、生徒に過大な負担がかかっている状態)を囁かれる現行の教育にとっても有効な解決策だと思います。

3)学びの理由を考える

学ぶ理由を子どもたちが理解するというのは、なかなか難しいことです。
どんなに先生方自分の体験を通して伝えても、それこそ3分の1も伝わらないのではないでしょうか?

しかし、授業内で使った学びを使って探究学習を行うことで子どもたち自身がその有用性を実感することができます。
得られた学びを概念的に理解し学習の転移を起こすことができれば、なおさら学ぶことの理由を感じることができます。

シュタイナー学校の卒業生に話を聞いたのですが、
講義で得た知識を実際に使う体験を繰り返し、それらの学びを構造的に(さまざまな経験・知識とリンクさせながら)理解することで色々な場面で知識を応用させて使うことができる感覚があるそうです。
その感覚のおかげで「学習=役にたつ」という理解につながり、学ぶことへのモチベーションにつながるそうです。

もちろんこれにも個人差はあります。
学ぶ理由を理解しモチベーションに繋がったが、同時にめんどくさいという気持ちもあるので、結局勉強はしなかった。という場合もあると思います。

ですが学習が役にたつ実感がないまま、テストのため、将来のためと自分を納得させて無理に記憶に定着させようとするよりは精神的にも健全な気がします。

🔸方法と実践例

ここからはいよいよ、どのように探究的な活動を授業に組み込んでいるのかをご紹介していきます。

授業内に探究的な活動を取り入れる方法は様々あります。
取り入れようと考えている先生がどの立場(役職)なのかによっても取れる行動は変わります。
今回は、下記の3つの立場から実践方法を見ていきたいと思います。
A)授業を1人で担当されている(個人)
B)年間の教科進度を調整できる(学年)
C)年間のカリキュラムを調整できる(学校)

A)授業時間をやりくりする(個人)

個人(もしくは複数)で授業内容を決められる先生が、どのように時間を作れるかについて書きます。
多くの場合は学年や学科、コースによって進度が決められており、学期末の定期テストを基準に授業を進めているのではないでしょうか。

テストまでに余裕のある場合はテスト前や学期の途中に探究活動を入れることができますが、そうでない場合はなかなか時間を作る余裕が持てません。
なかなか個人で時間を作るのは難しいというのが正直なところではあり、可能であれば学年の同じ教科担当者と話し合い、進度の調整を行うことが理想的です。

とはいえ、個人でできることがないわけではないので、その方法を紹介します。
アクティブラーニングのメソッドを導入する方法です。
アクティブラーニングの重要なポイントの1つとして、教員側が話す時間を短くすることが挙げられます。

必要最低限の知識やノウハウを生徒に伝えた後、その知識ノウハウを使って生徒が問題を解いたり教え合い学習を行います。
一見時間がかかる方法に思えますし、実際「教えるだけより時間がかかる」という声もありますが、僕はこの方法でかなり余裕を作ることができるようになりました。

ポイントは、僕自身が「すべてを説明しないといけない」という考えから脱却することにあったように思います。
説明部分を授業時間の20%〜30%くらいで終わらせなければいけないと考えると基本的な説明しかできなくなります。
その分、応用編は子どもたちが自分で問題を解いたり、教え合う中で習得するように促します。
この方法でも定期テストの平均点に大きな変化が出なかったので、必要な部分は自分たちで学べることがわかりました。

この経験から、概要と基本だけを説明するようになり、授業全体に余裕が生まれた気がします。
生徒も講義形式で学ばなければいけない知識量が減ったため、集中力が増しているようでした。

アクティブラーニングの具体的な方法に興味がある場合はこちらの本がお勧めです。図解でわかりやすく具体的、僕もお世話になった本です。

B)教科を進める時間を限定する(学年)

ここからは個人ではなく組織(システム)の話になります。
探究的な活動を教科に入れるためにはやはり学年や学校で話し合いを行い、コンセンサスをとって実施することをお勧めします。

その理由は、導入の過程で「なぜ探究活動を教科に組み込むのか」という非常に重要な部分に触れるからです。
「忙しい中、そんな時間取れるか!」と言われそうですが、探究学習が効果的に機能している学校はもれなく先生同士が対話をもとに協働しています。
個人の先生が探究を実践している場合は、(当然ですが)属人的な活動になるため、その先生が移動したり、忙しくなった時にすぐに寄り戻しがおき、せっかく積み重ねた探究活動が衰退します。

その点、学年や教科ごとにコンセンサスをとって探究に取り組むことは大きな意味があります。
先生方が探究に対する共通認識や共通目標を持つことで、活動に一貫性が出て生徒も理解しやすくなります。

ではコンセンサスをとった上で、どのような方法で探究的な活動を教科に取り入れていったのか、事例を紹介します。

①学ぶ総量を減らす

これが一番手っ取り早く、わかりやすい方法です。教科担当者が話し合い、学ぶ総量を減らします。具体的には2つ方法があります。
・単元数を減らす
・取り扱う題材/応用問題を減らす

学校によっては「教科書の内容はすべて網羅しなければいけない」という暗黙の了解のようなものがありますが、本来教科書は補助的に使うツールであって必ず従わなければいけない手引書ではありません(日本は比較的、手引書の側面が強いですが)。

教科書の何を取り扱うかを議論し、学ぶ総量を減らすことで別の学習に時間を割くことができます。

この方法は探究に力を入れている多くの学校が取り入れている方法です。
先生方の対話によって「細かい知識を講義型で全員に教える必要があるのか?」と疑問を持つようになり、学びの総量を再検討したという話は近年多くなっています。

②探究の期間を決める

大阪の私立校の例ですが
コース全体で探究に力を入れることになり、探究的な活動を教科にも導入した話を聞きました。

学期の中で、学期末の期間は単元を進めずに探究活動をすべての教科内で行うことにしたそうです。
かなり思い切った事例だと思いますが、これにより学年で軸を決めた探究学習を行うことができたそうです。

例えば1年生は「自分を知る」という軸(テーマ)で各教科探求活動を行うと話し合いで決めたとします。
数学で二次関数を学んだ場合は「二次関数」×「自分を知る」、
日本史で戦国時代を学んだ場合は「戦国時代」×「自分を知る」
のように各教科での学びとテーマを掛け合わせた探究活動を行います。

これにより、様々な方法で「自分を知る」という探究活動ができるため
生徒の理解度が上がるそうです。

C)カリキュラムを動かす(学校)

最近、東京の渋谷区で大きな変革がありました。
全小中学校で午後の授業を探究にするという全国初の取り組みを決定したそうです。
賛否両論あるようですが、個人的には応援したいところです。
(賛否両論あり、そこから対話につながることが重要ですよね)

①単位数を減らす

渋谷区という地域全体での変革とは言わずとも
学校単位であれば、管理職や教務課がある程度変更を加えることができます。
例えば高校卒業に必要な単位数は74単位ですが、全日制高校では1学年に28単位ほど(合計84単位)を取得しているのが現状ではないでしょうか?
この10単位分は学校の方針で減らすことができる単位数になります。(必履修単位などの調整もあるので一概にはいえませんが)

②定期考査をなくす(減らす)

定期考査の実施有無についても学校独自で決めることができます。
実際に定期考査を廃止してその期間を探究的な活動時間にあてた事例もあります。

定期考査をなくすことは非常に大きな決断に違いありませんが、不可能なことではありません。学校経営で可能なことと不可能なことを知っておき、可能なことに目を向けることは重要なポイントではないでしょうか?

上記の事例では定期考査をなくす代わりに、総合型選抜で大学に行ける動線を引いたり、海外の大学への道を提案したり、高校卒業後の進路も用意されていました。

定期考査以外の方法で、日々の習熟度を計ることは不可能ではありません。
通信制ではレポート提出と日頃の小テストで成績をつける学校もあります。
考査期間を短くする、もしくは無くしてしまうことで、得られるものもあるのかもしれません。

③時間割で連続した探究のコマを作る

探究学習に力を入れている先生方から「時間が足りない」「土日しか生徒が学外に出れない」といった悩みを聞きます。
週に1コマでは探究活動の進度も悪く、できる活動も限られます。
まとまった時間が取れないと学外に出る機会も作れません。

そのため、管理職や教務課と話し合い、時間割を組み替えて午後の2時間を探究に当てるなどの対応をとる学校が増えています。
対話を通して、学校を挙げてのプロジェクトに昇華していけると取れる選択肢も増えてくるかもしれません。


まとめ

さて、今回は探究的な学びを教科に取り入れる理由と、その時間をどう作っていくかについて書きました。

個人でできることはあまり多くないかもしれませんが、
今は学校単位で探究に力を入れている学校でも、最初は個人の活動から始まったという事例もいくつもあります。
個人で時間を作り探究を実施し、その活動に賛同した同僚が増え、そうこうしているうちに学校全体に広がるそうです。

少しずつ、対話を繰り返しながら
時間を作っていけると良いのかもしれません。

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