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St. 邪魔してごめん's Day

バイトをしていて、日も暮れてきた頃。
女性の若手社員さんに声をかけられた。

石川さんも、それ食べてくださいね。

広いテーブルに、プリンが十数個置いてあった。
バレンタインの義理チョコとしてのプリン。

義理といっても、デパ地下に売っているような
おしゃれで立派なプリンだ。

ありがとうございます!いただきます。

チョコと普通のがあったので、
普通のプリンの方をもらう。

さすがおしゃれで立派なプリンは、
風邪の治りかけに染みる美味しさだった。

……しばらくして、同じ人に声をかけられる。

あっ!石川さん、そっち食べちゃったんですか?

……えっ?

そっちはチョコが苦手な偉い役員の人用の
食べちゃいけないプリンです!

やってしまった。

バイトの僕が入ってないメーリスでは
共有されていた周知の事実らしいが、
それを知らずに食べてしまった。

普通の方は、1個しかなかったのだ。

ごめんなさいと謝ると、役員の人が優しくて
「いいよいいよ」とフォローしてくれて。
周りも笑いに変えてくれたけど。

とても居た堪れない気持ちになった。

こっち食べていいですかとか、
ひとこと聞いてれば防げたことだ。

夕方で集中力が切れていて、
つい何も考えず取って食べてしまった。

人の恋路も、人の義理路も、
邪魔する奴は馬に蹴られるべきなのに。

自分の浅ましさが恥ずかしくなり、
逃げるように退社した。

……今度、同じプリンを買ってきて渡そうか。
そうだ!そうしよう。いい考えだと思った。

でも、この場合どっちに渡せばいいんだろう。

本来もらうはずだった役員の人の方か?
いやでも、僕にもらっても仕方ないよな。

いったん社員さんの方に渡して、
そっから役員さんに渡してもらうか?

どちらにしてもハードルは高い。

おっさんのバイトが、なんでもない日に、
プリンを渡してくる。

僕は気味悪がられずに渡せるだろうか。

……自信がない。

もういっそ、こういうときのための日を。
僕みたいな愚かで勇気のないやつが
プリンを渡せる日を作ってほしい。

人の恋路や義理路を邪魔したやつが
ごめんなさいと謝れる日。

St. 邪魔してごめん's Day。

バレンタインとホワイトデーの間のどこかで。

もしかしたら2月29日は、
このためにあるのかもしれない。

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