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子うさぎハッピーの冒険

あるところに白いウサギたちが暮らす村がありました。

しかし一匹だけ白くないウサギがいました。

名前はハッピー、白と黒の斑点模様がついた子うさぎでした。

ハッピーは他のうさぎと模様が違うからか他の子うさぎにいじめられていました。

だからハッピーはいつも木によじ登って隠れていました。

「あいつは臆病で小さな半端者さ」とみんなは笑っていました。

ハッピーはなぜ模様が違うだけで追い回されなければならないのだろうか、と思いました。

ハッピーには心配事がもう一つありました。

ハッピーのお母さんウサギは病気で体が動かせませんでした。

ハッピーにはお父さんがいません。

だから貧しく暮らしていました。

「ハッピー、ごめんね」とお母さんがいつも言うのがハッピーは耐えきれませんでした。

ハッピーはお母さんと暮らすために小さいながらも働いていました。

学校に行かずに、人参畑で収穫の手伝いやら雑用やらをしていました。

朝から晩まで働いても二人分の生活は楽になりませんでした。

そんなあるときに、ハッピーは村の長老ウサギに悩みを相談しにいきました。

「ふむふむ、大変可愛そうじゃが、わしらも生きていくのに精一杯で助けも出せそうにない」

ハッピーはとってもがっかりしました。

「じゃが、病気を治せる万能薬を作り出せれば、お母様は良くなるであろう」

一筋の希望を見つけたハッピーはすがるように長老ウサギにどうやったらそれが手に入るのか聞きました。

「村を出て東に進むと大きな川がある。そこを渡った先に大きな山がある。その山の頂上に生えている薬草があれば万能薬を作り出せる」

ハッピーがそれを聞いて走り出そうとするのを長老ウサギは「待て」といって止めました。

「薬草までの道のりは大変危険じゃ。村から川までは道はあるが、川の中には獰猛な川の主が住み着いていて、誰も近づけない」

長老ウサギは一呼吸置いて続けました。

「さらにもっと過酷なのは頂上までの道のりじゃ。長く険しい上に、頂上付近は雪がつもり風も強い。行っても凍えて死んでしまうのが落ちじゃ」

ハッピーは希望がなくなり、下を向いて泣きそうになりました。

どこにも救いがないことに絶望しながら、とぼとぼと足取りを重くして家へとかえりました。

しかし、数日後ハッピーの状況はさらに悪くなりました。

ここ数日は凍えるような寒さでした。

そのせいか、お母さんウサギの容態が悪くなりました。

すぐに長老ウサギを呼ぶと、お母さんウサギはとても危ない状態だと告げられました。

一週間以内に万能薬を飲まないと死んでしまうと言われました。

「ハッピー、一人でも強く生きるのよ。お母さん、何もできなくてごめんね」

ハッピーはお母さんウサギの言葉を聞いて、家から飛び出しました。

涙が止まりませんでした。ただ何もできずに大切な人がいなくなるのが、耐えきれませんでした。

そして、自分の愚かさに気づきました。希望は待っていてもやってこない、なにかに期待するのは間違っていたと。

ハッピーは強い覚悟で決心しました。薬草を取りに行くことを。

長老ウサギに伝えると、「お母さんウサギとの残り少ない時間を無駄にしてはいけない」と言われました。

しかしハッピーの決意は変わりませんでした。

「絶対に薬草を取ってきます!長老は万能薬の準備とお母さんをよろしくお願いします!」

ハッピーは長老ウサギの静止の声を無視して、東へ走り出しました。

丸一日飲まず食わずで川までやってきました。

時間は真夜中であたりは真っ暗でした。

ハッピーは足を止めて様子をうかがうと、川には大きく刺々しい背びれを持った主がいました。

ですが主は眠っていました。

ハッピーはそーっと音を立てないように川に近づきました。

川を渡るには吊橋を進むしかありません。

ボロボロの吊橋の長さは短ったですが、今にも壊れそうでした。

それでもハッピーはお母さんのために吊橋を一歩一歩進むました。

注意深く吊橋を渡りますが、渡るたびにギーギーと音がして主が起きないかビクビクしました。

渡る前よりも吊橋の長さが長く永遠に感じました。

とても長い時間をかけて、ハッピーは吊橋を渡り終えることができました。

主の方を見ると、気持ちよさそうに寝ていたので安心しました。

そのまま森へと入りましたが、暗くて道がわからないので朝を待ちました。

座り込むと、ハッピーの足はガタガタ震えて、お腹がグーグーとなりました。

朝が来るまでハッピーはお母さんのことが不安で一睡もできませんでした。

本当にこれで良かったのか、お母さんと一緒にいるべきじゃなかったのか、と考えずにはいられませんでした。

朝日が昇り、ハッピーは走り出しました。

山の方角に走っていると、ガサガサと音がして巨大な影がハッピーの目の前に落ちてきました。

ハッピーが急停止すると、落ちてきたのは黒クマでした。

黒クマは「いてててー」と言いながらのそのそと、ゆっくりと立ち上がりました。

「黒クマさん、どいてくれないかい?ぼく急いでいるんだ」

ハッピーがイライラしたように言いました。

「あー、ごめんごめんー。木に登ろうとしたらー落ちちゃってねー」

やたらゆっくりとした口調にハッピーは無視して行こうとしました。

「あーそうだー。子うさぎくん、君があの木のみとってくれたらどいてあげてもいいよー」

黒クマはハッピーの目の前に立ちふさがり道を塞ぎました。

「黒クマさん!僕は急いでいるんだ!早く行かないと大変なことになってしまうんだよ!」

ハッピーはこんなに怒ったことは今まで一度もありませんでした。

「ぼくだってー、あの木のみを食べないとー、空腹で大変なんだよー。冬眠中の木の実は全部食べてしまってー、お腹がぺこぺこなんだー」

黒クマはハッピーの事情も知らないで、さっきよりもゆったりと言いました。

ハッピーはこれ以上話してもきりがないと考えて、木に登り木の実をとってあげました。

「うわー、ありがとー、これで生き返るよー」

黒クマはむしゃむしゃと木のみを食べ始めました。

ハッピーはそのすきに走り出していきました。

村で逃げるときに木登りしておいてよかった、と思いました。

しばらく進むと、黄色い狐に出会いました。

狐は優しそうな感じだったので、ハッピーは山への道を聞きました。

「きつねさん、山を登るにはどの道へ行けばいいのかな?」

「おやおや、なんで山なんかに行きたいのかい?今は寒くて死んでしまうよ」

「山の頂上にある薬草がほしいんだ。お母さんが病気でとても必要なんだ」

「薬草か。たしかにあれは貴重で一本の薬草で一年分の鶏肉が手に入る値打ちだ。とても厳しい道程だよ?」

「それでもかまわない。絶対に僕はあきらめない」

狐はハッピーの固い意志を理解してくれたのか、詳しく丁寧に山への道のりを教えてくれました。

「無事に帰れたら、ここでまた会おうね。子ウサギさん」

「ありがとう、きつねさん」

ハッピーは狐にお礼を言って走り出しました。

狐はニッコリと笑顔で見送りました。

ハッピーは山の麓までたどり着きました。

日は暮れ始めていましたが、ハッピーは構わずのぼりはじめました。

時間がない、早く薬草を手に入れないと間に合わない、とハッピーは焦りながら険しい道を進んでいきました。

夢中で進んでいくとあたりは真っ暗になりました。

それに凍えるほど寒くなり、ハッピーの足の感覚がなくなってきました。

疲れて足を止めると、それまで気にしていなかった空腹感がどっとやってきました。

意識は薄くなり、目はだんだん開かなくなり、足はもう限界でした。

それでも一歩一歩進むハッピーを山は拒むように強い風を吹かせました。

ハッピーの小さな体では強い風に耐えきれなくなり、後ろに飛ばされて転げ落ちました。

そしてハッピーは大きな石にぶつかって動けなくなりました。

強い風と凍えるような寒さに苦しみながら、ハッピーはごめんなさい、お母さん、と心の中でつぶやきました。

そうしてあきらめかけた、その時でした。

「きみ、大丈夫かい?」

目を開けるとタヌキがいました。タヌキはハッピーを背負いました。

タヌキの毛皮がとてもあたたかく感じました。

「行かなくちゃ、いけないんだ」

ハッピーは小さな声で言いました。

「すぐそこに俺の家がある。まずはそこに行こう」

タヌキは優しい声で子供に言い聞かせるように言いました。

ハッピーの意識はそこで途切れました。

美味しそうな匂いがしてハッピーは目を覚ましました。

「おはよう、子ウサギくん。体調はどうだい?」

タヌキがスープを作りながら言いました。

「タヌキさん、ありがとう。寝たら元気になったよ。でも僕は薬草を取りに行かくちゃならないから、もう行くね」

ハッピーが起きて飛び出そうとすると、タヌキはハッピーを掴んで引き止めました。

「こらこら、そのまま行ってもまた同じ目に合うだけだぞ。しっかり食べて、準備を整えるんだ。そうすれば必ず薬草が手に入るぞ」

「え?僕薬草なんて行ったけ?」

「君は寝言でずっとお母さんとか薬草とかつぶやいてたからな。よほど切羽詰まっているだろうが、今は我慢だ。君名前は?」

「僕はハッピー」

「俺はマイルズ。この山のことならなんでも分かる。一緒について行ってやるから今は休め」

ハッピーはマイルズの説得にしばらく考えてうなずきました。

マイルズはそれを見て満足したのか鼻歌を歌いながら、食事の準備をはじめました。

食事をしながら頂上へ行く計画をマイルズは話し始めました。

頂上付近は風が強く、進むことはほとんど無理らしいこと。

でも日が登る前のわずか数時間だけ風は弱まること。

だから今日は休んで真夜中に出発すること。

ハッピーはマイルズの話を一言も漏らさないように聞きました。

本当は一刻も早く出発したい気持ちでしたがなんとかこらえました。

「マイルズはどうして僕を助けてくれるの?」

「おかしなこと言うなハッピーは。困っている人、しかも命をかけてるヤツを助けないわけ無いだろ」

ハッピーは嬉しすぎて涙がこぼれてしました。

ずっといじめられて、お母さんも病気で、理不尽なことも多かったので希望なんてないんだと思っていました。

「しっかり食えよ!頑張ってお母さん助けようぜ」

マイルズの言葉に一生懸命うなずいて、手渡された野菜スープをたくさん食べました。

食べたあと、ハッピーはマイルズの手伝いをしました。

マイルズは断りましたが、ハッピーはどうしてもやると言って譲りませんでした。

そうして、真夜中になり決行の時間になりました。

ハッピーのお母さんの残り時間があと僅かになっているので、これがラストチャンスでした。

真夜中は暗く、道もわかりませんでたが、マイルズが先導してくれました。

一日しっかりと休んだおかげで、ハッピーは昨日よりも楽に進むことができました。

寒さもマイルズから借りた上着を着ているので、大丈夫でした。

それでも強い風だけはハッピーにとって厄介でした。

マイルズが風よけになってくれているので、少しはマシですが気を抜けば吹き飛ばされそうになります。

「ハッピー、絶対に俺から離れるなよ」

「うん」

マイルズの声を聞いて、足を踏ん張りました。

どれくらい登ったのかハッピーにはわかりませんでした。

日が登る前に下山をしないといけないので、進むペースが早く休む暇もありませんでした。

登るほどに寒さと風は厳しくなりましたが、二匹は負けずに進んでいきました。

どんなに疲れても、ハッピーはお母さんのために諦めませんでした。

それでも、身体にまだ疲労が残っていたのか、足を滑らせてしまいました。

ここのままだと、飛ばされてしまう、いやだ、絶対に、絶対にあきらめたくない!

ハッピーは無我夢中で地面に張り付きました。

今までで一番の強風がふきあげて、風は弱まりました。

「ハッピー、よく頑張った!」

マイルズの歓喜の声を聞きました。

ハッピーは立ち上がり、目の前の景色を見ました。

黒い夜空と広大な山々の間から太陽の光が照らしていました。

ハッピーはその景色を見て何も言葉が出ませんでした。

「景色を楽しんでいる場合はないぞ、早くあの薬草を取ってこい」

マイルズの声でハッピーは目を覚まし、頂上に生えている薬草をつみました。

薬草は頂上の風の強さに耐えきれるほど、しなやかで硬い感触がありました。

ハッピーは、ここに来るまでの道のりに感傷に浸りたい気分でしたが、それはできませんでした。

「早いとこ、降りるぞ。また風が吹いたら大変だ」

二匹は大急ぎで山を降りていきました。

朝日に照らされて、道が見やすくなり、上りよりもうんと楽になりました。

日が登り、あたりが完全に明るくなった頃、山の麓まで降りてこられました。

「マイルズ、本当にありがとう。君がいなかったら僕は薬草を取ることができなかった」

「いいんだよ、ハッピーがハッピーならそれでいいさ。はやくお母さんに届けておいで」

二匹が別れの挨拶をしていると、茂みからガサガサと音がしました。

茂みから出てきたのは、ハッピーが山に入る前に出会った黄色の狐でした。

狐は相変わらず優しそうに笑っていました。

「子ウサギさん、薬草は取れたのかい?」

狐はそう言いながらハッピーに近づきました。

ハッピーはなにか危険を感じて後退りしました。

「ハッピー、こいつは悪狐だ。この辺で悪さをしていて有名だ」

マイルズがハッピーの前に立って警戒しながら言った。

「ほほほほ、そんなぼろぼろの身体では私の牙の餌食になるだけですよ。ここで子ウサギさんを待って正解でした。その薬草を売れば一年は飯に困らない。タヌキさんも薬草を奪ってしまえば私に襲われなかったのに」

悪狐は笑みを消して、こちらをあざ笑うかのように話しながら、牙をのぞかせました。

ハッピーとマイルズは厳しい登山の影響でうまく逃げることができませんでした。

悪狐が襲いかかろうとしたとき、悪ぎつねが何か黒い塊にぺしゃんこにされました。

「黒クマさん!」

「子ウサギくんー、また木の実とってよー。あれ?なんかふみつぶしたかなー?」

黒クマがまたお腹を空かせて木登りを失敗して落ちてきてハッピーとマイルズは助かりました。

相変わらず黒クマはノロノロと立ち上がるので悪ぎつねは余計に痛そうにしていました。

「黒クマさん、木の実をとってくるから、その狐捕まえておいてくれる?」

「わかったー」

黒クマは狐をぎゅっと捕まえて、狐の声からグエッと口から音をだしました。

その後は、無事にマイルズと黒クマと別れて森を出ました。

しかし、ハッピーの危機はまだ終わっていませんでした。

村に戻るための川に刺々しい背びれを持った川の主がいました。

この間と違い川の主は起きて泳いでいました。

ハッピーは迷わずに吊橋まで走り出しました。

川の主はハッピーに気づき、吊橋の方まで追いかけていきました。

ハッピーは限界を超えて吊橋を走りました。

もう少しで渡り終えるときに、川の主が吊橋を壊しました。

ハッピーは、高く吊橋から飛び跳ねました。

川の主は食らいつくようにハッピーに大きな口を広げましたが、すんでのところでかわし陸に着陸しました。

ハッピーは後ろを振り返らずに最後の力を振り絞って駆け抜けました。

一日中走って、村にたどり着きました。

たった数日しかたっていませんでしたが、ハッピーには何年も村に帰っていなかったような気持ちがありました。

ハッピーはまっすぐに家へと向かいました。

家の入口には長老ウサギが待っていました。

「ハッピー!よく無事に帰ってきてくれた!」

「長老、あいさつはいいからこれを」

「なんと!本当にとってきたのか」

長老ウサギは驚き細い目をまんまると開けました。

「早く万能薬を、作って」

そこまで言うと、ハッピーは力尽きました。

それから一ヶ月がたちました。

ハッピーのお母さんは万能薬のおかげで元気になりました。

さらにハッピーはいじめられなくなりました。

長老が村のウサギたちに、ハッピーの冒険譚を伝えていたからです。

ハッピーは勇気のあるウサギになり、お母さんと一緒に幸せに暮らしていきました。

おしまい


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