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【本屋大賞本命】40年間のありふれた日常が心に沁み入る。〜水車小屋のネネ〜

ボーカルのいないバラードのように、それは静かで澄んでいて、けれどどこか力強さもあって。心に沁み入ってくる美しい小説。

劇的な展開があるわけでもなく、ありふれた日常がずっと続いていく。それだけなのに、心が動かされました。

それは多分、登場人物それぞれの感情や言動がひとつひとつ丁寧に描かれていて、自分もその場にいるかのように強く感情移入させられているからだと思います。

ページが終わりに向かえば向かうほど登場人物たちのセリフがより沁み入ってくる。 500ページの長編ですが、まだ終わってほしくないと感じました。

この本に出会えてホントによかったと思える名作。

あらすじ

18歳と8歳の姉妹がたどり着いた町で出会った、しゃべる鳥〈ネネ〉
ネネに見守られ、変転してゆくいくつもの人生――

水車小屋のネネ

シングルマザーの家庭で育った姉妹。母親の交際相手に暴力を振るわれても、母親は交際相手の味方をする。挙げ句の果てには娘の大学への入学金に使うはずだった大事なお金を、交際相手に貢いでしまう。

そんな生活の中で、姉は家を出て独立することを決意し、妹もついてくることに。その後の二人の40年間が丁寧に紡がれるお話です。

タイトルにもなっている「ネネ」は喋る鳥。ヨウムという種で3歳児並みの知能を持ち、会話することができる賢い鳥。

ネネとの会話や世話を通じていろんな人が繋がり、交流していく様子が丁寧に描かれます。

今まで出会ってきた人たちの親切の上に、今の自分がある

「彼らや、ここにいる人たちの良心の集合こそが自分なのだ」

「人々の交流が描かれる」と聞くと、登場人物みんなが笑顔で楽しくやっている情景をイメージするかもしれませんが、この本の登場人物のほとんどは保守的で他人と積極的に交流しようという人はあまりいません。
移住者に対しても特に歓迎ムードはなく、少し訝しむような微妙な距離感が描かれます。

けど自分にはそれが逆にリアルに感じました。

仲良くなっていく過程もとてもゆっくりで、「大きな困難を二人で乗り越え急接近」みたいな展開も特にありません。
ネネを中心に何度か顔を合わせることで少しずつ仲を深め、いつの間にか大切な存在になっていく。
そこもリアリティを感じました。

そして物語終盤、各々が10年前、20年前に思いを馳せ、
今の自分があるのは、今まで出会ってきた人の優しさや親切のおかげで、そういった良心が自分を形作っていることに気づきます。

逆に彼ら彼女らも他人に対してたくさんの親切をしてきていて、その人たちを形作っている一人でもあるわけです。

自分自身そういった考えはとても腑に落ちますし、
こういう小説の登場人物との出会いも一つの出会いだと考えています。

この出会いがまた自分を変えていってくれるように感じました。

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