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棲み家|散文

    不安定さから来る鬱状態で、過呼吸になった。
そんな時浮かぶのは、私だけの棲み家。

    過去に地元に居た祖母の家。
小さな借家だった。
古くて大きな箪笥の上には、魅力的な人形がずらりと並んでいて、その愛くるしい眼差しで私を捉えた。

    思い出す祖母の家は、いつも春頃。
温かい陽射しと、祖母はお昼のドラマを観ていて私は畳の上で、お絵描きをしている。

    時折、祖母の隣に座って祖母の顔を眺める。
よくドラマを見ても、泣いている人だった。
感受性が豊か過ぎたんだと思う。
繊細な人。私は祖母の涙の意味は分からなかったけど、祖母が泣いているのは悲しかった。

    笑って欲しくて、一生懸命祖母に楽しい話をしていたと思う。
祖母はその度に、私を抱き締め「大丈夫だよ、何も心配ないよ」そう言ってくれた。
    祖母の胸の柔らかさと、温かさが私の体にもじんわり広がって『ああ、大丈夫なんだ…』そう安心した。

    祖母はもう姿は無くしてしまったし、声も聴けない。
触れる事も出来ないから、写真を撫でて思い出の体温を抱き締める。

    私の棲み家に帰ると、必ず祖母はこういう。
「おかえり。」
その言葉で私はまた、呼吸が出来る。


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