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収益グロースのためのアカウンティング - Diligence at Social Capital : Part 2

BY JONATHAN HSU   翻訳 玉井和佐

前回のポストではユーザーグロースアカウンティングを通じてMAU(月間アクティブユーザー)の変動をどの様に分析していくかを述べた。今回のポストではグロースアカウンティングのフレームワークを収益グロースの分析に当てはめて述べていく。これはエンタープライズ向けのSaaSビジネスや、コンシューマーサブスクリプションビジネスの経常収益の分析におおいに役立つものである。

※ 経常収益とは年間の定期的な収入のことを言い、この指標からは一度きりの収入や不定期の専門的なサービス料等は省かれる。

仮にB2BのSaaSビジネスを提供する会社が毎月のサブスクリプションによる収益をあげているとする。この様な会社は、MAUの成長を理解すると同時に月次の経常収益 (MRR : Monthly Recurring Revenue ) の成長率を把握することが重要である。

下記のサンプルチャートは月次の経常収益を右肩上がりに表示したもの。Sample cumulative MRR growing at ~16% m/m

MAUの分析の時と同様、これだけを見るとこの会社に対して、成長という側面からかなりの好印象を受ける。しかし私達はこの考察から成長の実態を把握するために、もう一歩掘り下げて分析することを心掛けている。

私達はこのチャートを月次の経常収益を構成する各要素へと分解していく。MAUの場合、この構成要素に当たるのは新規ユーザーもしくはチャーンかのどちらかでシンプルであったが、金額を計算する際は 一人 or 一社の顧客がチャーンと化したものの、前期より少ない料金を支払いながら少なからずサービスを継続しているというケースもありうる。これを踏まえた上で私達はMRR (月次の経常収益)を

”new (t) : 新規顧客からの収益”
”retained (t) : 既存顧客からの収益”
”resurrected (t) : 復活した顧客からの収益”
”churn (t) : 離脱した顧客による減益”

に加えて 

“expansion (t) : 拡大した収益”
“contraction  (t) : 縮小した収益” 

という構成要素に分解しながら考察を深めていく。下記が分析のベースとなる等式である。

MRR(t) = new(t) + retained(t) + resurrected(t) + expansion(t)
MRR(t - 1 month) = retained(t) + churned(t) + contraction(t)

もしある顧客が最初の月に$10を支払い、翌月に$12を支払ったとすると、$10の部分は”retained : 維持された収益” としてカウントし、$2の部分は ”expansion : 拡大した収益”とみなす。”contration : 縮小した収益”も同様の考え方を元に計算する。私達が減少した収益を"churn : 離脱した顧客による減益"としてみなすのは、ある顧客からの収益が完全にゼロとなった時のみで、”resurrected : 復活した収益”とみなす金額も、ゼロから復活したチャーンのみとする。

これらの定義を踏まえ、上記の等式をアレンジすると下記のようになる。

MRR(t) - MRR(t - 1 month) = new(t) + resurrected(t) + expansion(t) - churned(t) - contraction(t)

下記のチャートには上記で定義した5つの要素を元に経常収益の成長を分解したものである。

改めて、私達はドルベースの”Quick Ratio” を折れ線グラフにして記載している。このチャートではリテンションレート(〜40%)に対して1〜1.5の間で変動する数値。Consumer向けのMAU分析のケースを思い出して欲しい。コンシューマービジネスにおけるQuick Ratioの平均は約1.5であるが、経常収益の場合で言うと1.5と言う数値はあまり良いものではない。

なぜならサービスの使用や訪問回数でアクティブと断定するMAUの計算はチャーンレートも高くなるのに比べて、定期的に発生するサブスクリプション収益は翌月も維持されることが前提であるためである。

さらにいくつか例をあげるとするならばSpotifyやNetflixといったコンシューマー向けのサブスクリプションビジネスが良い例となる。この類のサービスは通常チャーンを伴うべきではなく、故に高いQuick Ratioと言う形で反映される。

対象的に、Nordstorm Onlineの様なピュアなトランザクションベースのリテールビジネスにおいては、継続的な購入を促すプルの要素が少ないため高いチャーンレートを示す傾向にある。

もしあなたがSlackのような一つのビジネスアカウントに対し追加ユーザーごとに利用料が増えていくLanding & Expanding型のサブスクリプションビジネスを考えているのであれば、あなたの収益にはより多くの”Expansion Revenue : 拡大収益”が反映されるだろう。 

エンタープライズ向けのSaaS企業に関して私達はこのQuick Ratioが”4”以上の企業に投資を検討することを好む。

もしあなたのビジネスのQuick Ratioが”2”を下回っているのであればチャーンレートが高く、サービス自体に何らかの改善が必要と言うことになるだろう。エンタープライズ向けのSaaS企業への投資基準に関してより詳細な情報を知りたいと言う方にはMamoon Hamid氏のデックを参考にすることをお勧めする。ここに実際に私たちがSaaS企業の投資案件に対してQuick Ratioの分析を行った際のキースライドを紹介する。 

スライドに描かれている右側の二つの企業は私達が実際に出資を決めた企業。対し、左側の二つは私達が投資を見送った企業である。右上のCompany Aは強い成長性と"Expansion Revenue : 拡大収益"を有し、プロダクト/マーケットフィットと言う点で魅力的な側面を持っていることが伺える。しかし収益成長の大部分が"Contraction Revenue : 縮小収益" によって失われており、拡大収益を伸ばさなければNetの経常収益を確保できてないという点に注目してほしい。Intercom社の資金調達プロセスの際に、SaaS企業の分析指標について述べたBobby Pinero氏のポストも一読することをお勧めする。

その他のアカウンティング

これまでMAU(月間アクティブユーザー)及びMRR(月次の経常収益)の分析について述べてきた。このアカウンティングアプローチによってビジネスの成長性をより定量的に測定できることがおわかりいただけたかと思う。例えばあなたがコンシューマー向けのソーシャルネットワークアプリを提供していたとする。MAUの伸びに行き詰まっており、日々の訪問やアプリ内でのユーザーの滞在時間をもっと伸ばしたいと考えている。 このようなケースの場合はただユーザーがアクティブかそうでないかと言うのを計測するのはあまり効率的とは言えない。掘り下げるべきは、ユーザーが一定の月に置いて「本当にアクティブ」なのかそれとも「少しだけアクティブ」なのかという分析である。この測定は特定の月に置けるユーザーのアクティブであった日数をカウントすることで測定できる。 例えばL28 (直近の28日間)においてあるユーザーがアクティブであった日数が10日間であったとすると、L28 = 10。 全てのユーザーの数値を月末に合計することで月のDAUの総計を計算することができる。L28の総計を月ごとに計算し、比較することで成長率を測ることができる。 これが月次のDAUの成長を測るためのグロースアカウンティングである。

まとめると、グロースアカウンティングのフレームワークを応用していくことで収益や、DAU、コンテンツ量をはじめとするユーザーや顧客の価値をあらゆる観点から測定することができる。

一方でグロースアカウンティングの短所の一つはチャーンを計測した際に、そのチャーンが「直近のユーザー」であるのかそれとも、「昔からサービスを利用しているユーザー」なのかが測定できないという点である。故にユーザーのライフサイクルを計測するという点ではあまり適した方法ではない。 これを踏まえた上で、ユーザーの生涯価値とライフサイクルを適切に測定するためのCohort分析を次回のポストで紹介していく。

目次
1. ユーザーグロースのためのアカウンティング
2. 収益グロースのためのアカウンティング
3. 実用的なコホート・LTV分析 (収益)
4. 実用的なコホート&LTV分析 (エンゲージメント)
5. エンゲージメントの深さと収益の質
6. エピローグ : エイトボールとスタートアップのための会計基準

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翻訳ソース記事 : https://medium.com/swlh/diligence-at-social-capital-part-2-accounting-for-revenue-growth-551fa07dd972#.ocfhmf63b

※尚、本記事はSocial Capital社の許可のもと翻訳記事として掲載させて頂いております。スタートアップ業界の投資家、起業家の皆様のビジネス分析の参考にしていただければ幸いです。当該和訳は、英文を翻訳したものですので、和訳はあくまでも便宜的なものとして利用し、適宜、英文の原文を参照していただくようお願い致します。

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