ウチダカズヒロ

ウチダカズヒロです。1968年生まれ。男。本を読みます。本のいいところを書きます。オス…

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ウチダカズヒロです。1968年生まれ。男。本を読みます。本のいいところを書きます。オススメ本を教えてください。読書感想文のご依頼あれば、読みます(たぶん)。kazgeo@gmail.com まで。

最近の記事

読書感想文「学芸員しか知らない 美術館が楽しくなる話」ちいさな美術館の学芸員 (著)

 ハウツー学芸員である。  アートとは見識である。ものの見方である。現実に存在するアート(プリントされたり、画面上に映し出されたりしている状態かもしれないが)は、なぜ価値あるものとして我々の目の前にあるのか?その価値足らしめているのは何なのか?を歴史的文脈を含め理解する知識があってはじめて見ることができるのである。なので、アートとは、ウワースゲーとだけ言っても構わないのだけど、本質は教養である。  アートをメインに担うのは学芸員だ。かつてどんな地方都市にも百貨店があった時代に

    • 読書感想文「モンゴル帝国 草原のダイナミズムと女たち」楊 海英 (著)

       日本人の知らないモンゴルの話しである。  わからないはずだ。魚を取ったり米を育てたりしないし、鬱蒼とした森を歩くことのない人たちの世界なのだ。馬であり、羊である。我らは、そもそも鎌倉武士以降の一所懸命の人たちだ。彼らは天幕で過ごした後、移動しちゃうのだ。しかも、そのスケール感が違う。ユーラシア大陸という単位だ。家族の間でさえ複数の言語を操り、異なる顔貌の者と盛んに交流する世界だ。そう、世界帝国とは何かである。きっと、彼らは、21世紀の今はたまたま、休んでいるだけという感覚な

      • 読書感想文「うつを生きる 精神科医と患者の対話」内田 舞 (著), 浜田 宏一 (著)

         「勝ち負け」と「栄達」と「人間万事塞翁が馬」である。  リフレ派のご本尊であるハマコー先生は、いつも柔和な表情で経済政策を語る。しかし、それまでの人生において苛烈な経験を伴いながら、壮絶な闘病人生があった。  世間的な評価ではない。そんなものに安心などできず苦しむのだ。もっともっとと追い求めてしまうのだ。過去にどれほど掴んだ栄冠はあったとしても、次に進んだステージでは、その場なりの闘いがある。負けるわけにはいかないから、頑張るし、評価が気になる。  ハマコー先生が繰り返すの

        • 読書感想文「蝶として死す: 平家物語推理抄」羽生 飛鳥 (著)

           才覚と天運である。  なまじ能力があるばかりに疎んじられ、警戒される。まあ、少しくらい抜けている方が可愛げあるのだから、才気張って輝き放ったところで必ず重用されることにはならない。組織で働くとは当意即妙で受け答えができたり、気働きができたところで出世するわけではない。その地位に引き上げてくれる者に愛でられることで、栄達が叶うのだ。  しかし、知恵者・能力者には案件が持ち込まれる。これが厄介だ。ホイホイと気軽に乗って「ココが解決のしどころ!」とばかりに注力し、スルっと見事に解

        読書感想文「学芸員しか知らない 美術館が楽しくなる話」ちいさな美術館の学芸員 (著)

          読書感想文「宙わたる教室」伊与原 新 (著)

           油断するな。落涙するぞ。  信じられる科学の話しだ。科学は動かない。厳然としてそこにある。原理原則である。ブレない。身じろぎ一つせず屹立している。だからこそ信じられる。科学にハマるとはそういうことだ。真理を探究することは人を純粋にする。  モチベーションや動機が放っておいても湧いてくるように、小さな成功の連続を体感できた、国の発展に世間が気分を委ねた時代ならともかく、今は個々人のハートに火を点ける作業が重要だ。そのためには個々に応じた学習・教育のオーダーメイドのメソッドの提

          読書感想文「宙わたる教室」伊与原 新 (著)

          読書感想文「鳥と港」佐原 ひかり (著)

           Z世代の本音と不安と気分の話しだ。  世間的な正しさと自分自身の価値観が乖離するとき、経験量の少なさがどうしても仇になる。「折り合い」の付け方、自分の機嫌の取り方、感情の発露の仕方、吐き出してしまっても大丈夫な友人・知人の存在などなど、過ごした時間の長さではなく、どんなことをどれだけの人たちとどれほど場数を踏んできたかというその量が、揺らいで見失ってしまいそうな自分自身の軸を保つために大事である、ということだ。  いまのオジさんたちの世の中は、やがて終わる。現役の「オジさん

          読書感想文「鳥と港」佐原 ひかり (著)

          読書感想文「トヨタ 中国の怪物 豊田章男を社長にした男」児玉 博 (著)

           大陸の権力とは難しい。それは、権威主義国家の厄介さだ。  人口があり、その市場規模が経済成長を生む。スケールがリターンとなる。それを一党独裁体制が認めているうちはそうなる。だが、社会は一様のままでは無い。かならず変容する。そうなると、権力の志向もやがて変わるし、変調をきたす。  傑物はどう作られるか、という話しでもある。ひとは失敗を経て強くなる。いや、語るべき失敗や逆境と向き合ったことのない者は強くならない、そう言ってもいいのかもしれない。奥田碩や豊田章男にしてそうなのだ。

          読書感想文「トヨタ 中国の怪物 豊田章男を社長にした男」児玉 博 (著)

          読書感想文「祖母姫、ロンドンへ行く!」椹野 道流 (著)

           先達の言葉である。  祖母自身の興味や関心もあったことだろう。だが、人生をどう生きるか、日々をどう注力して過ごすかを意識し、それにエネルギーを使ってきたこの祖母にとって、大学医学部を出た孫娘にどうしても言っておかねばならないことを伝えるために、異国の地へ出発することを息子たちに承諾させたのだ。孫娘には傍迷惑な介助旅行と思わせつつだ。  努力と自信。たとえば、化粧をするとはどういうことなのか。社会や世間の中で自分をどう置くかを考えにはどうしたらいいのか。我儘なふりをした祖母は

          読書感想文「祖母姫、ロンドンへ行く!」椹野 道流 (著)

          読書感想文「ハンチバック」市川 沙央 (著)

           文学の想像力の力を見せつけた小説だ。  人は文字の力だけでトベるのだ。そして、価値、立場の上下・強弱だって逆転させることができるし、実際、強さ、弱さの根源だったり、内心なんてものはわからないものだ。  今でも、異形のナリ、カタチは忌避されるし、直視することに戸惑い、見ないようにしつつ、それでも見てしまった際はそもそも始めから見なかったようなフリをしてしまう。それほどまでに、異形を畏れる。それは「知らないだけ」とも言えるし、正常処理できるキャパシティを超えてしまい、動揺を隠せ

          読書感想文「ハンチバック」市川 沙央 (著)

          読書感想文「行動主義 レム・コールハース ドキュメント」瀧口 範子 (著)

           混乱と矛盾と理不尽がそこにあるとき、カリスマとどう向き合えばいいのか。  ビジョナリーであり、リソースを投入することを決断し、新規の案件を獲得する。つまり、経営者のそれだ。だが、レムは、同時に批評家であり、編集者である。ウチ側の人っぽくない。なのでマネジメント・スキルには疑問がつく。いや、タスクやゴールに気が向いても「マネジメント」には興味がないんだろう。  世界中にクライアントを持ち、世界中の人たちが関わりを持ちたがるカリスマである。テクノロジーが進歩した社会における建築

          読書感想文「行動主義 レム・コールハース ドキュメント」瀧口 範子 (著)

          読書感想文「限界集落の経営学: 活性化でも撤退でもない第三の道、粗放農業と地域ビジネス」斉藤 俊幸 (著)

           何が「限界」なのだろう?本当にそう思う。  為政者や高級官僚にとって、田舎の集落を市町村役場の連中の尻を叩きながら救うのはクタクタになるので、もう限界だ、と言っているに過ぎない。田舎の役場には、ビジネスマインドがある奴がいるわけじゃ無いし、クリエイティブだったりインスピレーションが次々と沸く人材はいない。せっかく、チャンスとなる制度を作ってみたって生かしてくれないんじゃ、国の役人は嫌になる。その一方で、国がどう思おうと、集落なりの生き残り方、集落での生き延び方はある。じゃあ

          読書感想文「限界集落の経営学: 活性化でも撤退でもない第三の道、粗放農業と地域ビジネス」斉藤 俊幸 (著)

          読書感想文「にほんの建築家伊東豊雄・観察記」瀧口 範子 (著)

           得体の知れなさ、正体の捉えようのなさ、と言いたくなる「変化し続ける人・伊東豊雄」である。  ホンモノの思索の人だ。根源まで考える。だから、スタイルや権威ではなく、モノゴトの本質に遡って考え続けることを流儀とし、その土地や施主との話し合いを重視する了見はずっと変わらない。  読み飛ばせない発見があった。「70年代までは、建築を成り立たせる上位意識があった。だが、未来都市をつくろうとメタボリストたちが没頭した万博が、広告代理店に仕切られた単なるエンターテイメントであったことが露

          読書感想文「にほんの建築家伊東豊雄・観察記」瀧口 範子 (著)

          読書感想文「謎の平安前期―桓武天皇から『源氏物語』誕生までの200年」榎村 寛之 (著)

           平安前期の社会とは何か。創業者一族が社内の意思決定に歴然と影響力を及すぼすJTC(Japanese Traditional Company・伝統的な日本企業)である。 社内のパワーバランス、社内政治が重要視され、時にはトップの意向が絶対的だったり、集団指導体制だったりしながら、メンバーシップ制のもとインナーによって進められる「政治」である。  自由市場下のベンチャー企業が頭角を表す英雄譚ような奈良時代や時代を下っての平安末期以降のそれではなく、上意下達の企業文化や硬直的な組

          読書感想文「謎の平安前期―桓武天皇から『源氏物語』誕生までの200年」榎村 寛之 (著)

          読書感想文「ビジネス・ゲーム 誰も教えてくれなかった女性の働き方」ベティ・L. ハラガン (著), & 3 その他

           ビジネスとはゲームであり、会社はチームである。案外、わかっていそうで、実はわかっている人は限られている。例えば、なぜ、体育会系出身者は難なく就職が決まるのかと言えば、体力があったり、上下関係の理不尽さに耐えるからじゃない。勝敗の受け止め方やチーム内でのプレイヤーとしての振る舞いを知っている人材が求められているのが暗黙知だからだ。  なので、この本は女性向けばかりじゃない。チーム・プレイ非経験者やマイノリティ向けのものだ。ゲームにおけるルールのとらえ方、勝つための秘訣、処遇改

          読書感想文「ビジネス・ゲーム 誰も教えてくれなかった女性の働き方」ベティ・L. ハラガン (著), & 3 その他

          読書感想文「季節のない街」山本 周五郎 (著)

           人肌の温度と匂いがある暮らしの話しだ。  登場するのは、貧しさや不運、浅はかで悲しみと可笑しみのある人たちだ。涙はいつだって流れてしまい、その跡が目尻に残る者ばかりかと言えば、そんなことはなく、バカバカしくも強情とデタラメを押し通す者、ホントは気の毒なんだけど自我や自覚に乏しい者など、やりきれなさが全体を包む。  新聞の社会面の特集記事のような取り上げ方は、その街のとある人たちを被写体にした写真の解説のようでもある。足で稼いだ小説なのだろうと思う。そして、通底する乾いた視線

          読書感想文「季節のない街」山本 周五郎 (著)

          読書感想文「サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ」正垣 泰彦 (著)

           優秀すぎるマーチャンダイザーである。  チェーンストアを展開する強い気概を持つ経営者だ。経営を、夢やロマンと数字で語れる人なので強い。経営についての考えを突き詰める人は当然、数字でものを考えるが、結果としてユニクロやニトリのようにSPAの業態に向かうのが面白い。  苦境や失敗から学んだ人であるが、経験だけが糧になったわけではない。本を読み、人に教えを乞い、他店や街の人の流れから学んだのだ。  旧著にして名著でありスタンダードと言っていい本だ。しばらくの間、経営を目指す人、経

          読書感想文「サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ」正垣 泰彦 (著)