ウチダカズヒロ

ウチダカズヒロです。1968年生まれ。男。本を読みます。本のいいところを書きます。オス…

ウチダカズヒロ

ウチダカズヒロです。1968年生まれ。男。本を読みます。本のいいところを書きます。オススメ本を教えてください。読書感想文のご依頼あれば、読みます(たぶん)。kazgeo@gmail.com まで。

最近の記事

読書感想文「宙わたる教室」伊与原 新 (著)

 油断するな。落涙するぞ。  信じられる科学の話しだ。科学は動かない。厳然としてそこにある。原理原則である。ブレない。身じろぎ一つせず屹立している。だからこそ信じられる。科学にハマるとはそういうことだ。真理を探究することは人を純粋にする。  モチベーションや動機が放っておいても湧いてくるように、小さな成功の連続を体感できた、国の発展に世間が気分を委ねた時代ならともかく、今は個々人のハートに火を点ける作業が重要だ。そのためには個々に応じた学習・教育のオーダーメイドのメソッドの提

    • 読書感想文「鳥と港」佐原 ひかり (著)

       Z世代の本音と不安と気分の話しだ。  世間的な正しさと自分自身の価値観が乖離するとき、経験量の少なさがどうしても仇になる。「折り合い」の付け方、自分の機嫌の取り方、感情の発露の仕方、吐き出してしまっても大丈夫な友人・知人の存在などなど、過ごした時間の長さではなく、どんなことをどれだけの人たちとどれほど場数を踏んできたかというその量が、揺らいで見失ってしまいそうな自分自身の軸を保つために大事である、ということだ。  いまのオジさんたちの世の中は、やがて終わる。現役の「オジさん

      • 読書感想文「トヨタ 中国の怪物 豊田章男を社長にした男」児玉 博 (著)

         大陸の権力とは難しい。それは、権威主義国家の厄介さだ。  人口があり、その市場規模が経済成長を生む。スケールがリターンとなる。それを一党独裁体制が認めているうちはそうなる。だが、社会は一様のままでは無い。かならず変容する。そうなると、権力の志向もやがて変わるし、変調をきたす。  傑物はどう作られるか、という話しでもある。ひとは失敗を経て強くなる。いや、語るべき失敗や逆境と向き合ったことのない者は強くならない、そう言ってもいいのかもしれない。奥田碩や豊田章男にしてそうなのだ。

        • 読書感想文「祖母姫、ロンドンへ行く!」椹野 道流 (著)

           先達の言葉である。  祖母自身の興味や関心もあったことだろう。だが、人生をどう生きるか、日々をどう注力して過ごすかを意識し、それにエネルギーを使ってきたこの祖母にとって、大学医学部を出た孫娘にどうしても言っておかねばならないことを伝えるために、異国の地へ出発することを息子たちに承諾させたのだ。孫娘には傍迷惑な介助旅行と思わせつつだ。  努力と自信。たとえば、化粧をするとはどういうことなのか。社会や世間の中で自分をどう置くかを考えにはどうしたらいいのか。我儘なふりをした祖母は

        読書感想文「宙わたる教室」伊与原 新 (著)

          読書感想文「ハンチバック」市川 沙央 (著)

           文学の想像力の力を見せつけた小説だ。  人は文字の力だけでトベるのだ。そして、価値、立場の上下・強弱だって逆転させることができるし、実際、強さ、弱さの根源だったり、内心なんてものはわからないものだ。  今でも、異形のナリ、カタチは忌避されるし、直視することに戸惑い、見ないようにしつつ、それでも見てしまった際はそもそも始めから見なかったようなフリをしてしまう。それほどまでに、異形を畏れる。それは「知らないだけ」とも言えるし、正常処理できるキャパシティを超えてしまい、動揺を隠せ

          読書感想文「ハンチバック」市川 沙央 (著)

          読書感想文「行動主義 レム・コールハース ドキュメント」瀧口 範子 (著)

           混乱と矛盾と理不尽がそこにあるとき、カリスマとどう向き合えばいいのか。  ビジョナリーであり、リソースを投入することを決断し、新規の案件を獲得する。つまり、経営者のそれだ。だが、レムは、同時に批評家であり、編集者である。ウチ側の人っぽくない。なのでマネジメント・スキルには疑問がつく。いや、タスクやゴールに気が向いても「マネジメント」には興味がないんだろう。  世界中にクライアントを持ち、世界中の人たちが関わりを持ちたがるカリスマである。テクノロジーが進歩した社会における建築

          読書感想文「行動主義 レム・コールハース ドキュメント」瀧口 範子 (著)

          読書感想文「限界集落の経営学: 活性化でも撤退でもない第三の道、粗放農業と地域ビジネス」斉藤 俊幸 (著)

           何が「限界」なのだろう?本当にそう思う。  為政者や高級官僚にとって、田舎の集落を市町村役場の連中の尻を叩きながら救うのはクタクタになるので、もう限界だ、と言っているに過ぎない。田舎の役場には、ビジネスマインドがある奴がいるわけじゃ無いし、クリエイティブだったりインスピレーションが次々と沸く人材はいない。せっかく、チャンスとなる制度を作ってみたって生かしてくれないんじゃ、国の役人は嫌になる。その一方で、国がどう思おうと、集落なりの生き残り方、集落での生き延び方はある。じゃあ

          読書感想文「限界集落の経営学: 活性化でも撤退でもない第三の道、粗放農業と地域ビジネス」斉藤 俊幸 (著)

          読書感想文「にほんの建築家伊東豊雄・観察記」瀧口 範子 (著)

           得体の知れなさ、正体の捉えようのなさ、と言いたくなる「変化し続ける人・伊東豊雄」である。  ホンモノの思索の人だ。根源まで考える。だから、スタイルや権威ではなく、モノゴトの本質に遡って考え続けることを流儀とし、その土地や施主との話し合いを重視する了見はずっと変わらない。  読み飛ばせない発見があった。「70年代までは、建築を成り立たせる上位意識があった。だが、未来都市をつくろうとメタボリストたちが没頭した万博が、広告代理店に仕切られた単なるエンターテイメントであったことが露

          読書感想文「にほんの建築家伊東豊雄・観察記」瀧口 範子 (著)

          読書感想文「謎の平安前期―桓武天皇から『源氏物語』誕生までの200年」榎村 寛之 (著)

           平安前期の社会とは何か。創業者一族が社内の意思決定に歴然と影響力を及すぼすJTC(Japanese Traditional Company・伝統的な日本企業)である。 社内のパワーバランス、社内政治が重要視され、時にはトップの意向が絶対的だったり、集団指導体制だったりしながら、メンバーシップ制のもとインナーによって進められる「政治」である。  自由市場下のベンチャー企業が頭角を表す英雄譚ような奈良時代や時代を下っての平安末期以降のそれではなく、上意下達の企業文化や硬直的な組

          読書感想文「謎の平安前期―桓武天皇から『源氏物語』誕生までの200年」榎村 寛之 (著)

          読書感想文「ビジネス・ゲーム 誰も教えてくれなかった女性の働き方」ベティ・L. ハラガン (著), & 3 その他

           ビジネスとはゲームであり、会社はチームである。案外、わかっていそうで、実はわかっている人は限られている。例えば、なぜ、体育会系出身者は難なく就職が決まるのかと言えば、体力があったり、上下関係の理不尽さに耐えるからじゃない。勝敗の受け止め方やチーム内でのプレイヤーとしての振る舞いを知っている人材が求められているのが暗黙知だからだ。  なので、この本は女性向けばかりじゃない。チーム・プレイ非経験者やマイノリティ向けのものだ。ゲームにおけるルールのとらえ方、勝つための秘訣、処遇改

          読書感想文「ビジネス・ゲーム 誰も教えてくれなかった女性の働き方」ベティ・L. ハラガン (著), & 3 その他

          読書感想文「季節のない街」山本 周五郎 (著)

           人肌の温度と匂いがある暮らしの話しだ。  登場するのは、貧しさや不運、浅はかで悲しみと可笑しみのある人たちだ。涙はいつだって流れてしまい、その跡が目尻に残る者ばかりかと言えば、そんなことはなく、バカバカしくも強情とデタラメを押し通す者、ホントは気の毒なんだけど自我や自覚に乏しい者など、やりきれなさが全体を包む。  新聞の社会面の特集記事のような取り上げ方は、その街のとある人たちを被写体にした写真の解説のようでもある。足で稼いだ小説なのだろうと思う。そして、通底する乾いた視線

          読書感想文「季節のない街」山本 周五郎 (著)

          読書感想文「サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ」正垣 泰彦 (著)

           優秀すぎるマーチャンダイザーである。  チェーンストアを展開する強い気概を持つ経営者だ。経営を、夢やロマンと数字で語れる人なので強い。経営についての考えを突き詰める人は当然、数字でものを考えるが、結果としてユニクロやニトリのようにSPAの業態に向かうのが面白い。  苦境や失敗から学んだ人であるが、経験だけが糧になったわけではない。本を読み、人に教えを乞い、他店や街の人の流れから学んだのだ。  旧著にして名著でありスタンダードと言っていい本だ。しばらくの間、経営を目指す人、経

          読書感想文「サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ」正垣 泰彦 (著)

          読書感想文「劇的再建:「非合理」な決断が会社を救う」山野 千枝 (著)

           自分をどう生きるか?という問いかけの一冊である。  なぜ、後継ぎとなることを承諾してしまうのか。逃げきれない中、止むに止まれず不請ながら、不利な条件にも関わらず、もはや運命として引き受けてしまった人たちなのだ。で、そこから地獄の日々が待っているのだが、どうやって成功への道を切り開いていったのか。当然、会社は傾いている。それどころか、借金の返済を引き延ばして無理矢理、息をしている状態だったりするので、既存の事業は続かない。なので生き残りを賭けて、新事業を業態転換だったり、業種

          読書感想文「劇的再建:「非合理」な決断が会社を救う」山野 千枝 (著)

          読書感想文「大正天皇」原 武史 (著)

           明治の元老にとって、自分たちが担いだ君主が代替わりするということは、決して居心地のいいものではなかったということなのだろう。なにせ「明治は俺たちが作った」くらいの自負はある。変わってもらっちゃ困るのだ。世の中が変わってしまい、握った力を易々と手放すわけにはいかない。  トップが変わっても、昨日と同じ明日が来てくれなきゃ困る。何なら、都合のいいトップほどいい。余計なことは言わず、物事に心動かさず、パーソナリティーなぞ発揮してくれるな、と思っているのだ。溌剌としていた嘉仁皇太子

          読書感想文「大正天皇」原 武史 (著)

          読書感想文「隆明だもの」ハルノ宵子 (著)

           ハルノ宵子とは達観と諦念の人だ。ジンブツいや傑物なのだ。  そんじょそこらの「吉本主義者」は軽く踏み潰される。参ったなー、この吉本の長女は、吉本の考えをほぼ全て理解(本人は否定するだろうがそんなもの信じちゃいけない)し、何なら体現している。やれやれ、敵う相手じゃない。  そんな彼女が語ってくれるのは、美しくもなく、合理的でもない、ケアの話しだ。オメーさんたちが慕っている巨人が朽ちていく様子とは、こーだったんだよ、と言っているのだ。キレイで含蓄のある物語を読者、とりわけ往年の

          読書感想文「隆明だもの」ハルノ宵子 (著)

          読書感想文「鬼の筆 戦後最大の脚本家・橋本忍の栄光と挫折」春日 太一 (著)

           自由を求めた脚本家の人生だ。どこにも媚びず、へつらわず、自立した生き方だ。  それは、プロとしてどう生きるか?という問いでもある。脚本家・橋本忍は軽々と、シナリオを書く際の決め手の『三カ条』があると答える。「いくら稼げるか」「面白いかどうか」「名声が得られるか」。  俗っぽいのではない。俗だ。だが、時代状況として伸びる一方の産業としてのエンタメ・映画をただただ好きなだけの者が、才能を見出されて、そこに人生に賭ける際、小さくまとまっていてどうする?との問いだ。それは若造が「成

          読書感想文「鬼の筆 戦後最大の脚本家・橋本忍の栄光と挫折」春日 太一 (著)