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読書感想文「ハンチバック」市川 沙央 (著)

 文学の想像力の力を見せつけた小説だ。
 人は文字の力だけでトベるのだ。そして、価値、立場の上下・強弱だって逆転させることができるし、実際、強さ、弱さの根源だったり、内心なんてものはわからないものだ。
 今でも、異形のナリ、カタチは忌避されるし、直視することに戸惑い、見ないようにしつつ、それでも見てしまった際はそもそも始めから見なかったようなフリをしてしまう。それほどまでに、異形を畏れる。それは「知らないだけ」とも言えるし、正常処理できるキャパシティを超えてしまい、動揺を隠せない自分のいたたまれなさがそこにあるから、とも言える。
 テクノロジーの発達は、弱者を裏返してみせる市川を世に出した。ヒューマニズムや人権の薄っぺらさも顕にした。このこと一つとってもテクノロジーの進化を歓迎せねばなるまいし、理性的で理知的な者だけが書き手であるはずがなく、濃度高めのルサンチマンがワラワラと言説空間を行き交うのが現代社会なのだ、と心しなくてはならない。
 世界はもともと多様である。その視点、その価値判断に一分の隙が、むしろ必ずあることを市川は見せつける。


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