見出し画像

読書感想文「モンゴル帝国 草原のダイナミズムと女たち」楊 海英 (著)

 日本人の知らないモンゴルの話しである。
 わからないはずだ。魚を取ったり米を育てたりしないし、鬱蒼とした森を歩くことのない人たちの世界なのだ。馬であり、羊である。我らは、そもそも鎌倉武士以降の一所懸命の人たちだ。彼らは天幕で過ごした後、移動しちゃうのだ。しかも、そのスケール感が違う。ユーラシア大陸という単位だ。家族の間でさえ複数の言語を操り、異なる顔貌の者と盛んに交流する世界だ。そう、世界帝国とは何かである。きっと、彼らは、21世紀の今はたまたま、休んでいるだけという感覚なのではないか。まぁ、新大陸のアメリカや漢民族が好き勝手やってるな、程度なんだろう。
 もう一つは副題の「女たち」である。結婚とは何か。母とは何か。家族とは何か、だ。彼らのレビィ=レート婚を女性をモノ扱いしているという見方もあるかもしれないが、女性が財産権の主体であることを考えれば、複数の女性間で消耗品としての「戦士」である夫を共有しているだけ、と女性主体の見方をすることで、価値観がガラガラと音を立てて崩れそうになる。進歩や世界観とは、一つじゃない。恋愛至上主義、ロマンス至上主義を疑ってかかる必要がある。何せ、一族の「家計」の担い手は女性なのだ。
 これらを踏まえ、英雄の後継者選びは難しく、母子間において息子というものの育て方が難しい、ことも考えさせられる。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?