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読書感想文「季節のない街」山本 周五郎 (著)
人肌の温度と匂いがある暮らしの話しだ。
登場するのは、貧しさや不運、浅はかで悲しみと可笑しみのある人たちだ。涙はいつだって流れてしまい、その跡が目尻に残る者ばかりかと言えば、そんなことはなく、バカバカしくも強情とデタラメを押し通す者、ホントは気の毒なんだけど自我や自覚に乏しい者など、やりきれなさが全体を包む。
新聞の社会面の特集記事のような取り上げ方は、その街のとある人たちを被写体にした写真の解説のようでもある。足で稼いだ小説なのだろうと思う。そして、通底する乾いた視線とある種の切なさへの共感がある。
今は、福祉や行政サービス、リサイクルショップやディスカウント店、メルカリやジモティーなどが、剥き出しの貧乏や知恵やセンスの無さを覆い隠す。どうしようもなさ、やるせなさへの共感が減ったり、神経がすり減ることは少なくなっているかもしれないが、一見、見えづらくわかりにくくなっているということは、むしろ闇の深さが濃くなっているのだと思う。
「季節のない」とは、彩りの無さや虚無感であり、そうした現実の方が嘘臭くなるさまは山本周五郎の執筆時より、いまの方がむしろずっと深く広がり、複雑さを増している。
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