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読書日記

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#哲学

努力しない興味は「興味」と呼べるのか?|デューイ『民主主義と教育』(10章: 興味と克己 Interest and Discipline)

努力しない興味は「興味」と呼べるのか?|デューイ『民主主義と教育』(10章: 興味と克己 Interest and Discipline)

近年、教育現場では「興味・関心」という言葉が、一つのバズワードになっている。例えば、文部科学省・中央教育審議会の「令和の日本型学校教育」という答申には、「興味」という言葉が97回も出てくる。また、経済産業省の「未来の教室」が示すビジョンにおいても、「ワクワク」との出会いを重視しており、提言の中では「興味関心」という語が頻繁に使われている。

しかし、こうした答申や提言を読んでも、興味・関心とは一体

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ハンナ・アレント『カント政治哲学講義録』読書ノート(後編)

ハンナ・アレント『カント政治哲学講義録』読書ノート(後編)

ハンナ・アレント『カント政治哲学講義録』読書ノートの後編です。今回は第十一講義から第十三講義をまとめます。全体を貫く謎は「なぜ判断が趣味に基づくのか?」で、判断と構想力や共通感覚の関係性が語られています。

分断が話題になる昨今ですが、アレント=カントから「その判断、自分の身内以外にも説明できるの?」と問われ、背筋の伸びる内容になっています。エリートが自己利益のための判断を繰り返しているのが分断の

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ヴィゴツキー「発達の最近接領域」再訪 ― 誰かに助けてもらいながら背伸びする経験をどう創るか ―

ヴィゴツキー「発達の最近接領域」再訪 ― 誰かに助けてもらいながら背伸びする経験をどう創るか ―

ソ連の天才的心理学者ヴィゴツキーが提唱した「発達の最近接領域(Zone of proximal development)」理論は、現在の教育改革を支える大切な概念の一つです。学習科学の基礎概念の一つである「足場かけ」の元ネタでもありますし、個人的には「主体的・対話的で深い学び」が「這い回る経験主義」に堕落しないための鍵概念でもあると思っています。教育学の講義では必ず触れられ、様々な教育の議論で引用

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ハンナ・アレント『カント政治哲学講義録』読書ノート(中編)

ハンナ・アレント『カント政治哲学講義録』読書ノート(中編)

ハンナ・アレント『カント政治哲学講義録』読書ノートの中編です。批判的思考や公開性、それに不可欠な構想力(イマジネーション)といった概念が徐々に深められつつ、アレント=カントの政治哲学にとって最も重要だと思われる対比、行為者=演者と注視者=観客の対比が明確になり、注視者=観客が政治において果たす役割が展開されていきます。

今回は第七講義から第十講義をまとめます。なお、引用は、カント、アレントどちら

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佐藤一斎「言志四録」金科百条(私家版)

佐藤一斎「言志四録」金科百条(私家版)

佐藤一斎は、幕末に活躍した方々の師匠の師匠にあたります。伊藤博文や高杉晋作は吉田松陰の弟子ですが、その吉田松陰の師匠は佐久間象山です。そして佐久間象山の師匠は佐藤一斎なのです。また、私が敬愛してやまない山田方谷もまた佐藤一斎の弟子です。

そんな佐藤一斎が残したのが「言志四録」です。言志四録は、『言志録』『言志後録』『言志晩録』『言志耋録』の4つを総称したものです。どれも佐藤一斎が残した警句がふん

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ハンナ・アレント『カント政治哲学講義録』読書ノート(前編)

ハンナ・アレント『カント政治哲学講義録』読書ノート(前編)

ハンナ・アレントの『カント政治哲学講義録』は、「政治哲学」と名のついた書物を残さなかったカントの政治哲学を、『判断力批判』を中心に読解することで再構築する野心的な試みです。

アレントの独創的なカント解釈は、政治を捉え直す視座を与えるとともに、教育の位置付けについても示唆を与えてくれるため、非常に重要だと思っています。読書ノートは、アレントの講義と私の感想から成ります。なお、各講義のタイトルは原文

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