#1 日の出前、ネパール。R53G116B146
旅先での、朝が好きだ。
目覚時計に起こされることもなく、おもむろに目を覚ます。
どこか勝手の効かない重たい布団、そして見慣れない天井。
まだ、ぼんやりとした意識の中でも、わずかに開いた
まぶたの隙間から、異世界が、僕の中に流れ込んでくる。
ーそうか、ここは旅先なんだ。
旅の間 毎朝出会えるその感覚が、いつになっても好きだ。
ゆっくりと身体を起こし、静かに窓を開けてみる。
その時になってようやく、まだ太陽が上っていないことを知る。
太陽に起こされるのでもなく、目覚時計に邪魔されるのでもなく、
朝になったら目が覚めるから、動物の身体っておもしろい。
目を閉じて、深呼吸。
夜の静寂に包まれて、すっかり冷たくなった朝の空気は、
湧き出したばかりの水のように、どこまでも清らかに澄んでいて、
ゆっくりと時間をかけて胸の奥まで染み込んでくる。
風になびいて起こされた、まだ眠そうな木々の葉音。
自分こそが早起きだと主張する、小鳥の鳴き声。
順に起こし合っていくかのように、少しずつ音が増えてくる。
ーおはよう、世界。
この世に生を受けたばかりのように、身体は軽く、
昨日までの考えごとも、もうどこかに行ってしまった。
再び夢を見るように、ぼんやりと目を閉じてみる。
何にも邪魔されることのない心地よい解放感が、
次々と広がる想像を、鮮やかなものにしてくれる。
ーさて、コーヒーでも入れようかな。
踵を返して背にした空は、
すっかりと明るく(赤るく)なっていた。
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