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#0 ホンモノの「青」を探して。

 むかしむかし、あるところに、まずしい二人の子ども
 がいました。お兄さんの名前はチルチル、妹の名前は
 ミチルと言いました。

 クリスマスの前の夜のことです。二人のへやに、
 魔法使いのおばあさんがやってきて言いました。
 「わたしの孫が、今、病気でな。しあわせの青い鳥を
  見つければ病気はなおるんじゃ。どうか二人で、
  青い鳥を見つけてきておくれ」
 「うん、わかった」
 チルチルとミチルは鳥カゴを持って、
 青い鳥を探しに旅に出ました。
   ーーーモーリス・メーテルリンク『青い鳥』より

なぜ、『青い鳥』は「青い」鳥だったのか。
ふと、そんなことが気になりました。

作者であるメーテルリンク(1862-1949)は、
ドイツ人作家ノヴァーリス(1772-1801)の小説
『青い花』のオマージュとして『青い鳥』を書いたと
言われています。
『青い花』は、青年ハインリヒが、夢に現れた
青い花に恋い焦がれ、その花を探して各地を旅し、
様々な人に出会うという物語です。
この作品においても、青い花は「非現実」の
象徴として描かれます。

話を美術に変えたとき、取り上げるべき画家がいます。

『真珠の耳飾りの少女』で有名なバロック期を代表する
オランダ人画家 フェルメール(1632-1675)。
彼の絵に見られる鮮やかな青は、その名をちなんで
「フェルメール・ブルー」と呼ばれます。
アフガニスタンの一部の地域でしか産出されない
非常に貴重な鉱石「ラピスラズリ」を原材料とし、
ヨーロッパまで海路で運ばれたために、
「ウルトラマリン(=海を越えて運ばれる青)」とも
呼ばれます。その色は、当時 金と同等の価値で
やり取りされたそうです。

競争の激しい芸術市場において、生活の困窮した
多くの画家は限られた部分にしか使わない(使えない)
貴重な絵の具でしたが、強力なパトロンに支えられた
フェルメールは違いました。
よく知られる青に「コバルト・ブルー」がありますが、
この色が発明されるのは19世紀初頭のことです。
文学・美術の創作物においても、また現実においても、
「青」という色が、希少性の高いものであることが
見えてきます。

頭上に広がる空の色、夏を象徴する海の色。
今となっては、すっかり身近になったその色は、
長い歴史において「不可能」や「ありえないもの」の
象徴とされてきたようです。

そんな自然の神秘に包まれた青に、
気付けばすっかり魅了されている自分がいました。

自然の中でしか見られない、
人の手には決して届かない、
本当に美しい青に出会ってみたい。

ホンモノの「青」を探して、さぁ、旅に出かけよう。

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