記事一覧
「リテラシイ」「低徊」 他
・リテラシイ (2024.2)
僕らは疑いすぎた。
ネットを疑い、
友を疑い、
親を疑い、
自分を疑う。
情報を疑い、
論理を疑い、
感情を疑い、
人生を疑い、
生死を疑い、
存在を疑い、
世界を疑い、
真理を疑い、
何も分からないということも
疑っている。
・信徒の狂気 (2024.2)
懐疑主義が
不可知論が
僕に遺したものは、
奇妙な虚無感だ
「思い出」「いやしい」 他
・思い出 (2023)
皺の寄った腕が水底の柔らかい砂を掻き分けて、手を切るやもと恐る恐る、「それ」を探し求める。小さな縦長の頭には、大きな黒い球体がひとつ、つるりと光ったまま嵌め込まれている。薄く濁った水の中で、人型の生命体は砂を掻き分け続ける。やがて腕が止まり、砂埃を上げながら片腕を上げると、手のひらには鮮やかな緑色の結晶が包まれている。真黒な眼を満足げにつやつやと光らせて、人型の生命体
掌編「ワンダー・ランド」(2022.6)
今夜は雪が降るらしい。大雪だそうだ。共通テストは散々だった。槍でも何でも降ればいい。
雪が降り始めた。
桜みたいだと思った。本当はそう思いたくなかった。今年の桜は、灰色だろうか。ベッドに倒れ込んだ。窓に背を向けて、顔まで毛布で覆った。
夢を見た。
幼い頃、雪の降る日は、眠れなかった。小さな私は、いつまでも窓に貼り付いていた。窓を覗くと、雪が音を吸い込んで、無音の世界から、町の灯が飛び
「溶解」 (2023.9)
あいつよりは生きている?
あの子よりは死んでいる?
周りよりは
わかってるほう
頑張ってるほう
けど
今日はダメ
上には上がいて
下には下がいて
代えもいくらでもいるんだって
相対化の波の中で
希薄になってゆく
今日が満たされないのは
今までが満たされていたから
なんて
幸せまで相対化するの?
今日もまた
光る板を眺めて
投げ捨て
拾い上げ
むな
掌編「嚥下」 (2022.9)
蛍光灯は座席のモケット生地から瑠璃色の光を吸い上げつつ、窓ガラスを仄暗い鏡にして、雨夜のバスを外界と切り離された一つの箱にしている。
向かい側の窓辺には一人の老婦人が凝と座っていた。後部の座席にはまた音もなく中年の男性が座っていた。運転手の無感情な声が拡声器越しに響いた。彼らはエキストラに過ぎなかった。
我々は幾つかのバス停を身じろぎもせず見送った。無機質な車内にはビタミンオレンジの手すりが
腹六分目くらいが一番幸せ
腹を満たす食事と心を満たす食事は必ずしも一致しないようだ。
なんとなく気が向いて、雰囲気の良い小さな喫茶店に入った。けして安くはない価格設定に、コーヒーだけ…と貧乏人根性を働かせるが、昼時の空きっ腹の誘惑に抗えず、ついにカレーライスを注文。多くはないものの、しっかりと牛肉の入ったスパイシーなカレーに舌づつみを打った。
ルーの辛味、ライスの甘み、柴漬けの酸味、アイスコーヒーの苦味を交互に感じ、
「宣誓」「異性人」「泡沫」
・宣誓 (2023.6)
食卓に並んだ
キムチにコーラに寿司
僕にはどれも等しくうまい
・異性人 (2022)
それはエイリアンの抱擁だった。
僕たちは骨張った体を何度も撫でさすった。
ブロック塀のナメクジを見るように、
彼女の陰部に目を凝らした。
それはヤマアラシの恋慕だった。
惑星の接近だった。
僕らは抱き合いながら必死に
人間を探している。
・泡沫 (20
掌編「影魚」 (2022.4)
一つ不思議な思い出があるんだ。
それは寝苦しい夜だった。三日月はとうに稜線の向こうへ消えていた。山の端は半ば夜空と溶け合いながら町を抱いていた。埃臭くなっていた実家の自室を抜け出して僕は散歩に出た。暗い街路には人一人居なかった。
街灯の下で時計を見た。午前二時四十五分…カーブミラーの丸い影が僕の隣に黒々とわだかまっていた。
再び歩き出そうとしたとき、「ねえ、お散歩?」と、澄んだ声が肩越し
創作、というと恥ずかしい
今までスマホに書き溜めてた短い文を、保存も兼ねてインターネット上に書き込むことにしました。
少し恥ずかしい。数多いるnoteユーザーのうち、チョット物好きな人が僕の記事を見て、眉をひそめて…あるいは眉一つ動かさず通り過ぎる…そんな光景を想像すると恥ずかしい。
それでも書き込むことを決めたのは、誰かに読んで欲しいから。いや、読まれねばならない。凡庸だけど名前は知ってるあの物書きの青年期…このn