白雉

物書きになるつもりの学生です。

白雉

物書きになるつもりの学生です。

記事一覧

動画サイトって情操教育的にどうなん

 今日の正午過ぎ、マクドナルドで昼食をとっていると、目の前に親子が座ってきた。40代と思しき父親と6~7歳くらいの息子で、父親が必死にモバイルオーダーに挑戦している…

白雉
3か月前
2

「リテラシイ」「低徊」 他

・リテラシイ (2024.2)  僕らは疑いすぎた。  ネットを疑い、  友を疑い、  親を疑い、  自分を疑う。  情報を疑い、  論理を疑い、  感情を疑い、  人生…

白雉
4か月前

「思い出」「いやしい」 他

・思い出  (2023)  皺の寄った腕が水底の柔らかい砂を掻き分けて、手を切るやもと恐る恐る、「それ」を探し求める。小さな縦長の頭には、大きな黒い球体がひとつ、つる…

白雉
4か月前

乖離

 一年の浪人生活を経てなんとか大学入学前期試験を終え、合格発表を待っていた3月のある日、僕は松山に住む中学時代からの友人の家に遊びに行った。4日間彼の家に泊めても…

白雉
4か月前

無題の音声.1

若者は昔より自由なのかもしれない。 しかし依然として縛られているのだ。 縄ではなく、目に見えぬ鎖に。 手足縛られ荒野に放り出されていたのが、 五体満足で密室に閉じ込…

白雉
4か月前

掌編「ワンダー・ランド」(2022.6)

 今夜は雪が降るらしい。大雪だそうだ。共通テストは散々だった。槍でも何でも降ればいい。  雪が降り始めた。  桜みたいだと思った。本当はそう思いたくなかった。今…

白雉
6か月前

「溶解」 (2023.9)

 あいつよりは生きている?  あの子よりは死んでいる?  周りよりは  わかってるほう  頑張ってるほう  けど  今日はダメ  上には上がいて  下には下がいて  …

白雉
7か月前

掌編「嚥下」 (2022.9)

 蛍光灯は座席のモケット生地から瑠璃色の光を吸い上げつつ、窓ガラスを仄暗い鏡にして、雨夜のバスを外界と切り離された一つの箱にしている。  向かい側の窓辺には一人…

白雉
7か月前

腹六分目くらいが一番幸せ

 腹を満たす食事と心を満たす食事は必ずしも一致しないようだ。  なんとなく気が向いて、雰囲気の良い小さな喫茶店に入った。けして安くはない価格設定に、コーヒーだけ…

白雉
7か月前

「宣誓」「異性人」「泡沫」

・宣誓  (2023.6)  食卓に並んだ  キムチにコーラに寿司  僕にはどれも等しくうまい ・異性人  (2022)  それはエイリアンの抱擁だった。  僕たちは骨張った体…

白雉
7か月前

掌編「影魚」 (2022.4)

 一つ不思議な思い出があるんだ。  それは寝苦しい夜だった。三日月はとうに稜線の向こうへ消えていた。山の端は半ば夜空と溶け合いながら町を抱いていた。埃臭くなって…

白雉
7か月前
2

創作、というと恥ずかしい

 今までスマホに書き溜めてた短い文を、保存も兼ねてインターネット上に書き込むことにしました。  少し恥ずかしい。数多いるnoteユーザーのうち、チョット物好きな人が…

白雉
7か月前

動画サイトって情操教育的にどうなん

 今日の正午過ぎ、マクドナルドで昼食をとっていると、目の前に親子が座ってきた。40代と思しき父親と6~7歳くらいの息子で、父親が必死にモバイルオーダーに挑戦している傍らで息子は座るや否や「ハッピーハッピーハッピー」「チピチピチャパチャパ」とはしゃぎだした。やんちゃな子なのだろう。父親がスマホと格闘しながら「うるさいって」と叱るが、一向に止む気配がない。
 自分ははじめこそ「こんな小さ

もっとみる

「リテラシイ」「低徊」 他

・リテラシイ (2024.2)

 僕らは疑いすぎた。

 ネットを疑い、
 友を疑い、
 親を疑い、
 自分を疑う。

 情報を疑い、
 論理を疑い、
 感情を疑い、

 人生を疑い、
 生死を疑い、
 存在を疑い、
 世界を疑い、
 真理を疑い、
 何も分からないということも
 疑っている。

・信徒の狂気 (2024.2)

 懐疑主義が
 不可知論が
 僕に遺したものは、
 奇妙な虚無感だ

もっとみる

「思い出」「いやしい」 他

・思い出  (2023)

 皺の寄った腕が水底の柔らかい砂を掻き分けて、手を切るやもと恐る恐る、「それ」を探し求める。小さな縦長の頭には、大きな黒い球体がひとつ、つるりと光ったまま嵌め込まれている。薄く濁った水の中で、人型の生命体は砂を掻き分け続ける。やがて腕が止まり、砂埃を上げながら片腕を上げると、手のひらには鮮やかな緑色の結晶が包まれている。真黒な眼を満足げにつやつやと光らせて、人型の生命体

もっとみる

乖離

 一年の浪人生活を経てなんとか大学入学前期試験を終え、合格発表を待っていた3月のある日、僕は松山に住む中学時代からの友人の家に遊びに行った。4日間彼の家に泊めてもらい、ビデオゲームと観光に勤しんだ。
 羽振りよく高い飯を食い、朝方まで遊び、実に楽しかったが、同時にどうしようもない虚無感と欠乏感が残った。
 性とゲームとSNS、それ以上のものは彼の言動から何一つ感じられなかった。それがただ哀しかった

もっとみる

無題の音声.1

若者は昔より自由なのかもしれない。
しかし依然として縛られているのだ。
縄ではなく、目に見えぬ鎖に。
手足縛られ荒野に放り出されていたのが、
五体満足で密室に閉じ込められたのだ。

幹線道路を急ぐ車の残響を聞きながら
朝っぱらから
虚しい時間の延長戦

人生への虚無感が、倦怠感が、絶望が
希望と釣り合わない。
ずっと赤字なんです。
今まで数少ない希望とイマジネーションの身銭を切って、なんとか生きて

もっとみる

掌編「ワンダー・ランド」(2022.6)

 今夜は雪が降るらしい。大雪だそうだ。共通テストは散々だった。槍でも何でも降ればいい。

 雪が降り始めた。
 桜みたいだと思った。本当はそう思いたくなかった。今年の桜は、灰色だろうか。ベッドに倒れ込んだ。窓に背を向けて、顔まで毛布で覆った。

 夢を見た。
 幼い頃、雪の降る日は、眠れなかった。小さな私は、いつまでも窓に貼り付いていた。窓を覗くと、雪が音を吸い込んで、無音の世界から、町の灯が飛び

もっとみる

「溶解」 (2023.9)

 あいつよりは生きている?
 あの子よりは死んでいる?

 周りよりは
 わかってるほう
 頑張ってるほう
 けど
 今日はダメ

 上には上がいて
 下には下がいて
 代えもいくらでもいるんだって

 相対化の波の中で
 希薄になってゆく

 今日が満たされないのは
 今までが満たされていたから
 なんて
 幸せまで相対化するの?

 今日もまた
 光る板を眺めて
 投げ捨て
 拾い上げ
 むな

もっとみる

掌編「嚥下」 (2022.9)

 蛍光灯は座席のモケット生地から瑠璃色の光を吸い上げつつ、窓ガラスを仄暗い鏡にして、雨夜のバスを外界と切り離された一つの箱にしている。
 向かい側の窓辺には一人の老婦人が凝と座っていた。後部の座席にはまた音もなく中年の男性が座っていた。運転手の無感情な声が拡声器越しに響いた。彼らはエキストラに過ぎなかった。
 我々は幾つかのバス停を身じろぎもせず見送った。無機質な車内にはビタミンオレンジの手すりが

もっとみる

腹六分目くらいが一番幸せ

 腹を満たす食事と心を満たす食事は必ずしも一致しないようだ。
 なんとなく気が向いて、雰囲気の良い小さな喫茶店に入った。けして安くはない価格設定に、コーヒーだけ…と貧乏人根性を働かせるが、昼時の空きっ腹の誘惑に抗えず、ついにカレーライスを注文。多くはないものの、しっかりと牛肉の入ったスパイシーなカレーに舌づつみを打った。
 ルーの辛味、ライスの甘み、柴漬けの酸味、アイスコーヒーの苦味を交互に感じ、

もっとみる

「宣誓」「異性人」「泡沫」

・宣誓  (2023.6)

 食卓に並んだ
 キムチにコーラに寿司
 僕にはどれも等しくうまい

・異性人  (2022)

 それはエイリアンの抱擁だった。
 僕たちは骨張った体を何度も撫でさすった。
 ブロック塀のナメクジを見るように、
 彼女の陰部に目を凝らした。
 それはヤマアラシの恋慕だった。
 惑星の接近だった。
 僕らは抱き合いながら必死に
 人間を探している。

・泡沫  (20

もっとみる

掌編「影魚」 (2022.4)

 一つ不思議な思い出があるんだ。

 それは寝苦しい夜だった。三日月はとうに稜線の向こうへ消えていた。山の端は半ば夜空と溶け合いながら町を抱いていた。埃臭くなっていた実家の自室を抜け出して僕は散歩に出た。暗い街路には人一人居なかった。
 街灯の下で時計を見た。午前二時四十五分…カーブミラーの丸い影が僕の隣に黒々とわだかまっていた。
 再び歩き出そうとしたとき、「ねえ、お散歩?」と、澄んだ声が肩越し

もっとみる

創作、というと恥ずかしい

 今までスマホに書き溜めてた短い文を、保存も兼ねてインターネット上に書き込むことにしました。
 少し恥ずかしい。数多いるnoteユーザーのうち、チョット物好きな人が僕の記事を見て、眉をひそめて…あるいは眉一つ動かさず通り過ぎる…そんな光景を想像すると恥ずかしい。
 それでも書き込むことを決めたのは、誰かに読んで欲しいから。いや、読まれねばならない。凡庸だけど名前は知ってるあの物書きの青年期…このn

もっとみる