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良いことばかりの物語を描くには

 物語には起伏がなければならないため、良いことばかりではなく悪いことも描写されねばならないとされる。良いことは起こるとテンションが上がるし、悪いことは下がる。その上がり下がりが、物語上の起伏だ。それは観客を夢中にさせる要因となる。
 そして、大抵の観客は「良いこと」を期待して物語を見る。そこで悪いことを目の当たりにすると、期待したものが現れるまで粘りたくなるものだ。だから物語は悪いことが起こってから始まると言えるくらい、それは重要な出来事となる。

 そのため、悪いことの起こらない物語はないし、それは「つまらない」物語と認識される。そんなものを観客に見せ続けることは難しく、どうしても世の中の物語は悪いことを中心として構成される。
 もし、良いことしか起こらないような物語を描こうとするなら、悪い出来事がないままに物語に起伏を生まなければならない。それは一見したところ難しいようだが、実際はとても単純である。

 悪いことと良いことがそれぞれ起こることで、テンションの上げ下げや、期待感の引き伸ばしができる。それはよく考えると、悪いことと良いことだからそうなるのではなく、単に感情の温度感のギャップである。観客が物語上のある出来事を見て抱く感情とは、できるだけ違いのある感情を抱けるような出来事が起こることで、その物語に夢中になるという仕組みである。

 よって、物語に起伏が生まれることを目指すのに必要なのは、実は「良い悪い」ではなく、抱く感情のギャップだ。そしてそれを生むためには、「良いこと」と「さらに良いこと」であってもいい。もちろん、悪いこととさらに悪いことでも同じだ。

 感情のギャップさえ作れるのなら、物語中の出来事がどのような感情を抱かれるのかは問わない。だから、良いことばかりではなく悪いことも描写されねばならないとされるのは、実は間違いである。
 出来事の内容ではなく、生じる感情の強弱が大切な要因だ。それさえ適切であれば、物語に起伏は生まれる。そして起伏が生まれれば、物語は面白くなる。観客を夢中にさせられる。
 良いことだけでも、物語に起伏は生まれるのだ。

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