SARS-CoV-2のスパイクタンパク質にまつわる『シェディング(shedding)』とは?
翡翠です。
現在、mRNAワクチン接種者から『シェディング』によって放出されたSARS-CoV-2のスパイクタンパク質が、周りの人間・動物に影響を及ぼしているというデマが拡散されています。
以下、その『シェディング信者』のツイートを紹介します。
シェディング信者の中には様々な方法でペットにスパイクタンパク質の『解毒』を試みる人もいるようですが、ネコにストルバイト結石の原因となるマグネシウムや塩(ぬちまーす)を必要以上に与えるのは絶対にダメです!
JAMJAM999 @JAMJAM9994
返信先: @miracle_358さん
連投ごめんなさい。うちにはにがりと高濃度マグネシウム、ぬちまーす、重曹くらいしか
猫にあげられそうなものがなく…普段からご飯と水にはマグネシウム、ぬちまーすを混ぜてあげてますが他に何かすぐ対処できそうなことはないでしょうか…💦
午後10:43 · 2021年7月19日·Twitter for iPhone
こんな食生活では腎臓に負担がかかってしまいます。
このツイートを見て、本当に最悪の気分になりました。
これで飼い猫の体調が悪くなったら、「ワクチンのせいだ!」と言うのでしょうか?
こんな頭の悪い人に飼育されているネコが可哀想でなりません。
これは虐待です。
そんな彼らの言う、『シェディング(shedding)』とは一体何でしょうか?
まずは、ライフサイエンス辞書で『シェディング(shedding)』について検索してみましょう。
shedding
脱落, 分断, (膜貫通タンパク質細胞外ドメインの切断と放出) シェディング, (病原体の体外への) 排出, 脱粒
https://lsd-project.jp/weblsd/c/begin/shedding
見ると分かるように『シェディング(shedding)』には複数の意味があります。
ここで注目して欲しいのは、『(膜貫通タンパク質細胞外ドメインの切断と放出)シェディング』と『(病原体の体外への)排出』の2つです。
まず、1つ目から説明します。
1. 「膜貫通タンパク質細胞外ドメインの切断と放出」という意味のシェディング
分子生物学・ウイルス学の研究者(基礎研究者)は、『シェディング』と聞くとまずこちらを思い浮かべると思います。
正確には『エクトドメイン・シェディング(ectodomain shedding)』と言いますが、細胞膜上に存在するタンパク質(=膜タンパク質)が、プロテアーゼと呼ばれるハサミのような働きをするタンパク質により切断され、その一部が細胞膜から離れることを『シェディング』と言います。
(画像:http://www.ritsumei.ac.jp/~kshira/contents_4.html)
生物はDNA、RNA、タンパク質、糖質、脂質、といった様々な有機化合物によって形作られていますが、生命現象を生み出す原動力となるのはタンパク質です。タンパク質には構成するアミノ酸の順番と数によって様々な大きさや形になることができるという特徴があるからです。タンパク質の働きは修飾を受けることで厳密にコントロールされています。私達は生命現象をコントロールするタンパク質修飾の中でも、膜タンパク質を細胞から切り離す「シェディング(図参照)」に興味を持って研究を行っています。シェディングは、細胞につなぎとめられた膜タンパク質を細胞から切り離すことで、1つの膜タンパク質から局在の異なる2つのタンパク質を作り出すという影響力の強い修飾であり、がん・神経変性疾患・生活習慣病の発症に関わることが知られています。
http://www.ritsumei.ac.jp/~kshira/index.html
SARS-CoV-2のスパイクタンパク質も、ウイルス表面の膜に刺さった『膜タンパク質』です。
(画像:https://www.cas.org/ja/resource/blog/covid-19-spike-protein)
そして、スパイクタンパク質は、TMPRSS2、Furinなどのプロテアーゼにより切断され、『S1』と『S2』と呼ばれる2つのタンパク質(サブユニット)に分かれることが知られています。
(画像:https://a.static-abcam.com/CmsMedia/Media/covid-19structurediagramupdatedjp.jpg)
SARS-CoV-2の細胞への侵入過程で、S1サブユニットは受容体結合ドメイン(RBD, receptor binding domain)を持ち、宿主細胞膜上に存在する受容体ACE2に結合し、その後、S2サブユニットはウイルスと宿主細胞の膜の橋渡しをし、膜の融合を仲介します。
これにより、ウイルス内部のゲノムRNAが細胞内へと侵入します。
したがって、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質がプロテアーゼにより切断され、そのS1サブユニットが細胞膜から離れる、イコール『スパイクタンパク質のシェディングが起きる』、というのは科学的根拠に基づいた周知の事実です。
Nature. 2020 Dec;588(7837):327-330. doi: 10.1038/s41586-020-2772-0. Epub 2020 Sep 17.
Receptor binding and priming of the spike protein of SARS-CoV-2 for membrane fusion
https://www.nature.com/articles/s41586-020-2772-0
SARS-CoV-2細胞侵入の構造的および機能的メカニズム
https://www.abcam.co.jp/content/structural-and-functional-mechanism-of-sars-cov-2-cell-entry-3
2. 「病原体の体外への排出」という意味のシェディング
シェディングにはもう一つの意味があります。
それが、正確には『viral shedding(あるいはvirus shedding)』と呼ばれる、ウイルスが体外に排出されるという意味の『シェディング』です。
使われ方の例としては以下のようになります。
Understanding viral shedding of severe acute respiratory coronavirus virus 2 (SARS-CoV-2): Review of current literature
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の『ウイルスシェディング』について:最新文献のレビュー
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7691645/
こちらの意味でのシェディングは、主に臨床医が用います。
冒頭の「SARS-CoV-2のスパイクタンパク質が体外へ排出される」というデマを積極的に拡散したのは、クリスティアン・ノースラップ(Christiane Northrup)や、スザンヌ・ハンフリーズ(Suzanne Humphries)などの医師たちでした。
それでこのデマに説得力が増したという部分が少なからずあるでしょう。
「シェディング」に関しては、これまでの新型コロナウイルスに対する予防法、治療法がそのまま使えるのではないかと思われます。
...
これは興味深いですね。ノーマスク連中がmRNAワクチン接種者の周囲に排出されたスパイクタンパク質を避けるためにマスクを着けるということが実際に起きています。(実はそれが本当の目的で、クリスティアン・ノースラップ医師は私たちの味方なのでしょうか?)
https://shanti-phula.net/ja/social/blog/?p=279212
(マスク着用はシェディング対策として有効のようです。笑)
ここまで書けば、もうお分かりですよね?
クリスティアン・ノースラップ医師らは、1つ目の「SARS-CoV-2のスパイクタンパク質がプロテアーゼにより切断され、細胞膜から離れる」という科学的根拠に基づいた事実を、「SARS-CoV-2のスパイクタンパク質が体外へ排出される」という意味と取り違えているのです。
そんな、ウイルスの感染・侵入メカニズムについての知識のない『医師』たちの流したデマなのです。
このシェディングの概略図を見ると、mRNAワクチンのスパイクタンパク質を『ウイルス』と置き換えても意味が通じます。
これが、医師たちが『shedding』と『viral shedding』を混同してしまっている何よりの証拠になっています。
もしかしたら、クリスティアン・ノースラップ医師たちの勘違いで、わざとではないかもしれません。
シェディングの「体外へ排出される」という意味しか知らない医師が、「スパイクタンパク質の『シェディング』が起きる」ということを見聞きしたら、あまりの驚きで思考停止してしまうでしょう。
しかしながら、その結果として、mRNAワクチン接種者を差別したり、ペットにとって『毒』となるようなものを与えたりすることに繋がっているというのは、とても許し難いことです。
シェディング信者の中には「ぬちまーす飲ませる訳いかないから」と言う、まともな人もいるようですが...。
このMiracle Splash(@miracle_358)という元凶となったアカウントに、面と向かって「ネコに塩(ぬちまーす)はダメ!」と言えない雰囲気のコミュニティというのは、非常に危険です。
このデマを流している人は他人・ペットを傷つけていることを自覚してください。
一刻も早く、このデマがなくなることを願います。
以上。
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