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クローン04 第12話

  十二 私がいたら

「リンスゥのベッド、シーツだけじゃなくて下の布団まで穴開いちゃったし、かえないとねえ」
 話しかけたのはマリア。襲撃され荒らされたリンスゥの部屋から自室に移動して、二人の枕を自分のベッドに並べている。
「うん……」
 答えるリンスゥ。破れたパジャマをぬいで新しい物に袖を通していた。気のぬけた返事。
 その口調にマリアは振り返る。リンスゥはどこかぼんやりと、心ここにあらずといったふう。
 それを、さっきの事態の反動だろうとマリアは受け取った。戦闘型のクローンとはいえ、寝ているところをいきなりたたき起こされて、激しい立ち回り。当然、消耗はあるだろう。そうおもんばかって、歩み寄り、リンスゥをそっと抱いて、髪をなでる。
「大変だったね。お姉ちゃんがいつもみたいに子守歌歌ったげるから、もう寝ようね」
 マリアはリンスゥに優しくするとき、時々、お姉ちゃんが……と自分のことを呼ぶ。
 確かに製造番号からして、マリアの方が早く培養槽から出たのはまちがいないのだが、だから姉と認めるのかというとリンスゥには違和感がある。
 戦闘型のリンスゥは身体がしっかり出来上がってから出荷、それに対してマリアはもっと若い段階で出荷されているので、見た目としてはちょうどつりあっているのだ。
 出荷。
 その言葉が頭をよぎり、リンスゥはぶるっと身ぶるいした。
 それは自分を物としてあつかう言葉。
 それは自分を道具としてあつかう言葉。
 そういえば、自分の鏡のような同型クローンを攻撃するのは、リンサンに手をかけて以来だ。あの時から、リンスゥはおかしくなってしまった。自分が何者であるのか、わからなくなってしまった。
 以前は道具であることに、道具としてふるまうことに、疑問どころか、考えをめぐらせることすらなかった。
 だが今は、そう考えることで、心の中にぞわっと何かがわきたつのだ。
 そんなリンスゥの様子も疲労のせいと判断したマリアが、リンスゥの手を優しく取って、ベッドへと導いた。自分のとなりに寝かせて、布団をそっとかける。そしてぽん、ぽんと肩をたたきながら、小さな声で歌い出す。
 だがそのマリアのいつもの優しい子守歌でも、リンスゥは寝付けなかった。
 マリアに悪いので寝たふりをしながら、頭の中では、先ほどのシロウの言葉がぐるぐると回っている。

『暁里(シャオリ)生物科技』が私を追っている……。

裏切った組織の残党ではなく、私を出荷した製造元が。

リンスゥが元いた組織ジンロン会は、都内、広く見てもせいぜい近隣県に勢力を持っていただけ。それもほとんど壊滅させられたようだ。残党がいたとしてもそう多くはなく、また自分がクローンであるがゆえに多分見分けがつかないだろうと、安心感も芽生えていた。
 『暁里生物科技』は、そんな地元のチンピラとは比べ物にならない。日本国内は当然のこと、海外にも活動拠点を広げている。捜索にかけられるリソースも、その能力も段ちがいだろうということは、疑うべくもない。
 現にそうして、彼らに見つけられてしまったのだ。
 先ほどの戦いの様子を思い出す。
 自分と同じ顔のクローン。戦いの場においても感情がゆれ動くことなく、常に冷静に攻撃をしかける。
 それはついこの間までの自分の姿でもあった。
 刷り込みが外れてしまう前、まだ道具として健全に機能していたころの自分。
 そう考えるほど、先ほどの心の中のざわめきはひどくなる。それは彼女の心の何かをからめとり、むしばんでいく。
 そしてもう一つ、心の中にわき始めた思いがあった。
 自分と同じと言いながら、性能は明らかに相手の方が上だ。筋力にはそれほどの差を感じなかったが、反応速度は全然ちがう。
 常に先手を取られてしまい、防戦一方だった。急所をねらう白刃を、何とかぎりぎり外すのが精一杯。いくども皮膚をかすめられた。
「ん……ふ」
 かたわらのマリアが身をよじり、さらにリンスゥに身体を寄せてきた。肩にもたれる。すぐ目の前にマリアの顔が来る。
 規則正しい静かな寝息が、リンスゥの頬をなでる。
 ぴたりと寄せられたマリアの身体。以前初めていっしょに寝る時に、マリアはくっつくのはいやかと聞いた。
 そんなことは全然なかった。むしろマリアといっしょに寝ると安心する。そのしっとりとした身体の重さを感じると、心が安らぐ。
 血色のいい、ほんのりと桜色をしたマリアの寝顔。
 ふわりとあまい、いいにおいがする。
 そんなマリアを。
 
 シロウの介入が間に合わなかったら、自分の力では助けられなかったかもしれない。
 
 マリアだけではない。

シロウも、ヤーフェイも、もしかしたら、チェンさんやグォさんやワンさん、常連のお客さんたち。
 失敗ばかりでさっぱり使えない、ウェイトレスとしては失格な、戦うしか能のない、こんな自分を優しく見守ってくれる人たち。
 世間に放り出され、何もできないことを知った自分に、安住の地をあたえてくれた、かけがえのない人たち。
 そんな人たちを、自分は巻き込んでしまうかもしれないのだ。
 
 不安がぐるぐるとリンスゥの心の中でうず巻き、大きく育っていく。
 暗闇の中、寝付けないまま、やがてリンスゥは一つ決意を固めた。
 そっと起き上がった。その動きに目覚めたマリアの目が、うっすら開く。
「ん……リンスゥ? どしたの……?」
「う……うん、ちょっとトイレ……」
「そ……」
 ぽとっと頭が枕に落ちて、また寝息を立て始めた。
 リンスゥは静かにマリアの寝室を出て、自分の部屋へもどった。タンスの奥から、以前の服を探し出して着がえる。ナイフと銃を取って腰のベルトに収める。
 そしてまた部屋を出ると、音を立てないように階段をそっと下りる。

「リンスゥ」

まったく気配がしないまま声をかけられ、飛び上がるほどびっくりした。
 シロウが階段の上に立っていた。
 以前の姿にもどり、それなりに張りつめていたリンスゥに気取られないのだから、つくづくシロウはただ者ではない。完全に虚を突かれて、リンスゥはうろたえる様子をかくせない。
「し……シロさん」
「こんな時間にどうした?」
「え……え、と、トイレ……」
「わざわざ着がえて?」
 答えにつまる。もともと話下手なリンスゥ。とっさにうまいごまかしは出てこない。
「出ていくつもり?」
 シロウ相手ではすべてを見すかされているだろう。あきらめてこくりとうなずいた。
 シロウは階段をゆっくり下りてきた。
「どうして?」
「……ねらわれているのは私だから……私がいたら、みんなにも危険が……」
 シロウは、すっと手を上げた。
 リンスゥは思わず身を固くする。
 けれど上げた手はゆっくりと前に伸ばされ、ぽんとリンスゥの頭の上に置かれた。そのまま優しく、なでられる。
 身長はシロウの方が高い。そのうえ階段の段差もある。ちょうどいい高さにリンスゥの頭が来ている。その構図、そしてその手つき。まるで小さな妹をいつくしんでいるようだ。
「……シロさん?」
「リンスゥは素直でいい子だね。でも世の中は、そう単純にはできていないんだ」
「?」
 シロウはやわらかい瞳で見つめながら、不思議な事を言う。
「おいで」
 そして手招きして、最上階の部屋へ上がっていった。リンスゥもそれに従う。
 混沌としたシロウの作業部屋。モニターには明かりが入っていて、何かのプログラムが映し出されている。まだ起きて作業中だったのだ。起きていたとしても、しのび足のリンスゥの気配を察知したのは驚異だが。
 シロウはリンスゥに、そのデスクの前の大きなゆったりした椅子をすすめ、自分は別の簡素な椅子を引き出し裏向きにして、背もたれを抱えるようにして座った。
 じっとリンスゥの目を見つめて、問う。
「リンスゥは、なぜ自分が追われてると思ってる?」
「え、それは……組織を裏切り、仲間を殺して、逃げ出したから……」
「それじゃまだ半分」
「半分?」
「そう。確かに裏切ったのが問題だ。でも単純に裏切り者に制裁を加えるために追ってるんじゃないんだ。『暁里生物科技』が出てくるのは、その事が世間に広まると困るからさ」
 シロウはゆっくり両腕を広げた。
「自分たちの売っている従順なはずのクローンの中に、命令に背く不良品が混じってるなんて、世間に知られるわけにはいかないのさ。そんな事になれば、ウチのは大丈夫なのかと、総点検を求められるかもしれない。新しいのと取りかえてくれと要求されるかもしれない。何より評判が下がれば新規販売にひびく。コストばかりかかり、セールスは下がる。絶対知られたくないんだ」
 一息入れて、押し殺した声で付け加えた。
「知っている人がいれば、全員殺してでもね」
「あ……」
 リンスゥは自分の口を手でふさいだ。
「つまり、その事実、リンスゥが逃げ出してきたクローンだという事を知っている俺たちも、口をふうじなきゃいけない。実際に細かい事情がわかっているのは俺だけだが、それも関係ない。知っているかどうか確認できないのだから、可能性のある人間をすべて排除しなくてはいけない。もうリンスゥがここにいようが出ていこうが、同じなんだよ」
 リンスゥは、事態が自分の想像していたよりも、ずっと進んでしまっていることに気づいた。そこまで考えがおよんでいなかった。
「ご……ごめんなさい。私のせいで……」
 声がふるえた。
 『暁里生物科技』のクローンに対して、自分の力ではみんなを守ることはできない。その事実がさらに重くのしかかる。
 自分一人がどこかで殺されるなら、それは仕方のないことだと思っていた。できればさけたいとは思っていたし、うまく逃げれたらいいとも考えてはいたが、自分の死に対する恐怖はあまり感じていない。その部分ではまだ刷り込みが生きているのかもしれない。
 だがみんなの死を想像したとたん、胃の奥に鉄のかたまりを飲んだような、ずしりと冷たい恐怖が押し寄せてきた。
 
 みんなは自分にあんなに優しくしてくれたのに、自分は不幸を運んできただけだ。
 
 唇をかみしめふるえているリンスゥを無言で見ていたシロウは、立ち上がって部屋にある冷蔵庫を開けると、牛乳を取り出した。
 シロウの部屋には簡単なキッチンも付いている。牛乳をマグカップに注ぎ、レンジに入れて温める。時間はかけず、すぐに取り出す。
「気にしなさんな。リンスゥが悪いんじゃないよ」
 そう言いながら、ぬるめに温めたホットミルクに粉薬を混ぜた。それをリンスゥに差し出す。
「ほい、これ飲んで。飲んだら眠くなるから部屋にもどって寝な」
「で……でも……」
「大丈夫。相手はとにかく世間に知られたくないんだ。さわぎは最小限におさえたい。それにはきちんとした計画と、素早く遂行するための人数が必要だ。あわてなくても、次の襲撃はせいぜい明日の夜中さ。明日はいそがしくなるから、少しでも寝ときな」
 そして、ぽんと自分の胸をたたく。
「兄ちゃんに任せとけ。ちゃんと作戦があるんだから」
 冗談めかした口調だったが、まるで本当の兄であるかのような、親密で優しいほほえみを浮かべていた。

朝になった。
 いつも通りゆっくり起きてきたシロウは、店で朝食を取りながらヤーフェイに言った。
「おばちゃん、今日ちょっとリンスゥ借りるよ。仕事手伝ってほしいんだ」
「あいよ」
「ねえねえ、シロさん! 昨日の事件は? 警察呼ばなくていいの?」
 マリアがテーブルに身を乗り出してたずねた。鼻息荒く、入れ込んでいる様子。朝、リンスゥの絆創膏を取り替えている時に、まだ残る傷跡を見て眉をひそめていた。昨晩も言っていたが、玉の肌を傷つけられたことに、かなりおかんむりのようだった。
 ヤーフェイも心配そうにシロウを見ている。昨日の騒動では銃声で目を覚まし、あの直後、部屋を片付けている時に様子をのぞきに来た。少し遅れたのは武装を固めていたからで、拳銃だけではなく手になじんだ大きな肉切り包丁も構えていて、リンスゥも少しひるむぐらいのド迫力だった。その時に襲撃があったことは聞いている。
 そんな二人を前にしても、シロウはいつも通りのんびりとした様子をくずさず、揚げパンを豆乳スープにひたして、もぐもぐと食べた。
「あー、あいつらこの辺りの事件はどうせ物取りだろうとたかをくくって、真面目に取りあつかわないよ。通報しても無駄無駄」
 それを聞いて二人ともしぶい顔。警察の無気力ぶりは身に染みているので、そう言われてしまうと二の句が継げない。
 二人は『暁里生物科技』という大物が出てきているとは知らない。金品目当てにしては侵入方法からして乱暴だったので、シロウの仕事がらみなのではないかと考えていた。
 リンスゥを仕事に借りるというのも、そう考えるとうなずける。ウェイトレスとしてはいまだに危なっかしいが、用心棒としての腕は確かだ。
 本当はリンスゥが手助けするのではなく、その逆なのだが。
「大丈夫、俺が何とかするから。ごちそうさま。じゃあリンスゥ借りるねー」
 シロウはリンスゥを連れて階段を上っていく。
 リンスゥは先行するその背中に問いかけた。朝からずっと気になっていたのだ。
「シロさん、みんなにはちゃんと知らせなくても……?」
 昨日、部屋からもどる直前に、シロウに口止めされていた。混乱させないよう、シロウの口から説明する、という話だったのだが。
「んー、まだあとで。向こうの様子を探って、襲撃の予定が今夜遅くなのは確認してある。こっちの動きをさとられたくないんで、昼はなるべくふつうにしててほしいんだ。多分もう見張られてるからね。特にマリアが腹芸できそうにないだろ」
「あー……」
 なるほど、リンスゥが『暁里生物科技』にねらわれているなんて聞いたら、マリアは大さわぎしそうだ。
 多分自分のことは心配しない。その辺は肝がすわっている。代わりにその分リンスゥの事を心配して、店先に出ちゃいけないとか、とにかく一番奥にかくれてろとか、気をもむにちがいない。そうなればシロウの言う通り、こちらが警戒している様子が相手につつぬけになってしまう。戦闘において、相手に事前情報をさとられないことは重要だ。
 その点シロウは、相手の予定を確認しているとさらりと告げていた。どうやって、という疑問がわくところだが、以前もハッキングの結果を見せられているリンスゥは、シロさんならありなのかなと驚かなくなっていた。情報戦では、まず先手を取ったようだ。
「さて……」
 部屋に入ったシロウは振り返って告げた。
「今日はこれから、リンスゥを改造しなくちゃいけない」
「え?」
「相手のクローンは多分、市販前の最新型だ。リンスゥより性能は上。今のままじゃ太刀打ちできない」
 リンスゥもうなずく。それが一番の問題だ。みんなを巻き込めないと、ここを出ようとした原因。
「でも、大きく差を生んでいるのは、クロックアップの有無だと思うんだ」
「クロックアップ?」
「そう」
 それは昨日、『暁里生物科技』が追ってきているとわかった時に聞いた言葉だった。
 シロウはモニターに画像を呼び出した。SYRシリーズのカタログ。やはりあいかわらずどこから引っ張ってくるのか、社外秘とおぼしき詳細なデータ付きだ。
「リンスゥのような戦闘型とマリアみたいな他のクローンとのちがいはね、筋力や五感が遺伝子をいじって強化されているのもあるけれど、神経系統が電子的にサポートされてるってのが大きいんだよ」
 設計図らしきものが映る。頚椎から手足の末端まで、いくつにも枝分かれしたラインが延びている。
「ほら、最初にリンスゥのテレメトリを切断したろ。戦闘型クローンの首の後ろにはチップセットが組み込まれてる。他のタイプにも固体識別用のチップは入ってるが、機能はけたちがいだ。そこから神経を補助する光回線が走ってて、反応速度を上げているのさ。だから戦闘型はその回路のメンテナンスが必要になる」
 リンスゥは首に手をやり、さすった。テレメトリの話を聞いた時も思ったが、そんな物が入っているなんて、何かむずがゆい。
「で、さらにだ。」
 シロウは続けて別の図を呼び出す。
「このチップセットを使って、クロックアップというしかけを作ることができる。よく訓練したアスリートや格闘家が、とっさに体が動くと言うことがあるだろ。そういう動きをあらかじめチップセットに組み込んでおくんだ。反射的に、しかも大脳が判断する前にチップセットが身体を動かすので、反応速度が格段に上がる」
「マリアの銃撃をよけたのも?」
「そう。多分銃口の向きから射線を判断して、身体を外すパターンが入ってるんだろう。あらかじめ用意したパターンの組み合わせになるけど、パターンを十分増やせば、勝手に身体が反応して戦えるようになる」
 リンスゥは昨夜の戦いを思い出した。
 確かに一つ一つの技の速さよりも、次々にくり出される継ぎ目のない攻撃に押し込まれていった。
 ロボットのように超高速で反応して動いているのだとすれば、うなずける。
「でも私にはそんなことは……」
「そう、できない」
 シロウは肯定した。
「反応速度を何倍にも上げて連続して動くと、身体への負担が大きいからね。『暁里生物科技』のアフターサービスはリモートメンテナンスが中心だ。身体がこわれてもすぐに治療できないから、市販品にはダウングレードしたプログラムが入っているんだよ」
 呼び出した画面を次々と消し、別のアプリケーションを立ち上げる。
「つまり、実はハードの方の機能はあるんだ。ソフトが対応してない。そこで! さ、そこへ寝て」
 ベッドを示す。
 ベッドにはサーバーからコードがつながっていた。寝たときにちょうど首の辺りに来る部分に、非接触端子となるシートがしいてある。
「リンスゥのプログラムをアップグレード版に更新し、さらにシロさんお手製の物を追加する!」
 シロウはモニターをぽんぽんとたたいた。その顔には自信の笑みが張り付いている。
 その表情にうながされ、リンスゥはベッドに横になった。
「相手の動きの記録を見ると、肉体的なハードの部分も改良されてるようだけど、リンスゥも俺がメンテナンスして、例えるならカリッカリにチューンしたレース仕様車のような仕上がりだ。カタログスペックほどの差はないし、それなら十分、追加プログラムの出来次第で対応できる。その辺は任しとけ。『暁里生物科技』のプログラムなんかにゃ負けないぞー!」
 シロウは指をぱきぱきと鳴らす。
 キーボードを操作する。
「ん……」
 リンスゥは少し身をよじる。背筋に、ここに来た最初の時と同様、外部と電子的につながった瞬間独特の、ぞくぞくとする感触が走って、吐息がもれる。
「ただ、時間があったらいろんな局面に合わせたバリエーションを用意できるんだけど、今回は近接戦闘用だけなんだ。ごめんなー」
 リンスゥはふるふると首を振る。
 昨日夜遅くまでシロウが起きていたのは、これを準備してくれていたからだと気づいた。それだけで十分ありがたい。
 ふだん何の仕事をしているのかわからないと思っていたけど、こんな事までできるなんて、本当にすごい。
 その手際のよさと、熟練した者だけが持つ雰囲気が、リンスゥに安心感をあたえていた。
 シロウは続けた。
「というわけで、何とか接近戦に持ち込まないといけないんだけど、そこで作戦なんだ。プログラムに更新かけてる間に説明するからな……」
 シロウは九十六号を倒す作戦を説明しはじめた。

〈第13話へ続く〉

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