(読書感想文)じぶんの幸福をみつめる/江國香織 著『間宮兄弟』

・あらすじ
兄・明信、35歳、酒造メーカー勤務。弟・徹信、32歳、学校職員。2人暮らし。読書家、母親思いで、マイペースで人生を楽しむ兄弟だが、おたくっぽいと女性にはもてない。一念発起で恋人をつくろうと、徹信の同僚・依子と、ビデオ屋の店員・直美を誘って家でカレー・パーティーを開く。不倫の恋に悩む依子は兄弟には興味なし。明信は直美をデートに誘うが断られる。その後徹信は、明信の同僚・賢太の妻・沙織に心惹かれるが冷たくふられる。しかし、直美の妹・夕美は徹信に興味を持つ。そして、兄弟の純粋な感性は次第に女性たちの心を動かすことになる……。“そもそも範疇外、ありえない、いい人だけど、恋愛関係には絶対ならない”男たちをめぐる、江國氏の最新恋愛小説。

・感想
  高校生の頃にTSUTAYAで借りたDVDで「間宮兄弟」の映画を初めて見て、"ああ、なんて素敵な暮らしなのだろう。大人って素敵だなあ。自分で自分の幸せを決められるんだ"と、とても感動したことを覚えている。大人になって原作を読んでみても、やはり抱く感想は同じであった。モテない兄弟のただの日常が、どうしてこうも面白いのだろう。
  多様性という言葉が多用されるこの時代で、本当の幸福とは?心豊かな暮らしとは?という根本的な事について改めて考えさせられた。変わらないことって、悪いことのように捉えられがちだけれど、 果たして本当にそうだろうか?
  兄弟はそれぞれ自分の決まり事や考え方を持ち、自分の世界観を大切にして、どこにでもある日常を淡々と、穏やかに暮らしている。たとえ女性にモテなくても、格好がダサくても、時には悩んだり躓いたりしながらも、それを誰かのせいにすることもなく自分の人生を見つめて生きている。それを幸せと言わずしてなんと言えよう。
  たとえ世間や周りからすこし"へん"に思われたとしても、自分の感じる幸福を大切にして暮らす。というのは実は簡単なようでいてとても難しいことである。みんなの中に染み付いている「当たり前」に心を振り回されてしまうこともあるが、みんなにとって「当たり前なこと」や「正しいこと」が、いつだって自分を幸せにしてくれるわけではないのだ。
  充実した人生を送るために大切なのは「人から幸せそうに見られること」ではなく、「自分にとっての幸せとは何か」を誰よりも自分でしっかり考えることなのだと思う。そしてそれを分かっている間宮兄弟は、だからとても幸せそうで、その健全すぎる幸福感を纏った雰囲気で、一緒にいる人をなんだか穏やかな気持ちにさせてしまうのだろうなあ。いいなあ、間宮兄弟。

やめる頃合い、というものが、私にはいつもよく分かりません。本を読むことも物語を書くことも、折り紙を折ることもしゃぼん玉を飛ばすこともボール投げをすることも、子供のころから好きでしたし、いまも好きです。ノートに文字を書くとき、下敷きがないと気持ちが悪いのも、子供のころからおなじです。でも、下敷きを使っている大人やしゃぼん玉を飛ばしている大人をあまり見ないことも事実で、みんないつやめたんだろう、それともこっそりやっているのか、というのが積年の疑問でした。
あとがきp304

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