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喪失感から生まれるものと、「正義」を考えさせられる~ブラックパンサー / ワカンダフォーエバー~

 心臓がバタバタと忙しく高鳴って、なんとかそれを落ち着かせようと、そわそわしちゃう。
 MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)作品を観る直前はいつもそんな風。もうちょっと冷静な私でいたいなー。でも一番の楽しみだからしょうがないよなー。
 今回は、映画を2か月ぶりに観るためもあって、ちょっぴり久しぶりな感覚。緊張しちゃう。
 この2か月間、観に行きたい映画がたくさんあった。でも夫が忙しすぎた。疲れてしまって休日はゆっくりしてもらいたい。私も体調が良くなかった。良くなりかけては崩すを繰り返し。
 ネタバレしない映画感想を書いておられる方の記事を読んで「よしいつか絶対観るぞ!」の思いを強くする。仕方ないもの。ネット配信を待つ。

 MCUは、忙しくても体調万全じゃなくても少し無理して観に行きたいので、行ってきた。

 いやあ行って良かった。
 厳かで美しくて気高くて哀しくて。胸を打ったなあ。


*ネタバレまあまああります


 「シビルウォー」から出てきたブラックパンサーは、チャドウィック・ボーズマンが演じていた。
 品が良くて、「気高い王子」の役にぴったりだったと今も思う。
 「アベンジャーズ / インフィニティ・ウォー」でサラサラにされてしまった彼は、「アベンジャーズ / エンドゲーム」で戻ってくる。あの優しい笑顔をたたえてポータルから出現したシーンは、MCU好きなら涙なくしては見られない!

 そんな彼が、病気におかされていたとはほとんど誰も知らなかった。知られないようにブラックパンサーを演じ、亡くなった2年前に衝撃を与えた。
 私も当時そのことについて書いた。どう言葉にして良いかわからない悲しみだった。

 この後どうするんだろう。

 脚本は進んでいたらしく、書き直したそうだ。

 チャドウィック・ボーズマンに対する観客やファンの思いが確かにある。ストーリー上の登場人物たちの思いも。演者たちの思いも。そして製作者側の思い。

 映画が始まると、チャドウィック・ボーズマンへの敬意と思いやりを最大限に表した内容と映像の数々。何度も寂しく苦しくなって、最後は胸がいっぱいになる。
 彼のいなくなったその後の世界を、皆で励まし合って、どう立て直すか考えた誠実なものだったと私は感じた。

 その後の世界。
 妹のシュリが、ポスターの前面に出ているから察しはつくだろう。

 シュリは、兄が自分の技術で活躍してきた今までとちがって、自分の技術で兄を救えなかった自分にいら立ち研究に没頭する。亡くなった後の世界に現実感がない。

 そして家族全員を亡くしてしまうと、復讐心がわきあがる。

 戦争ってこんな風に起きてしまうんだ。きっと今の世界と重ね合わせた人は多いだろう。マーベルの世界のヴァイブラニウムを何かに置き換えて映画を観た人は多いだろう。自分のいら立ちから、力のある誰かの復讐心を利用して焚きつけるケースもきっとあるんだろう。

 でもそれに乗るか。そして広げるか。気持ちはあっても復讐心に支配されないか。
 その判断は人それぞれ心の声にあるはずだ。

 「正義」「正しさ」のあいまいさや危うさを、今まで以上にすっかりあからさまに描いていた。
 加害者は被害者になるし、被害者も加害者になる。立場によってはどちらも正しく、守るものがある。どちらの立場にも共感できるようにストーリーも登場人物も描かれている。特に今回、ワカンダと対抗する世界を丁寧に描いていて、どちらも悪者ではないと感じる。自分たちの世界を守りたい。その気持ちが強くて、復讐心に負けてしまうと世界は戦争につながりやすくなるようだ。

 象徴的だったのは、タロカンの人たちと闘う時。「アベンジャーズ」を思い出したシーンの数々。チタウリとの戦いを思い起こす描写がいくつかあって。あの時は責められる側が地球だった。
 そのシーンが重なった時は、衝撃的でもあり、ああやっぱりの気持ちもあった。私たちはどちらの立場でも見れるし、どちらの立場にもなり得るんだ。
 

 シュリはギリギリで愛するママの声を聴く。
 そこからの「私たちの復讐に国の人々を巻き込んでいはいけない」は、自分の心からの言葉だろう。

 母娘にわかりやすいこじれた関係はなかったけれど、それでも母娘って葛藤するもの。なるべく言うことを聞いてきた。なるべく母親の喜ぶように振舞ってきた。だって母親のことが好きだから。でもその縛りから解放されるんだ。その思いや意志。そこもきちんと描かれていたと思う。こじれていない母娘の、母親越えも見せてもらえた。

 亡くなった人を弔う意味。愛する者を亡くした喪失感。古くからの伝統や文化。合理的な考え。現代のテクノロジー。それらに対する考え方や純粋にわきあがる気持ち。一人が自分のために生きるか、国のために生きるかの判断。

 個人の心の中に起きた出来事や葛藤や覚悟を、存分に、丁寧に、そして美しく見せてもらった。

追記:
 アイアンハートは、アイアンマンの誕生(「アイアンマン1」)やスパイダーマンを思わせてワクワクした。今後の彼女の活躍は楽しみ。

 あと夫と話していて「わかんない」と私が返答の度に、夫が「わかんない、フォーエバー」と言うから、もう私も言わないと気が済まないよね。



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