【書評】届かぬSOSの声〜『52ヘルツのクジラたち』(町田そのこ)
とあるラジオで紹介されていたのを聞いて、読んでみた本です。初めての作家さんですが、いい小説でした。町田そのこさんの『52ヘルツのクジラたち』。
1、内容・あらすじ
主人公は三島貴瑚という20代の女性。東京で暮らしていた貴瑚は、ある込み入った事情で、東京を出て大分の小さな海辺の町に引っ越してきました。
そこで、「ムシ」と呼ばれていた一人の少年と出会います。障害のために喋ることができないムシは、母親にひどい虐待を受けていました。
自分との共通点を感じ取った貴瑚は、ムシのことを「52ヘルツのクジラ」になぞらえて「52」と呼ぶことにします。
52ヘルツのクジラとは、他の鯨が聞き取れない高い周波数で鳴く、世界で一頭だけのクジラのこと。声を上げているのに受け止めてくれる仲間はどこにもおらず、世界で一番孤独だと言われているクジラ。
共に「52ヘルツのクジラ」である二人が出会ったことで、彼らの人生は大きく動き出します──。
2、私の感想
タイトルがとても印象的で、その意味を知ると「ああ、まさに……」と非常に納得します。秀逸なタイトルだと思いました。
これは虐待の話とも、DVの話とも、愛着障害の話とも読めます。
ムシもさることながら、主人公・貴瑚の人生もかなり壮絶で、読みながら顔をしかめてしまいました。
しかし、物語はちゃんと救いの方向に向かうので、読後感はとてもよいです。
貴瑚にもムシにも、52ヘルツの周波数を聞き取って助けてくれる人がいました。現実もこうだったら世の中捨てたものではないな、と思います。
『流浪の月』の凪良ゆうさんが大絶賛したということですが、わかる気がします。
3、こんな人にオススメ
・SOSが届かないと感じている人
「52ヘルツのクジラ」はきっとたくさんいるんだと思います。
・「搾取されてきた人生だ」と感じている人
きっと共感できることと思います。
・精神状態が良好な人
ちゃんと救いはあるものの、読むのに若干の精神的体力を必要とします。
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