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ゆらぎ

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たぶん教訓も筋もメッセージもなにもない、断片的な文章
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最短距離を、君と行かない。気持ちのバリエーションに触れる道。

最短距離を、君と行かない。気持ちのバリエーションに触れる道。

一見、非生産的で無駄なこと、遠回りなこと、コスパやタイパの悪いこと。
そういうことを積極的にやっていきたい。
人生に彩りを与えくれる物事は、そのような営みの中にあるから。
彩りとは「気もちのバリエーション」のことだ。

先日、旅先で友人と車に乗っていた。
その夜、観光案内所的な場所でもらえる無料の地図をぱっと見て、「あ、ホテルだいたいこっちね」みたいなノリで車を走らせていた。
国道⚪︎号を北上して

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手ざわりが人生の中身を作る。触れて、撫でて、つっついてみる。

手ざわりが人生の中身を作る。触れて、撫でて、つっついてみる。

生きている時間の中身をつくるものは、「手ざわり」である。
これは比喩ではない。物理的な手ざわりのことを言っている。

大切な誰かの手、髪、木の葉、花びら、ふく風、猫、シャワーの湯、食器、楽器、布団、なんでもいい。
とにかく、生活を取り巻くありとあらゆるものに触れるその時間、私たちは生きる実感そのものに触れている。

最近、友だちと海辺へと出かけた。
海水に触れ、海岸の珍しい形をした岩肌に触れ、そこ

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呼吸 和音 川端康成

呼吸 和音 川端康成

最近、意識的に人と会うように心がけている。
久しぶりに会う同級生だったり、友達だったり、昔の職場の先輩や、ありとあらゆる知り合いに。

こちらから出向くこともあれば、家やアトリエに招いてみたり。
同じ時間を誰かと過ごすこと。

お互い何の目的もない話でいいから、言葉を交わす。
最近どう?へぇ。オレはさ、。
オチとか結論とか全然ないような話をうだうだと。
あるいは、相手の言葉にただじっと耳を傾ける。

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秋 わびさび ぼーっと 

秋 わびさび ぼーっと 

年齢を重ねるほど、秋という季節が好きになっている。
この頃は朝晩だけでなく、日中も肌寒さを感じる瞬間が増えてきた。
通勤時または散歩の折に、町を染める光線のセピアがかった色を目にする。
それがいかにも秋の風情で、しみじみと「いいなぁ」となる。

先日とある古本屋の店先のワゴンを物色していると、「わび」「さび」それぞれをタイトルにした新書が2冊並んであった。
なんの気なしに引っ張り出して表紙を見てみ

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私の読書に意味はあるか? 読んだそばから、内容をほとんど忘れてしまう読書について。

私の読書に意味はあるか? 読んだそばから、内容をほとんど忘れてしまう読書について。

日常的に読書をしている。1日平均して2時間くらい。
哲学、社会学、文化人類学、芸術、仏教の本が多い。
そして、毎日読んでいる割にちっとも内容が記憶に残っていない。
読んだそばからほとんど忘れている。

「今読んでるその本てさ、どんな本なの?」と人に聞かれても、
「ええと、なんつーかな、まあなんかこう、一言で言うのは難しいけどさ。みんなで助け合ってやってこうぜ、みたいな内容だよ。まあ、気になるなら読

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若者へのあざっすの気持ちが、肉に化ける話

若者へのあざっすの気持ちが、肉に化ける話

ちょっと前に地元の観光名所に行く機会があった。駐車場に停めて車を下りると、ほとんど同じタイミングで別の車がやって来た。

そこから降りて来たのは、20代とおぼしき4人の女の子。
視力0.01の人が10メートル離れたところから裸眼で見ても「インスタグラマーですね」と、即答しそうなほど、インスタばえガチ勢オーラ全開の4人。

車から降りるとさっそく、メンバーの1人であるハイトーンの髪をゆるっと巻いたシ

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これが最後になるかもしれない外出の話

これが最後になるかもしれない外出の話

初盆を迎えた親戚の住む町へと出かけることになった。高速を使って約1時間半の道のりを、父の運転で行くことになっていた。

肺を病んでいる父は、まともに100メートルも歩けない。
喘息のヘビーなやつみたいな感じで少し動くだけで、呼吸が苦しくなる。
でも、車の運転は好きだから出発前に「大丈夫だ、オレが運転するから」と、まったく大丈夫じゃ無さそうな顔色で言っていた。

実は、この日に先立つこと数日、母が話

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英語 テキサス 電話

英語 テキサス 電話

最近英語の勉強を始めた。3週間ほど経つ。
ことの発端は、SNSで僕の絵を買ってくれた海外のお客さんがちょいちょい「こっち遊び来たら教えてよ、案内するから!」的なDMを送ってくれること。

気がついたら20カ国近くに自分の絵が渡っている。絵を描き始めて1年半の素人にしては、運良くやれてるじゃんという気持ち。

お客さんがくれるそういうDMに、「ありがとう。その時はよろしくお願いしますね」と返していた

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フィールドオブビューの突然を、畑の駐車場で口ずさんだ話

フィールドオブビューの突然を、畑の駐車場で口ずさんだ話

畑に行った。
車で出かけるんだけど、山の斜面に畑の駐車場があるものだからなんと言うかこう、停めにくいって言うのかな。
うん、停めにくいの。
その停めにくい駐車場に車を入れまして、いよいよ降りる段になって、ゲリラ豪雨。

「畑?行かせねぇよ」
って、言ってるじゃん空。意地悪じゃん空。
畑を目前にして、車内で待つほかないこの状況。思い出したことがある。予報では先3日間雨が降らないとのことだったから、そ

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スピード 畑 時間

スピード 畑 時間

歳月の過ぎるスピードの早いのなんの。
特に何もしない間にもう5月の暮れが見え始めている。
いや…、生活をつぶさに見返してみれば何もしていないことはないな。
仕事をし、絵を描き、曲をつくり、畑をし、なんともうきゅうりが収穫できた。
ささやかではあれ豊かに生きているじゃないか。ナイス。

先日、畑に行ったら土地の管理人Aさんともう1人女性が作業をしていた。
「あ、どうもかわなべといいます」と軽く自己紹

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夕暮れ時 自転車 焼き鳥 

夕暮れ時 自転車 焼き鳥 

夕暮れ時の藍色に染まる路地のあちこちで、居酒屋の店先に暖簾がかかり、赤提灯が灯り始めた。
最近買った自転車で嫁さんと出かけた帰り道に、「焼き鳥食べたいね」と寄った焼き鳥屋。
名前を「鳥武蔵」という。

カウンター数席とテーブル2席だけの小ぢんまりした店内に入ると、見た目アラフィフの男性が2人で切り盛りしている様子だった。
勝手に名前をつけるなら、テツオさんとトシロウさん、といった風情の2人だった。

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本 禅 CD

本 禅 CD

本のページを開いて2行くらい読むと、もう眠くなっている。どうしてこんなに眠いのか。
春のせい、雨のせい、はたまた歳のせいにして、自分の眠気をあきらめてしまって、一向に進まない読書。

今、禅に関する本を読んでいる。仏教の禅。
鈴木大拙っていう、そっちの方では知らない人はいないスーパー偉人が書いた本なんだけど、いかんせん2行読んだら眠くなるありさまなので、亀どころか、なめくじの歩行速度で読み進めてい

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雨降り 洗濯 管理会社

雨降り 洗濯 管理会社

ざあざあ降りの雨が窓の外で音を立てている。タイヤが水を跳ねる音が重なって聞こえてくる。
まあまあの交通量がある通り沿いに住んでいるので、たとえ小降りの雨でもタイヤの音で「あ、今日は雨か」と気づく時がよくある。

先月から畑を始めたことで、天気予報を気にするようになった。
本当は毎日水をあげにいかなきゃなんだけど、なかなか時間的に厳しい部分もあり、とは言えサボってばかりだと野菜が「いや、むっちゃ乾か

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会話 部屋 町田康

会話 部屋 町田康

人と会話していると、結局何を言いたいのか分からない人がいたり、難しい言葉を多用する人がいたり、簡単な言葉でとてもわかりやすい人がいたりと、いろいろ。
いつも、それって部屋みたいだなと思う。

口に出す言葉(書く文章にも)には、その人の頭の中の「ありよう」が割とそのまま映る。気持ちや思考はウソでごまかせても、「ありよう」はそうはいかない。
話があっちへこっちへ行ったり来たりでよくわからない人の頭の中

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