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秋田・青森、20190319

 前日夜九時ぐらいにホテルについたのに、朝七時ぐらいにはもう出発。時間に余裕はあるのだが、中学生というのはとにかくじっとしていられない。朝ごはんはホテルで食べることにした。プランにはなかったが、フロントで追加料金を払った。バイキング形式で、自分以外誰もいなかった。

竿燈まつりは毎年八月に行われる。

 一度秋田駅に行くが、意外と時間があることに気づき、駅近くの千秋公園で時間をつぶすことにする。ズシリと重いリュックが肩にのしかかる。秋田は城下町で、千秋公園はその中心・久保田城の城址である。

遠くに望む奥羽山脈。あの辺は、まだ春が来ない。
反対側は、秋田市街。

 「どこから来たの」
 千秋公園で犬と散歩をするおばさんに話しかけられる。旅先で地元の人に話しかけられるとき、第一声は決まってこれである。大阪から来た中学生だというと、さぞかし親は心配しているだろうと何度も言われた。親戚がサントリーの工場の近くに住んでるとか、弟はロシア語がペラペラだとか、教えてもらった。話し好きだ。千秋公園で犬と散歩をするのは日課らしい。きっと今日の朝も愛犬を連れて誰かと話している。

 秋田駅というのは東京から新幹線も来る駅で、とにかくアピールがすごい。その土地「固有」のものは意外と駅に行くとわかるのかもしれない。秋田犬には「ご自由に撮影OK!!」の文字。もしかしたら、逆に他の物を撮影するのはダメだったかな。海外でも有名なので、表記は「AKITA INU」。ちなみに2023年の今「akita inu」とGoogle 検索すると、同名の仮想通貨が出てきた。2019年には、多分出てこなかっただろう。
 秋田駅を出発したのは、結局十一時。五能線回りで青森まで出たかったが、あまりに本数が少なくて断念した。奥羽線で、大館、弘前と経由する。途中、大鰐温泉によってお風呂に入る。
 秋田駅で列車に乗ると「この電車デッキがないから(客室部とドア部が分かれていないから)中で電話を掛けたらだめだよね?」と、今度はおじさんに話しかけられる。「多分そうです」と答えると外に行かれ、発車前にまた中に戻ってきて隣に座られた。「話してもいいかな」と話しかけられる。
 おじさんは、秋田生まれで上京し、今も東京に住んでいるのだが、親戚に会うために帰省してきた。このあたりではジュンサイが有名だとか、八郎潟のこととか、教えてくれた。八郎潟とは、秋田県の男鹿半島の付け根にある湖のこと。1957年から大部分の水域が干拓で陸地化された。おじさんは、おじさんが子どものころ、八郎潟は今よりもずっと広い範囲に水が張っていた、と言っていた。
 五日間のそれなりに長い旅だが、誰かから話しかけられたのはこの二回だけだ。秋田の人が話し好きなのかと思ったが、そうではないような気もする。旅のうち、人が活発に町で活動する午前中を過ごした場所は、東京、秋田、函館、札幌で、このうち東京と札幌は大都市だし、函館では多分地元の人が集まるような場所に行かなかった。また、函館ではおそらく地元の人は誰も鉄道を使っていなかった。

 午後二時半。大鰐温泉駅に到着。ランドセルに黄色いカバーを付けた下校中の小学生が歩いている。火曜日。多くの人にとっては今日が普通の一日だということを忘れていた。

 私だけかもしれないが、知らない街で夕暮れを迎えると、こんなに遠くまで来たのか、という感覚になって寂しくなる。
 大鰐温泉からまた奥羽線普通列車。目が覚めたらちょうど新青森駅だった。危なかった。
 新青森駅には、もう人はほとんどいなかったが、地元の小学生の作った工作品を並べている小学校の先生がいた。近くに行ってみてみると「おひとつよかったらどうぞ」と言われたので、ありがたくいただいた。地元の伝統工芸をモチーフにしたものだと思われるが、結局調べてもわからない。なにか説明が書いてあった気がするが、ブースの写真を撮らなかったことが悔やまれる。
 新青森駅から青森フェリーターミナルまで四十分歩く。新青森駅近くで夜ご飯を食べようと思ったが、駅を出て驚いた。駅前が真っ暗だったのである。仕方ないので歩き始める。新青森駅は、新幹線も通り全ての列車が停車する駅なのに、不気味なぐらい暗かったのを鮮明に覚えている。幸い、道中にラーメン店を見つけることができた。四十分も歩く行程にしていたことが良かった。旅先の食事はいつも結局ラーメンになってしまう。

「らーめん大地」煮干しラーメン。ご飯お替り自由!

 青函の移動は、鉄道は新幹線のみなので、18きっぷは使えない。かつては在来線が通っており使うことができた。その救済措置的なものにオプション券(18きっぷ利用者は普通に比べて安く新幹線で函館まで行ける)なるものもあるが、それでもかなり高い。フェリーの方が安いし、夜を越せる。
 フェリーターミナルで歯を磨き、午後十時半、北海道に向けて出発する。ここでスマホの充電は尽きた。
 乗客の数は、おそらく一桁。一組のカップルと、グループ客と、私と同じ一人旅。こんな感じだったか。もちろん部屋のクラスは一番下の、大部屋で雑魚寝スタイルで予約していたが、その大部屋の数より乗客が少なかったので、一人一部屋、使えた。
 航海は四時間弱…ここで疑問が浮かぶ。そういえば、函館に午前二時半に着いて、そのあとどうすればいいのか。スマホの充電は尽きている。雑魚寝スタイルの大部屋にコンセントはない。これはもしかして詰んでいるのか。でも、もうそれ以上考えることはできずに、すぐに寝てしまった。いよいよ明日は北海道に初上陸だ。


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