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小説【ある晴れた日の午後】

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現在執筆中の短編小説です。思い出しうる最古の記憶から、ある晴れた日の午後まで続く家族との交流の話です。 #短編小説 #冬 #幼少期 #家族
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#家族

【短編】ある晴れた日の午後5

【短編】ある晴れた日の午後5

ディスプレイ変更とは、月に1、2回の頻度で本社からの通達があり、決められた服をメインディスプレイとして飾り、販売強化をしようと言うもの。

もっと詳しく言うとそのシーズンにその店が売り出したい物やテーマがわかるので、店長や副店長はこの指示書を元にお店のレイアウトや売筋を作るヒントにする。

指示書には、マネキン通称ボディに着せる商品名、色、全体レイアウトが記載されているので該当商品を店内から掻き集

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【短編】ある晴れた日の午後2

【短編】ある晴れた日の午後2

父の腕の中から離れて、よろよろと数歩進み、どこまでも続く新幹線のホームドアの鉄柵に触れる。
寒い場所で、より寒さを倍増させるような物に触れてしまって、手のひらから一気に駆け巡るそれを全身で受け止める。ぶるぶるが、止まらなくなった。

後ろを歩いていた父が、私の背中を押してきちんと歩く様に促す。
前を歩かされるのは嫌いだなあ、と思っていたと思う。
エスカレーターが見えて来て、しきりに後ずさる私に父は

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【短編】ある晴れた日の午後1

【短編】ある晴れた日の午後1

「あれは、雪女の足跡だよ」

思い出しうる最古の記憶は、父の胸に抱かれて、遠くの山肌に残るそれを見つめる記憶だった。

父のその言葉は、当時の私を震え上がらせる程、恐ろしく、抱き抱えられた胸の所を何度も掴もうとした。
父は少し笑って、顔を擦り合わせて大丈夫、と言うけれど、その頬は冷たく、少し剃り残した髭がぱちぱちと当たって逃げるように顔をうずめた。

新幹線のホームのガラス窓から眺める向こうの景色

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