見出し画像

【短編】ある晴れた日の午後2

父の腕の中から離れて、よろよろと数歩進み、どこまでも続く新幹線のホームドアの鉄柵に触れる。
寒い場所で、より寒さを倍増させるような物に触れてしまって、手のひらから一気に駆け巡るそれを全身で受け止める。ぶるぶるが、止まらなくなった。

後ろを歩いていた父が、私の背中を押してきちんと歩く様に促す。
前を歩かされるのは嫌いだなあ、と思っていたと思う。
エスカレーターが見えて来て、しきりに後ずさる私に父は手を繋ぎ直して前に立った。

エスカレーターの、体が勝手に前へと押し出される感じと、その段差と段差の隙間に吸い込まれて行く感じが凄く嫌だった。
何度も夢に見て、吸い込まれた先の真っ暗な世界を思い出すと胸が竦んだ。

「早く乗れ。」

父に促される形でエスカレーターに足を踏み出す。
どっちも嫌い、その日強くそう思っていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?