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その話題、本当に信じて大丈夫ですか?「疑う力」の大切さ

先日、ある記事をきっかけに感動と落胆と教訓が得られたので、その一連の出来事を紹介したいと思い、まとめてみることに。なんにせよ言葉にしてアウトプットすることはとても健康的な習慣。

教訓を簡単にまとめると、「騙されてはいけない」につきる。笑

📜要旨

・理解できていないことは他人に説明できない
・何かを正しく理解することは、面倒で難しいプロセス
・疑問を持つ習慣がないと、騙されることになる。

🐣発端:MRIを用いれば体脂肪を正確に測定できるのか?

健康診断が行われるシーズンになり、自然と社内で体脂肪の話題に。私はあまり多くの診療所を知らないけれど、診療所によってはそもそも体脂肪率を測らない人も場所もあるらしい。例え測るとしても、足の状態によっては正確に測定できているか正直疑問ではある。もちろん実際より低く出るのであれば誰も気にしないけれど。笑

体脂肪の定義は、「体重(kg)に占める脂肪(kg)の割合(kg/kg)」

至ってシンプルな計算式だけれど、実際にはどのような原理で測定しているか皆さんはご存知でしょうか?

体脂肪は生体電気インピーダンス法で測定するのが一般的と言われています。測定原理がシンプルでかつコスト的にも安価だからです。ただ、精度に関しては疑問です。

職場の誰かが、「もしMRIを用いて腹部の断面図をみることができれば、正確に体脂肪が測定できるのではないか」と言い出した。単純な科学的興味だ。もちろんコスト的には見合わない。

🐥発見:MRIによって体脂肪を測定する体重計

Googleで調べてみると、実際、MRIを用いた体重計はあった。
正直かなり驚いた。

表題は、

家庭用で初のMRIによる体積推定方式を採用し、より正確な内臓脂肪レベルを評価できる体組成計を発売

となっている。

つまり、MRIを用いて腹部の断面図を測定すれば、正確な内臓脂肪レベルが評価できる、とのこと。

しかも、どうやらエレコムは「HELLO 体組成計」という名称で体重計を販売しているらしい。

MRI測定データに基づき腹部全体の内臓脂肪を算出する体積推定方式を筑波大学と共同で開発。 家庭用体組成計として初めて※採用し、より正確に内臓脂肪レベルの評価ができる“HELLO体組成計”。 50グラム単位の精密な測定が可能で、内臓脂肪レベル・基礎代謝など7項目を測定可能
※2016年10月現在当社調べ

公式の製品紹介ページ「MRI測定データに基づき腹部全体を算出する体積推定方式を〜」と書かれている。

私は大学時代MRIに関しては研究をかじっていたこともあり、少し感動した。体重を測るだけのためにややオーバースペック感はあるが、MRIを使っているのであれば正確に違いない。

🐔異変:価格が安すぎる、そもそも家庭で測定できるのか

しばらくたって疑問が湧いてきた。

どうやって測定するんだろう。MRIは巨大な電磁石と轟音のなかでやっと脳内をスキャンできる代物である。とてもではないが、家庭に設置できるものではない。

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「HELLO 体組成計」体重計の価格をみると、定価は税込で7000円弱。しかも価格ドットコムによると最安値はその半分の3500円。

いやいや、電磁石そんなに安くない!と疑問を抱き始めた。

そもそも家庭でMRIの技術を用いることはできるのだろうか。どうやって技術的に測定しているのだろうか。

一般的に用いられる体組成測定の原理は、「生体電気インピーダンス法」。

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[タニタ](https://www.tanita.co.jp/health/detail/37)より引用

タニタの公式ページでは、体重計に乗るときに靴下を履いていたり足を濡らしていたりすると性格に測れないと記載がある。なんとなく想像はつくが、体が同じ状態でも足の状態によっては電気抵抗値が変わってしまうので、体脂肪率の値もブレてしまうようだ。

🔎調査:どうやらMRIを直接的に用いてはいないらしい

では、こちらの家庭用で初のMRIによる体積推定方式を採用というのは何を意味しているのだろうか。どのような原理を用いているのだろうか。非常に気になったので調べてみた。

> 通常、内臓脂肪は、へそまわりのCT画像1枚から面積で算出されています。今回採用した体積推定方式では、胸の下~腰上までの腹部全体のMRI画像24枚から内臓脂肪体積を算出して、内臓脂肪の立体的な測定データに基づき評価します。
筑波大学研究発表URL

ふむふむ。

多数のMRI画像と内臓脂肪体積の繋がりが見えた。

しかし、肝心要の「家庭でどうやってMRIの技術を用いるのか」という疑問は解決されなかった。

もう少し読み進めてみる。

研究グループは、20~70歳の男女を対象にMRIで腹部を1cm厚、1cm間隔の断面画像として腹腔内の上端から下端まで最大24枚撮影、内臓脂肪の体積を正確に測定した。さらに体脂肪率や骨格筋率、骨塩量をX線装置で測ったほか、身体に微弱な電流を流したときの電気抵抗を家庭用体重計にも広く使われている4端子法による生体電気インピーダンス法で測定した。
これらのデータを総合的に解析、内臓脂肪の体積を生体電気インピーダンス法で精度よく推定できる式を作ることができた。この式を家庭用体重計に組み込むことで、内臓脂肪の断面積で評価する従来方式に比べ、より精度の高い内臓脂肪量の推定が手軽にできるようになった。

なるほど。

幅広いユーザーのMRI画像を取得し、内臓脂肪の体積を正確に測定した。らしい。「母集団の属性はどんな性質なのだろうか」「何人測定したのだろうか」と疑問が浮かんできた。

「結局生体電気インピーダンス法使っているんかい!」という驚きも隠せなかった。笑

足の状態によって測定誤差が出てしまう問題は解決されていない事実に落胆すらした。

要は、測定機器として何か新しい技術が誕生したわけではなかったのだ。

実際には生体電気インピーダンス法で測定された生データから内臓脂肪量の推定精度が改善された、というお話だったのである。

🔥訴求:技術を適切に伝えないと、普通に騙される

私はMRIを用いた体重計の存在に期待に胸を膨らませたが、調べていくうちに落胆していった。お風呂上がりや足の状態によって結局従来のような測定誤差は発生している。

生体電気インピーダンス法は、そもそも人間の組成を「脂肪(電気抵抗あり)とそれ以外(電気抵抗少なし)」という前提の元に成り立っている測定方法であり、

- 足の裏と体重計との電気的な接触抵抗による誤差がある
- 人間の組成は「脂肪とそれ以外」で分けられるほど単純ではない

など、色々な誤差要因があるように考えられる。

そんな背景もある中、もう一度この記事を読んでみてほしい。

家庭用としては初めてとなるMRI測定によって腹部全体の内臓脂肪を算出する体組成計「HCS-FS01」シリーズを12月上旬に発売

もう、表題が完全に誤解を招く表現。もはや誤読の範疇ではない。
読者は「MRI測定によってない内臓脂肪を算出できる」と踊らされる。笑

さらに読み進めていく。

通常は、へそまわりのCT画像1枚から面積で算出されている内蔵脂肪ですが、今回採用した体積推定方式では、胸の下から腰上までの腹部全体のMRI画像24枚から内臓脂肪体積を算出して、内臓脂肪の立体的な測定データに基づき評価されます。

「家庭でMRI測定できる体重計」と勘違いを誘導してしまう要素は十分にある。ライターさんがちゃんと技術背景を理解していればこんな風に書けない。

記事を読んでいるとわかるけれど、結局この体重計はどのような原理で体組成を測定しているのかが見えてこない。体重計そのものの説明の解像度は低い。

💡教訓:騙されていないか判定する方法

MRIがうんたらかんたら言っていながら、「結局生体電気インピーダンス法使っている」という事実に落胆したが、今回得られた知見もたくさんある。

そもそも健康関連のトピックには眉唾もののニュースがたくさんある。

「健康には納豆が良い」「がんの予防には緑茶がいい」「水素水は美容に良い」...。それこそ無限にある。偽情報もあれば、事実に近いものもある。

では、どういった基準で判断していけばいいのか。

月並みだけれど、人の言った事を鵜呑みにしないことが大切だと思う。

スナフキンも「僕は自分の目で見たものしか信じない。けど、この目で見たものはどんなに馬鹿げたものでも信じるよ。」とつぶやいているではないか。

先程の納豆の例であれば、

❓なぜ健康には納豆が良いのか
💡どうやら納豆菌が整腸作用があるかららしい
❓なぜ納豆菌には整腸作用があるのだろうか
💡どうやら納豆菌は胃酸に負けることなく、生きたまま腸内にたどり着き、もともといる善玉菌を活性化させ、悪玉菌を抑制して腸内環境を改善するかららしい(引用
❓なぜ納豆菌はなぜ胃酸に負けないのか。どれくらい腸に残留するのか。
❓善玉菌/悪玉菌とはそもそも何か
❓納豆菌はなぜ善玉菌を活性化するのか。活性させる度合いはどのくらいか
❓腸内環境を改善するとはどういう状態か。それは健康につながるのか。

などと疑問を掘り下げていく。それらの疑問が全て自分の中で腑に落ちた時初めて、「納豆は健康に良い」と胸を張っていえる。掘り下げる方法は、実験ベースと理論ベース両方ある。

実験ベースの思考は、理論は良くわからないけど結果的にこれこれをしたらこういう効果が出ることが多い、というタイプ

理論ベースの思考は、この現象はこの法則にしたがっているため、これこれをしたらこういう効果が出るに違いない、というタイプ

両者とも、注意したいバイアスもある。実験ベースの思考の場合は、結果を鵜呑みにするのではなく、実験条件にバイアスがかかっていないか疑う必要がある。理論ベース思考の場合は、実験して初めてわかる外因要素がないか確認する必要がある。

🚩結論

他人のいったことを鵜呑みにして、確固たる真理だと思いこんでしまうのは危険なことである。自分の中での真理フィルターを用意することが騙されない秘訣かもしれない。

・理解できていないことは他人に説明できない
・何かを正しく理解することは、面倒で難しいプロセス
・疑問を持つ習慣がないと、騙されることになる

というのが今回得られた知見である。
ここまで読んでくださった人、ありがとうございます🙇‍♂️


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