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観光地のブランディング

「観光」の仕事というのは、「こうしたらいいんじゃないか」と口出しされやすい分野だと感じます。
誰しも旅行に行った経験があるので、イメージしやすいんですよね。

でも、どんな仕事にもセオリーがあるので、それを知らずに業務を進めてしまうとお金をドブに捨てることにもなりかねません。
ということで、職場では参考図書をたくさん購入して、みんなで読むようにしています。
(三重県観光連盟の会員さん向けに貸し出しも行っています。)

読んだ内容を定着させるためにも、今まで読んだ本の感想などを記していきたいと思います。
今回は、「地域引力を生み出す観光ブランドの教科書」の内容と感想です。

なんのための観光ブランドづくりか

本書の冒頭部「はじめに」において、著者は観光ブランドの必要性を語っています。

有名な京都の観光プロモーションを思い浮かべてみよう。「ぜひ、京都に来てください」とは言っていないはずだ。
「そうだ、京都、行こう」
「行こう」という言葉は、売り手・地域側の想いではない。買い手・観光客の想いである。
観光客に「来てください」と頼むのではなく、観光客が「行こう」と思う。
これが、ブランドだ。

また、地域は動かすことができないから、モノ(商品)のブランドづくりと異なり、観光のブランドづくりには「引力」を生み出すという発想が大切である、といいます。

そして、観光客の増加を目標として掲げることに警鐘を鳴らします。

観光客数は、あくまでも「結果」だ。それを「目的」とすることは危険だろう。
長期的で、持続的な観光発展のためには、「結果」ではなく、「原因」に焦点をあてることが欠かせない。
地域引力があるから、観光客が引き付けられるのであり、その逆はあり得ない。(中略)
現実の観光施策をみると、観光客受入数という「数」の追及や、誘致・誘客型のプロモーション、キャンペーンが多いのは、このためかもしれない。

非常に耳の痛い言葉ですが、確かにその通りだと思います。
自分が好きな小説で、ドラマにもなった「下町ロケット ヤタガラス編」にて、主人公の佃社長も次のように語っています。

結局、社内政治や宣伝の巧拙ではなく製品が全てなんだ。
それを使う人たちが必要だと思い、いいと思ってくれたものだけが生き残る。

この言葉は、「UGC」の重要性にも通じているように感じてます。

(上記記事より引用)
何よりも、良い商品・サービスがなければ良いUGCも生まれないのは大前提としてありますが、逆に言えば、良い商品・サービスがあれば良いUGCを生むことができるのです。
それはSNSを通じて多くの人に届けられるのです。

地域が人々を引きつける力=「地域引力」が増加し、地域のブランド力が強くなれば、国内・国外の区別なく、人々の心を引きつけることができる。
つまり、「観光客」という結果を求めるのであれば、「引力ある地域の創造」=「観光ブランドづくり」に取り組む必要がある、ということです。

地域は、ブランドになるか

ちなみに「ブランド」と聞くと、何をイメージしますか?
おしゃれな人なら「洋服のブランド」、スポーツしてる人なら「スポーツ用品のブランド」を思い出すことでしょう。

これと同じように、「ブランド力のある地域を聞いたときに、具体的な地名を思い浮かべることができるのか」を著者が調査したところ、回答者の96%が具体的な地名を回答したとのこと。

つまり、「地域」もブランドになる得るんですね。

なお、「軽井沢」より「長野県」のほうが回答数が少なかったり、「日光」より「栃木県」のほうが回答が少なかったりと、「都道府県」より「地域」のほうがブランド力が高いという結果がいくつも出ています。

おそらく、長野県、栃木県は「地名」だ。一方、軽井沢、日光は、地名を超えた「ブランド」である。

三重県でいえば、「伊勢志摩」はブランドでも、「三重県」は単なる地名、ということになりそうです。

地域のブランドとは「イメージが浮かぶ」こと

いろんな地域の方と話していると、「知名度がないこと」を課題と捉えられていることがあります。
そもそも名前が知られていなければ、旅行先として選ばれるはずもないですから。

ただ、著者は、「知名度」と「ブランド力」はイコールではない、と言います。

ブランドは、知名度を超える概念だ。
あなたにも、「名前は知っているけど、とくに行きたいと思わない地域」はたくさんあるだろう。(中略)
強いブランドは、名前を聞いただけで、イメージが浮かぶということだ。

地域がブランドになるために

それでは、どうすれば地域はブランドになれるのでしょうか。

著者は、
「尖ること(=絞ること)」
「なにかで一番になること」
「シンボルをつくること」
「食を活用すること」
などをあげ、それぞれ具体的に解説されています。

この中で興味深かったのは、シンガポールの事例です。
「シンガポールといえば〇〇」
に当てはまるものを日本人1,000人に聞いたところ、半数以上が「マーライオン」と回答。
一方、同じ質問をアメリカ人1,000人にしたところ、なんと、「マーライオン」と回答した人は誰もいなかったとのこと。

なぜかというと、マーライオン自体が1972年生まれということで、それほど長い歴史があるわけではない中、シンガポールが日本に対して、マーライオンをシンボルとしたプロモーションを繰り返し継続してきたのとは対照的に、アメリカは主要なターゲットではないことから、そういったプロモーション展開をしなかったから、ということのようです。

ちなみに昨年度、シンガポールへ視察に行ってきたのですが、小さな国であるがゆえ、国としてのブランディングをすごく戦略的に行っていることが印象的でした。
なので、シンガポールがマーライオンというシンボルを戦略的につくりあげてきた、という話には、非常に納得できるものがありました。

観光ブランドづくりの手順

「地名」を「ブランド」に変えていくための「観光ブランドづくり」には、次の6つのステップで進めていくべきだ、と著者は言います。

STEP1:組織づくり、ベクトル合わせ
STEP2:地域の現状分析
STEP3:ブランド・アイデンティティの構築と共有
STEP4:ブランド戦略の実行
STEP5:ブランドの評価・モニタリング
STEP6:ブランドの磨き上げ

STEP3の「ブランド・アイデンティティ」とは、「目指す地域像」「地域のありたい姿」のことで、この「軸」がないと、ブレてしまうとのこと。

また、STEP4の「戦略の実行」にあたっては、「一貫性」が大事ということで、強いブランドがワンパターンであることを例示しています。

コカ・コーラは、いつも「赤」だし、スターバックスは、いつも「緑」だ。
(中略)
ブランド戦略の実行にあたっては、長期的視点を持ち、一貫性のあるコミュニケーションを、しつこいぐらい継続することが必要だろう。

さきほどのシンガポールの事例にも通じる話ですね。

観光振興の真の目的

「おわりに」において、著者は、観光振興の真の目的は「観光客を増やすこと」ではなく、「地域を元気にすること」である、とし、次のように述べています。(本書の帯にも掲載されています)

観光のブランドづくりには、ゴールや完成形はありません。
ブランドづくりで大切なのは「瞬発力」でなく、「継続力」です。
強いブランドは、常に進化を続けています。
ブランドづくりに挑戦し続ける「プロセス」そのものが、地域引力を生み出し、観光客や地域の人々を引きつけるはずです。

これは、まさしく地域DMOの役割そのものではないか、と感じました。

現在、「デスティネーションマネジメントEssence ~DMO・観光政策幹部が知っておくべき理論と実践~」という研修を受講しているのですが、先日の講義にて、DMOの第一人者である大社先生から、

観光振興による地域へのインパクトは、プラス効果とマイナス効果がある。
観光振興によって地域の人びとが幸せになるよう、観光による地域への正のインパクトを拡大し、負のインパクトを縮小することが、デスティネーションマネジメント(観光地経営)の目的。
そのためには、従来の観光以外の産業や住民参加による観光まちづくりが必要である。

ということを学びました。
地域において、様々な立場の方と話し合いながら目指すべき地域像を明確にしていく、というプロセスがあってはじめて、観光まちづくりが行えるのだと思いますし、それが地域ブランドを強くしていくことにつながるのだと感じました。

ちなみに。

ちなみに、三重県の観光シンボルマークには、「実はそれ、ぜんぶ三重なんです!」というキャッチフレーズが使われています。

三重県には「伊勢神宮」といった有名な観光名所や、「松阪牛」といった特産品がたくさんあるのに、それらが三重だと知られていないことから、このキャッチが活用されているところですが、本書には、

「Aもあります、Bもあります、Cもあります・・・」と「足し算」すればするほど、イメージは薄まってしまう。
買い手の心の中に、具体的なイメージが浮かばなければ、地域引力は生まれない。
「足し算思考」と「平等主義」では、ブランドは生まれない。
ブランドを生み出すために大切なのは、「引き算思考」と「メリハリ」である。

と書かれています。

確かに、以前「J. Walter Thompson Japan」という世界的に有名な広告会社の方から、
「ブランディングは、わかりやすくてインパクトのある1つのメッセージにする必要がある。」
と教えていただいたことがあります。

また、つい先日、広告・PR・マーケティングの専門家集団「GO」が実施する「プロブレ」(プロによるブレスト)を受けさせてもらったのですが、その際も、
「香川の"うどん県"や、大分の"おんせん県"のように、言語化した方が情報発信しやすい。」
と教えていただきました。

確かに、その通りなんですよね。
でも、三重県の場合はこれでもいいんじゃないかな、とも思ってます。

なぜなら、それだけ地域のブランド力が強い、ということだからです。
「三重県」としてのブランディングを強化するのではなく、各地域ブランドが強くなる取り組みを後押しすることで、結果的に、三重県全体として多くの方に来ていただけるようになれば良いのでは、と考えています。
(言葉を換えれば、「三重県」をブランディングすることに労力をかけるのではなく、地域のブランドを強化する取組にリソースを割いていけばよいのでは、ということです。)

ただ、プロブレの際に、
「大阪にある『ていねい通販』のように、物理的なモチーフではなくて精神的な言葉で大きく括ってもよいのでは。」
とのサジェスチョンをいただき、その手があったか!と目から鱗でした。

三重県伊賀市では「"忍者市"宣言」をしており、これはまさに地域ブランディングの好例だと思うのですが、三重県のようにエリアが広くなると、忍者も伊勢神宮も鈴鹿サーキットもあって、一つに絞ることが難しくなるわけです。(いろんな方面に忖度しだすとキリがないので。。。)
でも、"モノ"でなくても良いのなら、いろんなアイデアが拡がるので、また新たな切り口でのブランディングもできるのでは、と可能性を感じられたところです。

最後に、「ちなみに。」をもう一つ。
本書を読み終えて著者プロフィールを見たら、なんと!母校(静岡県立大学)の教授でした。
学部が違うので、お名前をみても全然わからなかったのですが、そういったことだけで、不思議と親近感がわいたところです。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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それでは最後に、美しい三重の写真をご覧ください。
写真提供は、無料で素晴らしい写真を提供してくれる三重フォトギャラリーさんです。

こちらは、志摩市にある「御座白浜海水浴場」。
詳しくは、三重県の公式観光サイト「観光三重」の取材レポート『志摩市の御座白浜海水浴場は海の家や設備も充実の人気スポット!インスタ映え間違いなしの風景は、まるで海外リゾートのよう・・♪』をご覧ください。

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