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読書記録「水底のスピカ」

川口市出身の自称読書家 川口竜也です!

今回読んだのは、乾ルカさんの「水底のスピカ」中央公論新社 (2022) です!

乾ルカ「水底のスピカ」中央公論新社

・あらすじ
夏休み明け、北海道の高校に東京から転校してきた 汐谷美令。容姿端麗、頭脳明晰の彼女だが、誰一人寄せ付けない雰囲気を醸していた。

クラスで孤高を演じていた松島和奈は、学園祭の準備で彼女に近づき、そして友だちになる。美令の側にいれば、自分も「特別な」人間に見られると思って。

クラスカースト上位の城之内更紗は、お高くとまったような雰囲気を醸し出す美令のことを、「東京の人」と揶揄していた。だけど、修学旅行での出来事を通じて、彼女の優しさに気づいていく。

そんな経緯から、自然と3人で行動することが多くなった美令、和奈、更紗。だけど、美令の心の内を聞くことは、なかなかできなかった。

学園祭最終日、美令は和奈に「私、神様の見張り番をしているの」と言った。そして毎週木曜日の放課後は、自転車に乗って海に行くことも欠かさなかった。

その言葉の意味も、行動の意味も分からない。そんなに、人に言えないことなのだろうか。私には美令の悲しみを背負うこともできないのだろうか。そんなに私は、頼りないのだろうか。

和奈は水に沈んだのだのだった。時々、ふとしたときにイメージする情景に突然取り込まれた。真っ暗な海の底から水面を見上げている自分。…二人は水面の上のきらきらした場所にいる。

同著 177頁より抜粋

2人の悲しみの連帯保証人になれないのだとしたら、一体友達って何だろう。

年明けのブックオフのウルトラセールにて爆買いした中の1冊。ジャケットに惹かれて買ったものの、しばらく積読状態に。

約半年本棚に寝かせたままにして、この度ようやく紐解いた次第。

高校時代を振り返ってみる。お世辞にも友達の多い方ではなかった私は、松島和奈と同じようなスタンスだった。

友達の多さとか、恋人の有無とか、そういうので人の上下を測るような人達とは距離を置いている。

孤独ではなく、孤高という生き方を選んでいるのだと。

そのお陰で、今まで友人の結婚式とやらに呼ばれることもなければ、昔のクラスメイトから急に飲みに誘われることもない。まぁ所詮は友達がいないやつの負け惜しみってやつだが。

それはさておき、私の場合は極端すぎるかもしれないが、そういう学生時代の友達と、大人になっても仲良しでいられるケースは、あまり多くないのも事実。

学生時代の友達が続かないのは、離れ離れになって会えないうちに新しい環境で独自進化を遂げるため。同じベクトルで同じ速度で変化するなんて、一卵性双生児でもそうそうできない

同著 343頁より抜粋

学生時代の友達なんて、いつの間にかできて、そしていつの間にかいなくなっているもの。

何が悪いというわけではない。お正月に「今年こそは会おう」と書くだけ書いて、そのうちに送るのも面倒になり、ついには自然消滅する。

人とのつながりなんて、所詮はそんなもの。連絡しなくなれば、つながりは失われる。

じゃあ、深いつながりがあれば、たとえ何があっても友達でいられるだろうか。

そうかもしれない。でも、その「深いつながり」ってやつは、どうやってできるのだろう。

悲しみを共有し合えばいいだろうか。他の人には言うことができないことを、自分たちなら話せる間柄のことを、親友と呼ぶのだろうか。そんな連帯保証人のような関係を、友達と呼ぶのだろうか。

だとしたら、そんな人に出会うこと自体、可能性が低いものである。

理解さえしてもらえさえすれば自分は肯定され受け入れられるはずだと、どうして自惚れられるのか。理解した相手がその上で自分を否定し拒絶するかもしれないのに。そうなったら、もう逃げ場がないのに。

同著 299-300頁より抜粋

お互いの秘密を語り合って、つながることができる仲間は、素晴らしいことかもしれない。

それは逆に、お互いが抱えている秘密が対等でなければ、友達とは言えないのだろうか。

作中で語られることの一つに、「祖父が亡くなって悲しい」と言ったら、「父親を亡くした私と比べたら、そんなので悲しむのは甘えだ」と返されたという話がある。

人間、同じような悲しみを負ったとしても、どこか人と比べてしまう。そして大抵、自分の悲しみのほうが、辛いものだと思うものである。

だとするならば、その人の立場になったことがないならば、その人の友達になることはできないのだろうか。

そんなことを言ってしまったら、誰ともわかり合うことはできない。

『他の誰もがつまんない普通の人がと言ったとしても、自分にとっては特別なんだって胸張れる人のことを、友達って言うんじゃないんですか』

同著 231頁より抜粋

その人の悲しみを背負うことができないにしても、それが対等でないしても、ただ寄り添ってやれるだけでも良いのかもしれない。

友達の存在自体が、心の支えになることだってあるのだから。

『We are made of starstuff』――私たちは星の材料でできている。

同著より抜粋

たとえ暗い海底に沈んだとしても、空に輝く星が見えるように。

そして僕らもまた、誰かにとって輝く星の一つなんだと思われるように。

ふと見上げた時に、名前や顔を思い出せるような友達がいるだけでも、やっぱり素敵なことなんだなってね。それではまた次回!

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