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読書記録「百年と一日」

川口市出身の自称読書家 川口竜也です!

今回読んだのは、柴崎友香さんの「百年と一日」筑摩書房 (2020) です!

柴崎友香「百年と一日」筑摩書房

・あらすじ

一年一組一番と二組一番は、長雨の夏に渡り廊下のそばの植え込みできのこを発見し、卒業して二年後に再会したあと、十年経って、二十年経って、まだ会えていない話

同著 9頁より抜粋

ラーメン屋「未来軒」は、長い間そこにあって、その間に周囲の店がなくなったり、マンションが建ったりして、人が去り、人がやってきた

同著 55頁より抜粋

屋上にある部屋を探して住んだ山本は、また別のバルコニーの広い部屋に移り住み、また別の部屋に移り、女がいたこともあったし、隣人と話したこともあった。

同著 130頁より抜粋

水平思考クイズのようなあらすじと、人間と時間に関わる34つの不思議な物語。

埼玉一人暮らし時代、郊外の大型古本屋さんにて何の気無しに手に取った本。いずれ読もうと積読状態のまま、かれこれ3年以上経ってようやく紐解いた次第。

いつもだったら、あらすじはなるべく自分でまとめるのだが、この作品はちょっと特殊である。

一般的な短編物語は、一つ一つの物語にタイトルが付けられているけれども、ここでは最初に上記のような「あらすじ」が書かれている。そしてそのあらすじから逸脱することなく、物語が進んでいく。

(一部を除いて)一つ一つの物語は独立しており、登場人物も住んでいる場所も異なる。先に出た主人公が、別の物語で登場するわけでもない。

ここで描かれるのは、様々な人間模様と時間の流れである。

タイトルの「百年と一日」のごとく、非常に記憶に残っている数日と、いつの間にか過ぎ去る長い年月が人生である。

私たちは1日1日をしっかり生きているけれども、その全てを記憶できているわけではない。

単調で代わり映えのない日々。振り返ってみれば、今日という日は先週、先月と何も変わっていないかのうような地続きさを覚える。

一方で、たった数日であっても、深く記憶に刻まれている時間もあるだろう。

例えば、いわゆる、人生のターニング・ポイントになった瞬間は、いつまで経っても忘れないものである。

私自身の経験で言うならば、初めて一人暮らしをした一日目は、非常に印象に残っている。友人が一人暮らししているのをきっかけに、自分も家を出たいなって思い立ってね。

初めて読書会に参加した日も覚えている。渋谷は道玄坂にあった「森の図書室」での読書会。上司からコミュニケーションの講習を受けたらどうかと言われて、なぜか読書会に参加することを決めた奴。

何人か知り合いができて、はじめて読書会を主催するようになった。雨の中神保町を散策するのが億劫だからと、三省堂が移転する前だったから、書店を歩き回ることにした。

そんな感じで、たった1日、たった数日のことが、過ぎ去った長い年月よりも、記憶に残っていることはあるだろう。

こういうターニング・ポイントのきっかけは、何だかんだ人が持ってくる。

全く別の人生を歩んできた他人が、自分の時間軸と合わさり、屈折することで進路が変わる感じ。

屈折することなく時間が進んでいくと、良くも悪くも単調な日々が続くことになる。そんなこともあったなと、10年、20年経って思い出すこともあるだろう。

過去から今という現代を経て、まだ見ぬ未来へと続いていく。その過程の中で様々な人と出会い、そして別れる。

自分以外の他者が存在するからこそ、いや、私の時間に交わるからこそ、私たちは時に大きく、ある時は小さく屈折する。

もちろん、当時はそう思わなくても、結果的にそうなったことだってあるだろうし、そうならないことだってある。

時間とはそういうものであり、それが人生なのだろうね。そんな不思議なことを考えちゃう作品でした。それではまた次回!

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