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読書記録「シアター!」

川口市出身の自称読書家 川口竜也です!

今回読んだのは、有川浩さんの「シアター!」アスキー・メディアワークス (2009) です!

有川浩「シアター!」アスキーメディアワークス

・あらすじ
春川兄弟の父は劇団の役者だった。役者と言っても小劇団の無名な役者であって、日銭をアルバイトで稼ぐような有り様だった。

兄・春川つかさにとって、父は叶わぬ夢を追い続けた駄目な男という印象だった。役者なんて安定しない仕事は、目指すべきではないと。

逆に、弟・春川たくみにとって父は、当時イジメられっ子だった自分が、自己実現できる場所を教えてくれた存在だった。

その影響もあってか、巧は父と同じ劇団の道に進むことになる。

最初こそ微笑ましく弟の劇を見守っていた兄。しかし、巧が学生時代の仲間と共に劇団「シアターフラッグ」を立ち上げ、定職も付かずに今も役者を続けていることに対しては、司も難色を示していた。

そんなある日、巧から泣きの電話が掛かる。ついに解散の危機だと。

きっかけは、プロ声優の羽田千歳はねだちとせが入団して演劇の方向性が大きく変わり、劇団内で意見が対立。結果として役者の半数が退団してしまう。

その上、事務係が劇団の赤字を補填していて、退団をきっかけに借金を返済しろと催促される。その額なんと300万円。

その話をすると、巧の予想に反してあっさりと兄は300万円肩代わりするという。その代わりに、一つだけ条件を提示される。

「2年間で劇団の収入だけで300万円を返せ。できないならば劇団を潰せ」と。

東京読書倶楽部の読書会で紹介されたのをきっかけに、リピーターさんから「読み終えたので差し上げます」と持ってきて頂いたため、ありがたく頂戴して紐解いた次第(頂き読書家だね)。

夢を追うってのは素晴らしいことではある。脇目も振らず、自分の夢や目的に向かって突っ走る姿は、見る人を魅了するものがある。

かつてウォルト・ディズニーが遺した言葉のように、私達は夢を追うことができる世界に生きている。

しかし、夢や目標の程度にもよるが、現実的な話、全ての人が夢を叶えられるわけではない。

特に役者などの芸能の世界や、スポーツなどの勝負の世界なんかは顕著に現れるだろう。プロの世界で食べていける人間は少ない。

以前読書会で高森勇旗さんの「降伏論」日経BPの紹介を受けた際のこと。プロ野球選手時代に活躍できなかった時期を振り返り、当時の自分は毎日努力することで、今の状況を見ない振りしていただけなのだと気づく。

実際に役がつかなくたって自分は役者だと言い張ることだけは可能なものだから、何となくずるずる辞められず、潰しが利かない状態に陥る人も珍しくないそうで――

同著 16頁より抜粋

好きなことをやっているから自分は貧乏なんだと納得し、その状況を受け入れているならば、「好きにしろ」としか言えないだろう。

私自身、今はライターとして好きな仕事をしているからか、今の生き方に満足している。

いずれは、ライターとして卓越したいとは考えているけれども、今は会社に属してるから安定しているだけで、今のスキルや実績では、とてもじゃないが遠い夢な気がする。

だけど、もしも中途半端に、なあなあにやっている状態が続いているようであれば、いつかは現実に向き合わねばならない。

自分の名前で稼いでいける、その道で食べていける人間は、ほんの一握りなのだと腹を括らねばならない。

決めたのならば、あとは夢に向かって全力を尽くすしかない。

全力を尽くしたからこそ、夢を叶えられるかもしれない。

逆に、全力を尽くしたからこそ、その夢を諦めることもできる。

「人間が何かを諦めるのに必要な条件って分かる? 全力でやって折れることだよ」

同著 54頁より部分抜粋

今は目の前の仕事に専念する他あるまいが、それでさえやるべきことをしっかりやる。

そして、全力を尽くすからこそ、自分の限界を知り、プロの世界で生き残れないと悟ることもある。

その上で、夢を途中で諦めるという決断は、決して悪いことではないだろう。

自分が何に向いてないか、目指していた夢の限界が明らかになったのは、次の道を進む際の指針になりうる。

でも、全力を尽くせば夢を叶えられるかもしれない(それが夢の恐ろしさでもあるのだが)。

いずれにせよ、自分が叶えたい夢があるのならば、それに向かって全力で走るしかない。

どちらに転んだとしても、真剣に取り組まなければ、大きなことを成し遂げられない。

ならば中途半端に続けるのではなく、期限を決めてでも、自分の道をしっかりと見極めることが大事なのだ。

とまぁ真面目に考える場面もあるが、前提は有川浩さん作、かつメディアワークス文庫なので(というのは語弊があるかもしれないが)、ストーリー自体も読みやすくて非常に面白い。

一人ひとりのキャラクターが光っているし、何より羽田千歳と春川司との掛け合いとか、劇団の女優と春川巧の人間関係とか、あぁ有川浩さんの甘い恋愛色が強い。

物語として気軽に読めるところもある反面、夢を追うことがどれだけ大変なことであるか、現実を突きつけられて考えさせられる。

絶賛2巻目も紐解いている途中です。それではまた次回!

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