見出し画像

【世界の駅めぐり#06】 アベス駅(フランス・パリ)

こんにちは。交通技術ライターの川辺謙一です。
今回は、「世界の駅めぐり」の第6回として、パリにあるアベス(Abbesses)駅をご紹介します。ここはパリの地下鉄(メトロ)で、出入口の構造がとくにユニークな駅として知られています。

■アールヌーヴォー・デザイン

パリのメトロには、出入口の構造がユニークな駅が複数存在します。これらの出入口には、アールヌーヴォーのデザインが導入されています。アールヌーヴォーは、19世紀末〜20世紀初頭にヨーロッパを中心に広がった国際的な美術運動です。

パリで最初のメトロが開業したのは、パリ万博が開催された1900年で、エクトル・ギマールが駅の出入口のデザインを担当しました。ギマールは、当時最盛期を迎えたアールヌーヴォーの巨匠とされる建築家で、当時の新素材であった鉄やガラスを利用した独特な出入口を設計しました。

ところが第一次世界大戦後にモダンデザインが広がり、アールヌーヴォーが廃れると、ギマールが設計した出入口は、後述する2駅をのぞいて取り壊されてしまいました。パリ北駅などに残る出入口は、ギマールが設計したものを複製し、再建したものです。

↓再建された出入口

画像2
画像3
画像4

■オリジナルの姿を残す駅

なお、2号線のポルト・ドフィーヌ駅と、今回紹介する12号線のアベス駅には、20世紀初頭に造られたオリジナルの出入口が現在も残っています。

アベス駅は、1912年に開業した駅です。鋳鉄やガラスを多用した独特なデザインの出入口は、取り壊しをまぬがれ、現在も残っています。

画像1
画像5
画像6

この駅があるアベス広場は、芸術家の街として知られるモンマルトルの丘の南側にあります。パリは平坦な場所が多いですが、この広場の周辺は地形の起伏が激しく、街全体が独特な雰囲気を醸し出しています。そのためか、アベス駅の出入口が街並みにマッチしているように私は感じました。

パリに行ったときには、ぜひメトロ12号線に乗ってアベス駅で降り、100年以上前の歴史がある出入口の階段を上がってみてください。地上に出てから振り返ると、そのデザインの斬新さがよくわかりますよ。

■探し求めていた駅

余談ですが、ここは私が探し求めていた駅の1つでした。

ガラスの屋根に、植物のような意匠を施した柱や梁。とても地下鉄の出入口とは思えないその魅力的な姿を写真で見て、どうしても現地でこの目で見てみたいと思ったからです。

私がその出入口の写真を初めて見たのは、学生時代のときでした。ただ、その写真を掲載した書籍には、パリの地下鉄の出入口であることだけが記されており、どこの駅のものか書かれていませんでした。また、当時はインターネットがなかったので、それ以上の情報を得る手段がありませんでした。

そこで1996年にパリを訪れたときに、現地の人に写真を見せて「これはどこの駅の出入口ですか?」と尋ねましたが、「知らない」と言われるばかり。宿泊していたホテルの従業員からは「パリのメトロには100以上の駅があるからわからない」と言われました。

それから23年。私は2019年にふたたびパリを訪れ、ようやくこの駅にたどり着くことができました。インターネットのおかげで、書籍に載っていた写真がアベス駅の出入口のものだったことがわかったからです。

長年探し続けたものに出会った瞬間の喜び。それは今も覚えています。


この記事が参加している募集

旅のフォトアルバム

一度は行きたいあの場所

よろしければ、サポートをお願いします。みなさんに楽しんでもらえるような記事づくりに活かさせていただきます。