「日本語の論文ばかり読むな」という教え
こんにちは。交通技術ライターの川辺謙一です。
私は書籍や記事を書く前に、国内だけでなく、海外からも情報を集めるようにしています。なぜならば、日本語で書かれた資料だけでは情報が足りず、物事の本質に迫れないことがあるからです。
この背景には、今から30年ほど前に受けた教育が大きく関係しています。
当時私は大学の工学部の研究室に属しており、そこの恩師や先輩から「日本語の論文ばかり読むな」「英語で書かれた国際論文をとにかくたくさん読め」と繰り返し言われ、必死になって国際論文を読むトレーニングをしてきました。
このことは、研究者の方々にとっては「ごく当たり前」のことに思えるでしょう。研究者の方々は、それぞれ読むトレーニングをされており、それを日々実践されているかと思います。
ただ、一般の方にとっては、その理由が分かりにくいことではないかと思います。そもそも論文をたくさん読む必要性を感じたこともない方がほとんどでしょう。
そこで今回は、一般の方に向けて、私が「日本語の論文ばかり読むな」と言われた理由や、現在も海外から情報を集めている理由をご説明します。
■なぜ日本語の論文だけではダメなのか
日本語で書かれた論文は、読む訓練をすれば、内容を理解することができます。例えば自然科学の論文の場合は、記述の順番が「研究の背景→目的→実験方法→結果→考察→参考文献」などとおおまかに決まっているので、専門分野における考え方や用語を把握できていれば、何が書いてあるかはわかります。
ただし、日本語の論文には以下のような弱点があります。
だから私は「日本語の論文ばかり読むな」と言われたわけです。
■英語の国際論文を読むとわかること
いっぽう国際論文は、世界中の研究者によって書かれています。現在国際論文で使われている言語は、ほとんどが英語です。
英語の国際論文をたくさん読むと、以下のことがわかります。
つまり、ある学術分野において世界中の研究者がどのような研究をしてきたかという歴史的な流れがつかめるだけでなく、自分がその流れの中でどのような役割を果たせるかという立ち位置を確認することができるのです。
私は恩師からこう言われたことがあります。
「たとえ日本で初めてのことだったとしても、たいてい海外にはそれを先にやっている人がいるんだよ」
私はその理由を、国際論文を読むことで理解できました。日本の研究者としてトップで走れたとしても、海外にはそれより先に走っている研究者がいることが多いのです。
ちなみに戦前における自然科学の研究動向を知りたければ、英語だけでなくドイツ語の論文を読むことをお勧めします。戦前にはドイツ語で書かれた貴重な論文が多数存在します。
■大学で学ぶ「作法」
このような論文を読むトレーニングをするには、その書き方や読み方に関する「作法」を学ぶ必要があります。また、それを効率よく学べる場所は、今のところ大学に限定されると私は考えます。
最近はインターネットの発達によって、多くのことをパソコンやスマートフォンを通じて学べるようになりました。ただ、論文の「作法」を学ぶという点では、今でも大学が大きな役割を果たしていると私は考えます。
だから私は、昨今よく聞かれる「今はネットで学べる時代だから大学なんていらない」という意見には賛同しかねます。なぜならば、大学で直接人から教えてもらうという、アナログな方法でないと身につかない知識があると思うからです。
■おわりに
なお、私は若いころ、英語の国際論文を辞書なしで読む力がありました。そうでなければ、メーカーの技術者として働くことはできませんでした。
しかし、技術者を辞めてフリーランスのライターになってからは、日本語の資料を読むことに忙殺されたため、英語力が著しくに低下し、海外の資料を読むのに時間がかかるようになってしまいました。使わない能力は時間と共にどんどん衰えてしまうのです。
このため今回は、しばらく英語から離れてしまった反省と、自分への戒めを込めてこの記事を書きました。少しでもみなさまのご参考になれば幸いです。
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