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川崎在住の男子大学生が生み出す、ご当地かんきつスプレー

2021年当時、高校3年生だった高橋淳音さんがアロマブランド「souveniraroma」を設立。昨年6月には川崎市内産のユズとミカンを用いてアロマオイルを蒸留する「かわさきカンキツオイルプロジェクト」が始動し、「ご当地かんきつスプレー」の販売がスタートしました。 “大学生アロマ男子”として注目を集める高橋さんのアロマとの出会いや、「ご当地かんきつスプレー」の制作秘話、好きを仕事にする方法まで、じっくりお話しを伺いました。

株式会社ノンバーバル 「souveniraroma」企画責任・高橋淳音さん

地元の柑橘類を使用することで生まれた地域との繋がり

——アロマにハマったのは、母の日のプレゼントがきっかけだそうですね。

小学校4年生の時に母親にプレゼントしたアロマディフューザーを自分でも使ってみたところ、香りの良さと、ディフューザーの灯りに癒されたんです。そこからアロマに興味を持ち始めて、中学生になった頃には自分で精油を買ってブレンドしていました。

友達から「あまり眠れないんだよね」と聞くと、寝つきが良くなるような香りの精油をプレゼントしたり、「こういう効果がほしいけど、この香りは苦手なんだよね」と聞くと、その人の好みに合った精油をブレンドしたり。アロマオイルのレシピって実はたくさんインターネットに載っているので、そういったものを参考にしながら自分なりに楽しんでいました。

——そんな日々を経て、アロマブランド「souveniraroma」の立ち上げに至った経緯を教えてください。

10代の男性でアロマにハマるって珍しいだろうなという認識があって、その特性を活かしたいなと思っていたところ、父親が会社を作ることになり、事業のひとつとして「souveniraroma」を始動させることになりました。

うちの父親は面白い人で、「会社を作ることになったから、やりたいことがあれば何でも言って」という連絡がLINEで突然きたんですよ(笑)。それで、アロマのブランドを立ち上げたいということと、もうひとつ、子どもたちが実際に触れて楽しめる実験キットを作りたいと提案しました。

結局、実験キットのほうは色々難しくて実現できなかったのですが、アロマのほうは2021年の秋頃に始動しました。

——設立にあたっては、どんな準備を?

仕事にするからには資格が必要だと思い、アロマテラピーインストラクターと、アロマブレンドデザイナーの資格を取りました。アロマテラピーインストラクターになるには履修が必要なので、高校に通いながら受講するためにもオーダーメイドで講座を組んでもらって、学校が休みの日に渋谷のアロマスクールに通い、資格を取得しましたね。

そのあとは、実際にアロマを販売するために、バルク(大容量)の精油を買って、瓶を仕入れて、瓶に貼るシールをデザインして…。

シールのデザインは高津区在住のデザイナーさんと一緒に考えたのですが、もともとの構想では、透明なシールに白い文字を印刷して青い瓶に貼るつもりたんです。でも、実際に瓶に貼ってみると気泡がシールにびっしり入ってしまって、とても売り物にできるような状態ではなかったので、泣く泣くシールの色を変更しました。

デザインにもこだわりがあって、視覚的にも存在感を示したかったですし、男女問わず気軽に手に取ってもらいたかったので、どうしても青い瓶を使いたかったんですね。その想いはずっと続いていて、今ある製品のほとんどは青い瓶を使用したものになっています。

男女問わず手に取ってもらえるように、見た目にもスタイリッシュさを心掛けた「souveniraroma」の商品。購入はブランドのホームページから可能。

——そして、ブランド設立から1年が経過した2022年6月、市内産の柑橘類を用いてアロマオイルを蒸留する「かわさきカンキツオイルプロジェクト」が始動しましたね。

それまでは仕入れてきた精油をブレンドして販売するだけだったのですが、ずっと精油も作りたいと思っていたんです。そんな時、精油を蒸留する釜を山梨のほうにお持ちの方が高津区にいらっしゃるということで繋がりができまして。

ただ、その釜は樹木系の精油を蒸留するために使用しているので、柑橘系の精油の蒸留には使えない、と。そこで自分用に釜を購入して、その方が使っている釜の横に自分の釜を置いてもらうことにしました。

——具体的には、どうやってユズとミカンの精油を蒸留するのでしょうか?

シュウマイの蒸し器を想像していただくと分かりやすいのですが、水を沸かした上にセイロを乗せてシュウマイを蒸すと、シュウマイの香りがしてきますよね。要はシュウマイの香り成分といいますか(笑)、それが蒸気に乗ることで香りが発生するんです。

原理は一緒で、蒸留窯にユズやミカンの皮を入れると蒸気が発生し、その蒸気を冷やして液体に戻すことで精油が抽出できるという仕組みですね。

川崎産のユズとミカンを使用した「ご当地かんきつスプレー」。ハンカチに吹き付けたり、空気中にサッとひと吹きすると、たちまち爽やかな香りに包まれる。

——肝心なユズとミカンは、どうやって集めたのでしょうか?

まず農協さんに相談したのですが、まとまった量が集まらなかったんですよ。というのも、ぶどうやナシを栽培している農家さんはいらっしゃっても、ユズやミカンを大量に作っている方がいらっしゃらないからなのだろうなと。特にユズは、何となく庭に生えているイメージってないですか?

——確かにそうですね(笑)。

それもあって、ユズが庭に生えているお宅を訪ねていって、捨ててしまうようなものも含めてユズを集めました。

ミカンは、高津区でミカンの栽培をされている武笠農園さんに協力していただき、ミカン狩り体験の際に出た皮を譲っていただいたり、川崎市内を回ってB級品のミカンを仕入れました。

ただ、アロマオイルの蒸留に必要なのは皮だけなので、実ごと集めた柑橘は皮をむく必要があるんですね。そこで地域の子どもたちに皮をむいてもらうイベントを開催したんです。50kgを超える柑橘を会場に持って行き、子どもたちには「中味を食べていいよ〜」と言いながら楽しく皮むきをしてもらいましたね。

——地元の素材を使用したことで、様々な繋がりが生まれた、と。

そうですね。柑橘類の精油って、ほかの素材に比べて劣化が早いので、収穫したてのものを使えば新鮮な香りが楽しめることが分かっていました。それで、地元の柑橘類を使いたいという想いがもともとありましたし、実際に蒸留をして出てきた精油の香りを嗅いだ時、新鮮さに驚いたのを覚えています。脱炭素という意味で言うと、単純に輸送の時間が少ないので、環境への負荷が低減されるのも良いことですよね。

——脱炭素の問題も含めて、企業としてサステナブルな取り組みへの意識が必要とされる時代ですが、こちらのブランドは福祉活動にも貢献しているそうですね。

父が地域活動をおこなっていたので、子どもの頃からいわゆる地域包括的な活動に触れる機会が多かったのが大きいと思います。このブランドを立ち上げる際にも、地域に何か還元できるといいよねという話になり、福祉事業所に瓶詰めをお願いする流れができました。

その福祉事業所では、これまでも色々な商品を作って販売していたそうなのですが、コロナの影響もあって販売の場が減ってしまい、在庫をたくさん抱えているとお聞きしたんですね。だったら我々が頑張って製品を売れば還元できるのではないかということに気付き、「ご一緒しませんか?」と声を掛けさせていただきました。今は瓶詰めだけでなく、川崎市のふるさと納税の返礼品になっている「セーフティ・ドライバーセット(車載用アロマセット)」にも協力していただいています。

福祉事業所の関連で武蔵溝ノ口駅でおこなわれたイベントに出店した際には、「このアロマ知ってるよ!」とお客様から声を掛けていただくことも増えてきて、少しずつですが地元の方に認知していただいていると感じます。継続は力なりじゃないですけど、続けてきて良かったなと思うことが最近になってすごく増えましたね。

瓶詰めやシール貼りは、地元の福祉事業所の皆さんが担当。

——地元・川崎の特性を生かした商品開発にも積極的な高橋さんですが、ブランドの経営と同時に大学にも通っているということで、毎日がとても忙しいですよね。

大学では1週間に1本レポートを書かないといけないので、夜まで実験をして、少し仮眠をとって、朝までにレポートを仕上げるといった生活が続いています。もっと計画的にやればいいのにと自分でも思いつつ(笑)、なかなかまとまった時間をとるのが難しくて。忙しくはありますが、有機化学の授業で香りの話などが出てくることもあって、大学生活も楽しいです。

——ストレス発散法は、やはりアロマを楽しむことでしょうか?

香り自体を楽しむこともありますし、香りの商品を探索する時間が楽しみでもあります。自分が作っているものだけが良いと信じ込んでしまうと、自分の殻からいつまでたっても抜け出せないので、今はこんな香りが流行っているんだなとか、こんな商品が喜ばれているんだなといったふうに、世の中の流れを知るようにしています。

今って香りをテーマにしたインテリアが増えていて、インテリアショップを見て回るだけでも勉強になるんですよ。大学も仕事も確かに忙しいですが、もともと趣味を仕事にしているので、忙しさを苦に思うことはありません。

——ちなみに、高橋さんのように好きを仕事にするには、何から始めれば良いと思いますか?

私の場合は、積極的に自分のやりたいことを人に発信したり、声が掛かれば動いたことが大きかったと思います。この間、母校の小学校でキャリア教育に関する授業をさせていただいた際に、「自分がやりたいことを主張するのはなかなか難しいけど、興味を持ってくれる人は必ずいる。だから声に出して言ってみよう」と子どもたちに伝えました。中には何も言えない、言わない人たちもいると思いますが、恥ずかしがらずに人に伝えることが夢を叶える第一歩なのではないか、と。

私自身も自分から「これがやりたい!」と父に提案したことがきっかけでアロマブランドの設立が実現したので、やりたいことがあれば自分の言葉でちゃんと発信していくことが大事だと思います。

声に出した後は、具体的なゴールに向かってひとつひとつ積み上げていくことも大事ですよね。極端な話、何も始めていないところから「売上を1億円にしたい!」と言っても無理な話ですし、いきなりゴールが高すぎると途中で挫折すると思うんです。なので、そこにいくまでに何をすべきかを逆算していって、小さなゴールをひとつひとつクリアしていくことを意識しています。

——では、現時点での夢は何でしょうか?

アロマは対面で手に取ってもらって実際に体験していただくのがいちばん効果的なので、地元のお店に商品を置いていただいて、例えば月に何度か私がそちらに出向くなど、お客様と対面する機会が増やせるといいなと思っています。あとは、アロマを使ったワークショップもおこなってみたいですね。

事業を拡大するにあたって、製品が自分の手から離れていくのは必然だと思うんです。でも、自分の想いを100%誰かに引き継げるかというと、それは難しいだろうなと思っています。なので、今は自分の手の届く範囲でやれることを全力でやって、そんな自分に共感した方が「souveniraroma」を気に入ってくだされば、こんなに嬉しいことはないと思っています。

「好きを仕事にするには、自分のやりたいことの発信や行動力が大事」と話す高橋さん。地元の子どもたちにも「自分の夢を恥ずかしがらずに人に伝えてみよう」と伝えているとのこと。

書いた人・佐藤季子
編集プロダクション勤務を経て、音楽誌や演劇誌などエンタメ系の雑誌でライターとして活動。地元・川崎市では、麻生区の地域情報サイトロコっち新百合ヶ丘、小中学生で結成された麻生区SDGs推進隊(一般社団法人サステナブルマップ )の運営メンバーとして活動中。