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失われた歴史と日本人の心の闇



しばやん著『大航海時代にわが国が西洋の植民地にならなかったのはなぜか』という本を知っていますか?

その本によれば答えはこうです。
当時、世界中を荒らしまわっていたスペインやポルトガルが、多くの国々を簡単に侵略できたのは、刀と弓矢ぐらいしか武器を持たない国が大半だったからです。
しかし日本は鉄砲伝来の翌年には鉄砲の大量生産に成功していて、16世紀の末には世界最大の鉄砲保有国になっていました。
西欧勢力は植民地にするはずだった日本が大量に持っていた鉄砲や、西洋のものよりも優れた鎧や日本刀に歯が立たないという想定外の事態に直面することになった‥‥。

つまり、西欧列強には、日本を植民地にするのは困難な事情や背景があって、日本を植民地にすることは出来なかった‥‥というのがどうやら史実であったようです。

こう聞くと、「日本人はアジア人種のなかでも特別に優秀なのだから当然」などと考えるひと達が大喜びしそうな本みたいですが、これはそんな内容の本ではありません。
この本では、初っ端からポルトガルなどによって数十万人の日本人が奴隷として海外に連れだされていたという、寝耳に水の絶句するような話が、現地に今も残る記録や文書、その当時に海外を訪れた日本人の証言や書簡などをもとに語られることになります。

日本人奴隷について、戦後わが国で新聞や雑誌などで語られることはほとんどないが、戦前には西洋の世界侵略の実態については様々な研究があり、多くの書籍があったようである。
しかし昭和21年から23年にかけて、GHQによって市中に出回っていたその種の書籍がほとんど焚書扱いとされて本屋の書棚から消え、今ではわが国で西洋の侵略や奴隷制について語ること自体がタブーのようになってしまった。

©️しばやん著『大航海時代にわが国が西洋の植民地にならなかったのはなぜか』より引用


日本人奴隷についてほとんど知られていないのと同じく、日本人は戦後、不完全で間違った歴史を擦り込まれているようなのです。
正しい記録や研究書の類は戦後GHQによって焚書あつかいとされ、鎖国政策の真実も知らされていなければ、当時の日本の立場や状況も、植民地化されずに済んだ本当の理由も知らない。
キリシタン弾圧の目的が、日本を植民地にしようと企てるスペインやポルトガルとの戦いであり対抗策だったことも、大半の日本人は知らない‥‥そういう内容が書かれています。

これは著者の妄想話ではなく、日本が植民地化されず、アジアで唯一スペインやポルトガルに対抗できた背景や、豊臣秀吉や徳川家康によるキリシタン弾圧に朝鮮出兵、禁教令や鎖国にも、きちんと目的や理由があったことを、現存する記録や文献等の資料をもとに著者が書いたブログをまとめた本だということです。

こういう暗い話は知る必要がないと考える人もいると思うが、このような史実を知らずして、なぜわが国でキリスト教が禁止され、何故キリスト教信者が弾圧されたかを正しく理解できるとは思えないのだ。

©️しばやん著『大航海時代にわが国が西洋の植民地にならなかったのはなぜか』より引用



鎖国について、わたしは以前から不思議だったんですよね。
いくら日本が「来ないで」と言ったって、キリスト教の布教や交易目的の外国人は勝手に来ただろうし、もし大砲を積んだ外国船が侵略目的で次々にやってきていたなら、鎖国を理由に撃退するのは難しかったんじゃないのかと。

当時のスペインやポルトガルが、日本を植民地にしようと執拗に宣教師を送りこみ、ついで商人を送りこんで貿易関係をつくり、最後に軍隊を送りこんで侵略しようとしていたことなど、史実として残されていたはずの記録が、戦後の日本の歴史書からはごっそり欠落しているらしいのです。

外国の干渉を排除するためにキリスト教の禁教が不可欠だったとすれば、キリシタン弾圧なども、学校で習った歴史とはぜんぜん違った絵が見えてきませんか?
西欧列強のやりくちは巧妙で、日本侵略に、日本の「キリシタン大名」を自分たちの戦力とするつもりでいたらしいなど、この国が徹底的なキリシタン弾圧や鎖国を選択していなければ、日本も他の国々と同様に西欧列強の植民地にされていてもおかしくなかったのです。

ここまで読んで、ならば西欧列強に太刀打ちできる力があったはずの日本人が、外国に奴隷に売られたりするのはおかしいと思いますか?
でもそれは「誰が」日本人を奴隷として売り払ったのかによると思うんですね。

日本人を二束三文で外国の奴隷商人に売り払ったのはおなじ日本人です。

イメージ的にも、そんな非道なことをするのは日本を侵略にきた外国人だと思いたいところですが、豊臣秀吉が天下統一を果たすまで、日本は戦国時代の只中にあったのです。
つまり、長年おなじ日本人同士で、敵と味方に分かれて闘い続けていたわけで、この話には、その辺りの事情が大きく関係しているのです。


勝って領地を奪う側がいれば、負けた側は全てを失うことになるのですが、では、負けた側の生き残りの領民はその後どうなったと思いますか?
ポルトガル人に買われていったのは、戦火に追われた多くの難民や貧民でした。

薩摩軍が捕虜にした豊後の領民の一部は肥後で売却されたのち島原半島に連れていかれ、外国に売られていった人々の数は「おびただしかった」とある。1589年の記録では豊後領民は、戦争で死亡したり、疫病や飢饉に陥った以外の人々は、敵の捕虜とされ、薩摩や肥後に連行されたのちに売られていったとあり、この時期だけでも豊後で万単位の人々が奴隷として売却されたと考えられる。

©️しばやん著『大航海時代にわが国が西洋の植民地にならなかったのはなぜか』より引用

スペインやポルトガルが日本を植民地にしようとやってきた頃には鉄砲が量産体制になっていたのも、日本で改良を加えてより高い性能の銃で武装した大人数の鉄砲隊がいたのも、それは国内でつづいていた戦争のためでした。
キリスト教を持ちこんだ西欧との交易は、鉄砲に必要な火薬や硝石を手に入れるためで、それらと「敵の捕虜」を交換すれば、自国(藩)の武力を強化できたのです。
どんな手段を使ってでも武力を強化し続けなければ、次に自分たちが負ければ、今度は自分たちの領民が奴隷に売られてしまう‥‥この事態の当事者だった人々は、そんな考えにとらわれていたのかもしれません。

じつはこの本には、日本人に対する西欧人の酷い見解が書かれていているのですが、気になるひとは自分で本を読んでください。



奴隷として海外へ連れて行かれた者のうち、兵士として戦える者は日本人傭兵として重宝されたようです。
国内でずっと戦争していたので、農民の中には、いくさに駆り出されて雑兵として戦った者や、鉄砲隊で戦った経験がある者もいたのでしょう。
実戦経験がある即戦力の兵士を、おなじ日本人が二束三文で売ってくれるわけですから、スペインやポルトガルが奴隷として買ったかれらを利用したという話にも説得力があります。

陸続きの国で構成された欧州世界の常識が通用しない国‥‥それがその当時の日本だったようです。


さらにいうと、もともと日本では立場の弱い人々の人権が軽んじられてきた歴史があります。
それは今でも女性軽視やジェンダー不平等、ホームレスや生活保護受給者叩き、死亡者がでて大問題になった入管による不法滞在の外国人に対する非道な扱いなどにも見てとれます。

ホームレスや生活保護受給者はイラナイデショ的な発言で炎上中のメンタリストがいますが、さすがはメンタリストというべきか、一部の日本人にはそういう考えを持ちやすいひとが少なくないのを読んだのでしょうか?
無論、わたしは彼の意見に賛同などしませんが、この件は発言の内容よりも、彼が発信するタイミングを間違えた結果、炎上騒ぎになったのだろうと考えています。

少し前なら、こういう意見に同調するような人々をSNSでよく見かけたように思うのですが、わたしの記憶違いでしょうか?
以前、お笑い芸人が家族の生活保護受給問題で叩かれたり、安倍政権時代の生活保護費の削減に賛成して弱者を叩きまくったひと達がいますよね。
その頃ならどうだったでしょうか?
弱い立場のひとを叩きまくったかれらは、今では自分の過去の言動を都合よく忘れて、今度はメンタリストを叩いていたりするのでは?

哀しいことですが、どうやら日本人にはそういう習性がある人々も少なくないんじゃないかと思うのです。
でも、長いものには巻かれろ、多数派こそ正義、これらが自己保身に端を発した生きるための知恵みたいなものだとしたらどうでしょうか?
孤立して差別やいじめの標的にされるぐらいならと、主義や信条は二の次にしてでも、安全を選んで多数派に同調してしまう心理を一方的に責められますか?

これは今でもいじめ等によく見られる構図で、幼い子供から大人や老人の全世代で見られます。
「敵」と見做した同胞を、二束三文で奴隷として売るような行為も、根本にあるのは似たような意識や考え方ではなかったかと、これは著者ではなくわたしが思うのです。


まぁこの本の内容をすべて真に受けるのもどうかと思いますが、安倍政権のモリ・カケ・サクラのような記録の改竄や証拠隠滅によく似た、GHQによる正しい歴史を記した本の焚書や記録の破棄後に、この国の歴史の改竄があったのはほぼ事実のようです。
が、日本の記録の大半は失われても、当時のやりとりの書簡や売買の記録は外国側にも残っていて、現在も保存されているものがあるらしく、調べることは可能なのです。

この本によると、鎖国の実態は、わたし達が学校で教わった内容とはかなり違っているようです。
ほかにも、学校で教わった日本史に、な〜んか引っかかる、意味が通じない、辻褄が合わない‥‥そんなふうに感じた経験があれば、そうだったのか!と、この本を読んでようやく合点がゆくかもしれません。
少なくともわたしはそう感じました。

この本は「読んで楽しい」気分になれる本ではないのですが、都合の悪いことは知りたくない、忘れてしまえ!というのでは、我々が常づね批判している安倍某やその支持者とおなじです。
それに、隠され、失われていた史実の情報が新しく加わることで、世界的に見てもレベルが低すぎる日本のジェンダー不平等や人権軽視について、今に始まったことではないことにも気づかされ、これまでとは異なる角度から考えるきっかけにもなります。

『大航海時代にわが国が西洋の植民地にならなかったのはなぜか』は、AmazonのKindle Unlimited(読み放題)の利用で安く読めるみたいです。
気になったひとはチェックしてみてはいかがでしょうか。


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