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ヴァイオリン コンサート


ヴァイオリンの音律は孤高のものである。気高く、気品がありながら凛子とした情趣、音律が屹立する優雅!
あゝエレガンス、そう、優雅がある。人を寄せ付けない孤独な響きがある。悲劇的な哀調も韻律するが、庭辺から差し込むうららかな陽のような落ち着いた優雅もある。典雅… そう典雅な音色である。クラシカルに響き渡る音律…

崇高に軽快に悲劇的に鳴り渡る。その音色の屹立を聴くと、僕はその音色に取り憑かれたものだ。
あの気高きエレガンスは他の楽器にはついぞ認められないものだ!
それにあの高貴には苦い情趣も潜在している… 古い苦い情趣がかの音律に漂うている。伸びやかでいて高貴な音色なのだが、その内にある一種の苦い古風な味わいが潜んでいるのである。音色に漂うているその古雅に僕はうっとりしたものだ。

僕は楽器の韻律したる音色から、西洋の中世の街並みが呼び起こされたものだなあ。都会の高貴とした建築… その中で奏でられるノスタルジア! かの西洋人の美意識に韻律していた類の音楽を僕は聴いたのだ!
重層とした音色に僕の鼓膜は打ち震えていた。楽器があれほどまでに群集し音律すると、やはりその音色も重層としたものになるのだなあ。
あゝ僕の待っていたヴァイオリンである!僕は歓喜したものだ。
あの短調の哀愁を、悲劇を、哀調を! 僕は戦慄した。狂い鳴くヴァイオリンの悲劇的情趣に身を震わしていた。悲壮的で、舞台的で、悲劇的で、惨憺とした人生の音色である! こうもヴァイオリンの音色は人生の悲愴を反映するものか!我が魂はその悲愴に打ち震えていた。

かの楽器は欧羅巴の乾燥とした空気と調和するように思われるなあ。この温暖のいかにも湿気に充満した日本の島の風土に、ヴァイオリンのような乾いた音色は調和しないように思われる。
かの西洋的音色が自在に鳴り渡るのは、やはり渇いた空気においてである。音色はその土地の風土と調和するように韻律し、創造されたるようである。

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