読書記録: 旅するフォトグラファー
「3月のライオン」という漫画に、主人公が「あの日が今の自分の一部を間違いなく作ってくれた」と言う場面がある。(正確には覚えていないけど、確かそのようなニュアンスのこと)人生でそういう瞬間や出会いは数多くあるけれど、この本を読んだ時に思い出したのは、そのセリフだった。
大学生の時、MIKA POSAという写真家の写真集をよく見ていた。彼女が撮るパリのこどもの表情が大好きで、どうしてこんなに子どもたちの表情が自然なんだろう、どうしてこんなに漂う空気が心地よいんだろう、と思いながらページをめくっていた。2019年の秋にパリを旅した時、美しい風景にウキウキしながらも、ここでMIKA POSAさんは撮影してたんだ・・・・とふと思い出してたっけ。
さて、この本はそんな彼女がどうやって写真家になったかを記した本だ。「ピンチはチャンスに変えられる」というのが帯タイトルで、読む前はドラマチックな映画のストーリーが詰まっているんだろうと予想していた。だけど、実際に読んで分かったのは、大手金融機関の破綻をきっかけにから写真家に方向転換したのは確かに映画のようだけど、一方で小さな出会いの数々が彼女という一人のアーティストを創ったということ。そしてそんな出会いを大切にした結果が、私の好きな写真だったということ。
例えば、東京から静岡、東京から新潟とで自転車で旅をした二人の友人、タヒチの食事の度に花を耳に飾る「正装」の文化。ムーミンの作者・トーベヤンソンの信条、スヌーピーのDVDにあるメイキング映像、モロッコの交渉文化、ピタゴラスイッチで有名な佐藤雅彦さんのコラム、新宿の飲み屋でたまたま居合わせた作家・・・・日々の無数の出会いが、彼女の選択に、思考に、生き方に、そして作品に繋がっていく。
写真学校などにいったことがなく、会社勤めだった自分の経歴がコンプレックスだった彼女。でも「どうりで仕事しやすいと思ってたんですよ」とお客様に言われ、「引け目に感じてた」過去が「評価」となっていた場面はすごく印象的だ。まだ未来が全く分からなかった大学生の時、私はこの言葉で一般企業への就職を決めたのだった。この言葉がその後の3年間の予備校勤務につながったのはやっぱり不思議だし、今でも感謝している。
岩波ホールというミニシアター系の映画館の館長をされていた、高野悦子さんの本で彼女が出会った言葉も忘れられない。(正確には、高野さんの師匠にあたる方のお言葉)
「人は病院に行くほどではなくとも、普段疲れるときもある。その時に芸術に触れることで元気をもらったり穏やかな気持ちを取り戻すから、芸術は生きている上で何よりも大切なものである。」その文章を読んで迷いが無くなり、自信をもって写真に取り組む決心が出来たのだそうだ。それこそ私はその彼女のエピソードにまた勇気をもらい、涙が出そうになった。歌やダンスを愛する私にとっては、その好きな理由を再確認した瞬間だったから。
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