北極圏・ラップランドひとり旅 1日目
September 13, 2019
Narita - Helsinki
2019年9月13日。
成田発、フィンランド ヘルシンキ行きの飛行機はあっけなく飛び立った。
身体に重力を感じながら、飛行機の車輪が滑走路を離れ、空へと上ってゆく。子どもの頃から飛行機にはよく乗っていたので、この感覚は好きだった。
大学生になってアルバイトを始めると日本各地を旅して回った。卒業して入った会社も出張が多く、2週間に1回は飛行機の窓から東京の空を眺めていた。
それでも。海外行きの飛行機に乗る時は少しだけ緊張する。
今日から4週間、ひとりで旅に出る。どんな景色が待っているのか。帰ってきた時、僕は何を考えているのか。窓の外の、小さくなってゆく建物や山を眺めながら、そんなことをぼんやりと考える。
僕の乗った日本航空にはこれから旅行に行く多くの日本人と、日本での旅行を終えた外国人が少しだけ乗っていた。機内アナウンスは日本語で話され、機内食も日本食だった。多くの日本人に囲まれていたせいもあり、あまり海外に行く実感がわかない。飛行機の翼にも日の丸のサインが描かれている。ちょっと長めの国内線に乗っているような感覚。沖縄に行くような。
僕の隣の席には少し年上の女性が座っていた。彼女は歩いてきたキャビンクルーにワインを注文しつつ、食事の時に飲んでいたワインの空瓶を渡していた。僕はウォッカとオレンジジュースを頼んでスクリュードライバーを作っていたので、「お酒好きなんですか?」という質問をされたのは自然のことだったかもしれない。
話してみると彼女はフィンランドが好きで何度も旅行に来ていると言う。今回はヘルシンキに住む友達に会いに行くらしい。僕の旅の予定を教えると、「4週間も旅ができるなんて羨ましい!まるでスナフキンみたいですね!」と言われ、機内でのあだ名が決まってしまった。僕はあまりムーミンを知らないので反応に困ったが、悪い気はしなかったのでそのままスナフキンさんと呼ばれることにした。
ヘルシンキに着いたのは午後の3時。日本から約10時間、窓の外はずっと明るかった。これまでヨーロッパに行く時は夜中の飛行機に乗ることが多かったから、太陽と一緒に飛んでいるのは不思議な感覚だった。日本にいればもう夜の9時だけど、ずっと昼が続いている。
入国審査をパスし、「日本に帰ったらまた会いましょう」と言葉を交わして隣の席の女性と別れる。電車に乗り換え、ヘルシンキの中央駅へ。空港からは30分ぐらい。首都の駅にしては小さく、上野駅ほどの大きさだった。
ヨーロッパの鉄道は大体そうだけど、やっぱりこの駅も改札がない。街と駅の境界線がないからホームで犬の散歩をしている人もいる。日本では多分怒られてしまう光景だけど、所変われば常識も変わる。こんな時、ああ、旅に来たんだな、と思う。
電車を降りてすぐ、市内にあるアウトドアショップへ向かった。日本から履いてきた登山靴に中敷を入れ忘れていたからだ。
アウトドアショップはヘルシンキ中央駅から歩いて5分もかからないところにあった。しかも2軒。道路の向こうとこちら側に店を構えていた。向かい合わせの2軒を行ったり来たりして登山靴の中敷と国立公園のトレイルマップを手に入れる。中敷は痛い出費だったが、これから4週間も旅をするのだから靴は大事だ。背に腹は変えられない。
アウトドアショップを出てトラムに乗り、予約したゲストハウスへ向かう。ゲストハウスはヘルシンキの街外れにあって、観光名所のヘルシンキ大聖堂とウスペンスキ寺院を横目に見ながらトラムの終点まで乗った所にあった。雨上りなのか、濡れた地面やトラムの窓に残る水滴が美しい。
ゲストハウスに着いて荷物を置くと、同室のインド人が「日本人?台風大変だったね」と話しかけてくれた。
数日前に日本を襲った大きな台風のニュースを見たらしい。台風の被害は激しく、鉄道が水没して動かなくなったり、高速道路がストップして成田空港が陸の孤島になった。海外でも話題になり、彼もテレビでそのニュースを見たらしい。僕は台風が落ち着いてからの出発だったけど、もしあと数日早かったら飛行機は飛ばず、予定を大幅に変更しなければならなかった。タイミングが良かった。
彼と少し話してから「出かけるからまたね、よい夜を」と挨拶をし、もう一度トラムで市内に向かった。ゲストハウスはこういう会話があるから好きだ。
再びトラムに乗り、街の中心にあるOodiという図書館に向かった。
日本を発つ前、ネットで「世界一の図書館」という記事を読んだ。Oodiはその記事の中で1位に輝いていた。フィンランドの独立100周年を記念して作られた公共の図書館で、誰でも無料で入れる。
図書館は夜遅くまで開いているらしく、沢山の人が出入りしていた。本を貸し出すだけでなく、VRやeスポーツ、3Dプリンターやレコーディング機材が揃った部屋もあった。もしかしたら利用料がかかるのかもしれないけど、誰もがアクセスできる場所にこういう設備があるのは素敵だな。
本棚のすぐ隣には子どもが遊ぶためのスペースがあって、子供を遊ばせながら本を選んでいるお父さんがいたり、大きなテーブルで何かの勉強会が行われていたり、会話を楽しんでいるカップルがいたり、静かにすることが多い日本の図書館ではあまり見ないような光景が広がっていた。全体的に木がふんだんに使われていて、優しさとか柔らかさを感じる空間だった。こんな図書館が近所にあったら通いたい。
本を読みながら過ごしているとすっかり外が暗くなっていた。図書館を出てスーパーでマカロニサラダとポテトサラダを買う。
ヘルシンキは小さな街だからそんなに迷うことはなさそうだ。今日1日でなんとなくトラムの乗り方は覚えたし、右側通行の車にも注意して歩けるようになった。iPhoneに挿すSIMカードも手に入れたからどこでも調べ物ができる。一番心配だった物価は東京と同じぐらいで思ったよりも高くなかった。でも4週間もある旅だからちゃんと節約はしなきゃ。
今日から4週間、一人きりの旅をする。
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